「へえ、今年は結構入ってきたな」
「そうか?」

隣の友人は興味なさそうに本に目を落としている。
全くつまらない奴。
俺は、もう一度教室の窓から後者を見下ろした。

桜が舞う中、新入生達が憂鬱そうな顔で校門を潜り抜ける。
まだまだ中学生らしさが抜けない、あどけない少年ばかり。
結構かわいらしいのが多い。
その中から、俺の獲物を探す。
在学生の中の奴は、もう飽きた。
目ぼしいのは全員喰った。

全寮制の山奥の男子校なんて、はけ口がそれぐらいしかない。
街に出れば女も喰えるが、近場でヤるのは問題が起こるし、面倒くさい。
てっとり早い性欲処理は、その辺の奴でいい。

ちまちまとした新入生。
そこそこかわいいのはいるが、とびきりかわいいってのもいない。
まあ、こんなものか。
こんなところに来るような奴だしな。
とりあえず適当なのを見つくろって、やるか。
これで3カ月ぐらいは飽きないだろう。

そうして、教室内に目を戻そうとするその時。
俺の目の端に、それが映った。
校門のあたりが、ざわめきが走る。

一際強い風が吹いて、桜がカーテンを作る。
そいつは、桜から身を庇うように手を目の前に掲げる。
そして、風が止む。
髪についた桜を一つとって、そいつは笑った。

色素の薄い、柔らかそうな髪。
同じく色素の薄い、大きな瞳。
白い肌。
まるで計算されたように、配置された完璧な目鼻立ち。
誰もが目が奪われる、儚げな美貌。
抱きしめたくなる、頼りない笑顔。
守って甘やかしたくなる、小さな体躯、華奢な手足。

女みたい、なんて言葉も出てこない。
女以上に、かわいい。
女でもあんなのはめったにいない。

「………いた」
「あ?」

俺の言葉に、隣にいた柳瀬が本から顔を上げる。
窓から指をさす。

「あれ」
「………ああ、あれか」

ちらりと視線を向けて、すぐにどれか分かったようだ。
有象無象の黒い制服の中、そいつだけは際立っていた。
そこだけ世界が切り取られたかのように、空気が違う。

「あれにした」

俺は断言する。
あれを俺のものにする。
あれは俺のものだ。
あいつを組み敷いて、俺の精液だらけにしてやる。
考えただけで、ゾクゾクする。

「………あれは、やめておいた方がいいと思うがな」
「は?何お前も狙ってるの?」
「いや、まあいい。あと、ちゃんとお目付け役がいるようだぞ」

その言葉で俺は再度そいつに目を移す。
するとあいつの隣にいた男が、桜のついた髪に手を伸ばす。
頭ひとつ高い、清潔そうな男。
姿勢がよくぴんと背筋を伸ばし、眼鏡をかけて神経質そうな生真面目な表情をしている。
体裁きから、何か武道でもやってそうだ。
なるほど、お目付け役ね。

桜をとって、男はあいつに話しかける。
あいつは楽しそうに笑った。
親しげな空気に、かすかな苛立ちを感じる。。

「なんだ、あれ」
「どうやら連れのようだな」

こんな学校にツレ付きでやってくる。
どんだけ箱入りのお坊ちゃんだ。
まあ、ボディガードもつけずにこんなところ入れたら穴だらけにされそうだけどな。
あんな小動物。

「まあいいか、障害が多い方が燃えるしな」
「秋庭って、馬鹿だよな」
「ケンカ売ってんのか、お前」
「いや、まあ、止めないけど」

煮え切らないよう言葉を残して、柳瀬は再度視線を本に落す。
相変わらずはっきりしない男だ。
しかし今は柳瀬より、あいつだ。
あいつを俺のオンナにする。

とりあえず下調べから始めるか。
あんまりいいとこのお坊ちゃんで、手を出してまずいことになっても困るしな。

「待ってろよ、かわい子ちゃん」
「言語センスが昭和だな」
「うるさい」

柳瀬に文句を言って、それでもこれからの楽しい日々を思って、俺は自然と笑った。






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