で、まあ、その日は言った通り桜川は不在で。 なんとなく手持無沙汰になってしまった。 桜川がいない時の休日は、何をしていただろう。 最近は桜川と勝負をするのが、日課のようになっていた。 街に出るには中途半端だし、特に何かすることもない。 目ぼしいやつはすでに寮にはいないし、女ひっかけるのも面倒だし。 柳瀬はいつも通り一人で消えた。 まあ、あいつと出かけるってのはないな。 なので部屋で昼過ぎまでうだうだ過ごしてから、なんとなくフリースペースまでやってきた。 そこには同じように休日を持て余した奴らがたむろしていた。 その中の一人が、俺に気付いて顔をあげる。 「あれ、零、珍しいね。どうしたの」 「よお、蔵元。なんだよ、珍しいって」 「最近、外にも行かないし、あんまここでも見かけなかったからさ」 「………そういや、そうか」 言われて、愕然とする。 それほどまでに、俺はあいつと一緒にいたのか。 そしてそれに何も違和感を感じなかったのか。 今まで、一人の奴とずっと過ごすなんて冗談じゃないと思っていたのに。 いや、違う。 これは違う。 単に俺は負けるのが嫌で、それまではあいつに向かっていくしかないってことだ。 そうだ。 そういうことだ。 これは男のプライドの話だ。 「何、暇なの?」 一人ぐるぐるしていると、蔵元はソファから上目づかいにこっちを見てきた。 アーモンド型の目の形が綺麗で、大人びた表情を見せる奴だ。 俺はさっきまでの考えを振り払い、正直に答えた。 「すんげー暇」 「んじゃ、ちょっと遊ぼうよ」 そう言って、そいつは周りの奴らにひらっと手をふるとこっちに駆け寄ってきた。 腕をひっぱられ、寮の部屋の方へ連れて行かれる。 特にフリースペースに用事があった訳じゃないので、俺はそれに従った。 「なんだよ」 「いやー、女と別れちゃってさ。たまってるんだわ。やんない?」 「ああ?」 桜川ほどではないが綺麗な顔をしていて、性欲処理の相手にしていた奴だ。 男も女も男役だろうか女役だろうかなんでもいいフリーダムな奴で、あっちも中々よかった。 嫌がる奴を無理やり抱くのも好きだが、こいつとのセックスはドライで楽しかった。 俺も新しい相手にハマって、こいつも彼女が出来たとかでしばらく遠ざかっていたが。 「うーん」 普段なら、暇だったら来るもの拒まずで誘いにはのった。 だが、今回はなんとなく食指が動かず、考え込む。 蔵元は俺の芳しくない答えに、口を尖らせた。 「何、ダメ?本当にあの新入生一筋になっちゃったわけ?」 「ああ!?」 「ったく、お前も受け専かよ。たまにはガツガツやられたかったのにさー。女もいいけど、ネコもやっぱ気持ちいいしさあ」 「誰が受け専だ!!」 ものすごい心外なことを言われて、俺は思わずその背中を蹴り倒したを。 蔵元は前につんのめり、不服そうに背中をさする。 「だってそうなんだろ?あのかわいい新入生の女にされたって噂だぜ?」 「誰がだ!てめえ、オナホール代りにガバガバにすんぞ」 その襟首をつかんで締め付けると、蔵元はにやりと綺麗な顔を歪めた。 そして、俺の顔をつかんでキスをしてくる。 「そうこなくっちゃ。零ので、ぐっちゃぐちゃにしてよ。ザーメンで俺の腹ん中いっぱいにして」 そう言って上目遣いで笑う蔵元は、やっぱこう色気があって。 そういやこいつ、女抱くときはSだけど、抱かれる時はMだったよなあ、とか思いだして。 で、こいつのケツはかなり具合よかったよなあ、とか思いだして。 やっぱり俺は男な訳で。 抱かれるのはそりゃ気持ちいが、もともとタチなわけで。 桜川の女にされるなんて冗談じゃない訳で。 で、こいつの誘惑に、もよおしてきちゃったわけで。 だって、若い男だし。 まあ、おいしくいただきました。 「うーん、やっぱいいよねえ、たまには突っ込まれるのも」 「………お前、底なしすぎ」 「悪い悪い、たまってたんだって。いやあ、すっきりした」 まるでスポーツでも終わった後のように爽やかに笑う蔵元に俺は疲れ果てて溜息をついた。 蔵元は本当にたまっていたようで、逃がしてくれずに3発やった。 何もかも吸い取られた気分だ。 まあ、確かに久々の男役は気持ちよかった。 これが桜川だったら、と途中ちょっと考えてしまって余計に興奮した。 やっぱ俺は抱く方が向いている。 抱かれるのは、まあ、気持ちいいがやっぱり征服されるより征服したほうが精神的に満足する。 「でも零、ちょっとセックス変わったね。なんか優しい感じ」 「俺はいつでも優しいぞ」 「やっぱ、ネコを経験すると変わるのかな」 「あのなあ!」 いやもう、寮中に知れ渡っているから今さら何だが。 それでからかうような奴は叩きのめして黙らせた。 しかし、こいつは嫌みじゃないだけに、何も言えなくなる。 「お前も、ネコだけだと飽きるだろ?たまにはやろうよ」 「だから俺はネコじゃねえ!!」 「まあまあ、気持ちいいのはしょうがないって」 人の話を聞かずに、蔵元は身支度を整えて部屋を出る。 いつもの、空き室だ。 なんとなしに落ち着かない気分で、俺も身支度を整えた。 部屋は、後で誰かに掃除させよう。 「じゃ、零、御馳走様。お腹いっぱいです」 「へーへー」 部屋の扉を開けて、蔵元はくるりと振り返った。 ドアノブを掴んだまま、蔵元は俺の襟首をひっぱり軽いキスをする。 俺はベッドの後の作法として、それに応えた。 それで、顔を上げたとたん俺は固まった。 「………さくら、が、わ」 そこには犬を従えた桜川がいた。 |