今日も四人でお昼の最中、目の前でやりとりしている二人に、ついまたいじいじとした気持ちが沸いてしまう。 「美香と野口って、仲いいよね」 前にも同じようなことを言った気がする。 なんでもないって分かってるのに、本当に心が狭いな。 言いながら自己嫌悪を感じてしまう。 「はあ?」 そして美香はやっぱり心底嫌そうに顔を歪めた。 「雪下、その態度ひどくない。俺に対して。傷つく」 牛乳を飲んでいた野口が無表情に言う。 まったく傷ついているようには感じられない。 「これくらいが嬉しい癖に」 「まあ、否定はしない」 「うわ、ひくね」 自分で言ったくせに、美香は綺麗な顔をまた盛大に歪めて吐き捨てた。 美人はこんな顔してても美人だから得だよな。 ああ、また明後日な嫉妬も出てきてしまった。 「そういうところがさあ………」 こういう二人のやり取りは、見ていてなんだかもやもやしてきてしまう。 私だって野口には言い返すが、一方的にやり込められることが多くて、こんな風に話せない。 「何、三田、嫉妬?俺と雪下に嫉妬とか、本当に見境ないね。どう考えてもあり得ないのに」 「それは私に対して失礼じゃない?」 「じゃあ、俺が雪下に気があるって言っていいの?」 「ないなあ。本当にやめて」 こういうところが、やっぱりなんだか、羨ましく感じてしまう。 なんて考えていると、いきなり隣からぎゅっと抱きつかれた。 「あー、萌える。あー、かわいい。いいね、もっと嫉妬して、俺を束縛して、もう本当に監禁して飼ってほしい」 「一人で部屋に閉じこもってろ!!」 本当にこいつは馬鹿だよな。 なんでこんな奴に嫉妬なんてしなきゃいけないんだろう。 本当に、もう、不毛だ。 「で、でも、雪下、確かに、野口に対してなんか気安いっていうか、他の誰よりも、打ち解けているっていうか」 そこで藤原君が、ぼそぼそと小さな声で入ってきた。 その心情はとても同意できるものだった。 野口への美香の態度もそうなのだが、美香の野口への態度も気になるのだ。 私なんかよりもずっと打ち解けているように見える。 あんな風に美香は私には話さない。 「そ、そう。なんか私よりも、友達って、感じで。なんか」 「………うん」 藤原君もなんだか暗い顔でややうつむく。 対して美香はぱあっと顔を輝かせた。 「え、由紀、私が野口君と仲いいことに嫉妬してるの!?」 つまりは、そういうことだ。 美香に私以上に、仲のいい友達がいるのは、嫌だ。 美香にも野口にも嫉妬している。 ああ、本当に嫉妬深くて性格悪くて嫌になる。 「や、そ、そういう訳じゃないけど!ないけど!」 「やだー、もうかわいいー!大丈夫だよー!由紀が一番の友達だよ!」 「う、う」 美香が嬉しそうににこにこと笑って私の頭を撫でてくる。 恥ずかしい。 けど、ちょっと嬉しい。 「ゆ、雪下、俺は………」 「あはは、藤原君もかわいいー!」 そして美香は隣の彼氏に抱き着いて、その頭をくしゃくしゃと撫でる。 藤原君は顔を真っ赤にさせて、それでも嬉しそうにはにかんだ。 やばい、藤原君かわいいな。 「がっかりです。三田にはがっかりです。やっぱり俺が拉致監禁したほうがいい?」 「お前は洒落にならないからやめろ!」 そしてこいつはまったくかわいくない。 なんで本当に私はこんな奴を好きなんだろう。 時折本気で考える時がある。 「あのさ、二人とも、私の野口君への態度を、そのまま二人に適用していいの?」 「………」 「………」 黙り込む私と藤原君。 そして数秒後に結論はすぐにでた。 「い、いいや」 「うん、俺も」 「分かってくれたならいいの」 美香は満足げににっこりと笑って頷いた。 うん、あの直球毒舌くらったら、多分私は心が折れる。 美香に言われたらたぶん泣く。 「なんか俺酷い扱いじゃない?」 「自業自得って言葉は、辞書に書いてあるよ」 でもやっぱりそういう風にぽんぽんと小気味よく言い合う二人を見ると羨ましくも感じてしまう。 やりたいかって言われるとやりたくもないけど。 でもちょっと、羨ましい。 「ちょっと、やっぱりなんというか、寂しいっていうかあれだよね」 「うん、分かる。打ち解けてるって感じするもんな。三田と同じように、雪下の方にも嫉妬するな。俺、あんな風に野口と話せないし」 同じことを藤原君も思ったらしい。 この人は本当にかわいいなあ。 何でもできる完璧な人に見えるけど、こういうちょっと情けないところは親近感。 「あ、でも二人とも、藤原君と一緒にいると楽しそうだよ。藤原君優しいし、一緒にいると落ち着くし、楽しいし。二人ともリラックスしてる感じがする」 「三田の方だって、二人ともすごく楽しそうだよ。一番二人とも笑ってる気がする。三田は頑張りやで元気で、見てると元気になれる」 「そ、そんなことないよ。わ、私なんて態度かわいくないし」 「三田はかわいいって。俺なんてよく言われるけどへたれだしさあ」 顔がかーっと熱くなってくる。 お世辞だと思っても、ストレートに褒められると、照れる。 ストレートな賛辞に慣れてないし。 「あ、ありがと。で、でも、へたれっていうか優しいんだよ。藤原君は、人に怒ったりしないで、いつも穏やかなのがいいんだよ」 「そ、そうかな。ありがとう」 藤原君も赤くなって、照れたように笑う。 ああ、本当にかわいいな。 私が好きになったのは、完璧な藤原君。 でも、今ちょっと情けないかわいいこの人がもっと好きだ。 勿論友人として、だけど。 「どう思います、野口さん、あれ」 「恋人の前でよくもまあ、いちゃいちゃとできたもんですね、雪下さん」 「浮気ですね、浮気。人のこと言ってる場合じゃないですよね」 「前科ありますしね。油断も隙もないですよね」 そんな私と藤原君を見て、野口と美香が冷めた目で何か話している。 「な、な!」 「何言って!」 突然の攻撃に、私と藤原君は同時に言葉が出なくなる。 すると美香が悪戯っぽく楽しそうに笑う。 「仕方ないから。私のことここで好きって言って、ぎゅーっとしてくれたら許してあげる」 「あ、俺もそれでいいや。オプションにキス追加で」 「あ、私も私も」 「え、え!?」 「ええ!?」 その半ば本気そうな、ていうか野口は間違いなく本気の発言に、また顔が熱くなってくる。 本当に、こういうところだけ、タッグを組みやがって。 人をからかって、遊んで、弄って。 それで笑ってる性格の悪いやつら。 「やっぱりお前ら、似た者同士、仲がいい!」 そして、どうしても憎めないところも、似ている。 |