「おお、小早川でけえ!!」
「まあな!」

突然吉川が声をあげ、脱衣所にいた人間の視線が小早川に集まった。
自然教室の初日。
山歩きをさせられたとはいえ、無駄に体力のありあまる若者は、クラスが変わっての初めての宿泊イベントにはしゃいでいた。
夕食を食べ、短い入浴の時間にも、そのテンションは下がらない。

「うお、マジでけえ!」
「すげー」

当然、裸になると視線がいくのは普段見えない隠れたところ。
体育の着替えやトイレなんかでみかけることはあるが、そこまでまじまじ見るものではない。
温まったノリのまま、同室の人間がわらわらと集まってくる。

「俺だって負けねえ!」
「ばか山本、無茶すんな」
「うっせーな、そういう橋本はどうなんだよ」

そして一同は、橋本の慎ましく皮に半分隠された股間に視線を移す。
からかわれた山本が、まっさきに鼻で笑う。

「皮かむりがナマいってんじゃねーよ」
「じゃあ、剥くよ!剥けばいいんだよ!」
「剥くな。みたくねーよ」

股間に手を伸ばしていた橋本は、菊池にチョップをくらった。
そして一同は今度は菊池にその視線がいく。

「なんつーか、可もなく不可もなく」
「そこそこ使われていて、そこそこの大きさで」
「面白みがないな」

菊池は呆れたように肩をすくめる。
特にそれについての感想もないようだ。
山本が、辺りのみんなを見渡して首をかしげた。

「つーかさ、俺ち○こ右曲がりなんだけど、左ききの奴って左曲がりになんの?お前らも右だよな」
「なんじゃね?これ、オ○ニーのせいだろ?」
「両手使えばまっすぐになんのかな」
「エロ本読んでるときに両手使うとか無理だろ」
「DVDでよくね?」
「でもやっぱ右手が一番なんだよな。加減がさ、かゆいところに手が届くつーか」
「左手でやるのはそれはそれで気持ちいいぜ。なんかこう、不器用なのが人にやられてる気分でさ」
「あ、つーかさ、片栗粉!片栗粉マジやべー!」
「え、なになに?」

ワイワイとひとしきり素っ裸のままくだらない話で盛り上がる。
まだまだ肌寒い5月の初め、それでも温まった空気にまだ風呂に入る人間はいない。
そこで、当番を終えた鈴木が入ってきた。

「あれ、何お前らまだ風呂はいってねーの?時間ねーぞ」
「あ、やべ。ちん○の話してたらこんな時間だよ」
「俺ら馬鹿だろ」

慌てて浴室にはいっていく一同。
小さな宿泊施設のため、カランの数が限られていて交代で体を洗っていく。
そのうち、服を脱いだ鈴木が入ってきた。
さっきの話の流れでか、全員の視線がそこに集まった。

「お、鈴木いい色してんなー」
「ほら、なんていうの、年季が違うし、使い込んでますもの」
「うっわ、ムカつく。性病移されて腐っちまえ」
「ノンノン、鈴木君のセキュリティは完ぺきです。のーもあえいず、うぃずこんどーむ!」
「うぜー」

眼鏡を外したせいかあまり見えないのか、目を細めてふらふらと浴室に入ってくる鈴木。
開いていたカランの前に座り込む。

「しつれい、佐々木」
「あ、うん……」

隣にいた佐々木は小さくうなづいて、手早く体を洗う。
股間にはタオルをまいたままだ。
それに気付いた浴槽につかっていた山本がつっこむ。

「そういや佐々木のみてねーな」
「あ、そうだ、佐々木どうなんだよ」

その言葉に反対隣に座っていた吉川が覗きこむ。
途端に、佐々木がシャワーを放り出してタオルを押さえた。

「うわっぷ!」

放りだされたシャワーをもろに顔にくらった吉川が叫んで目を瞑る。
そして顔を押さえながら、怒りの声を上げる。

「なにすんだよ!」
「………」
「て、おい」

佐々木はタオルを押さえたまま、暗い顔で黙り込んでいた。
浴室内が静まりかえる。

「あ、えっと佐々木」
「…………」

大人しめなものの、いつも明るく笑っている佐々木が暗い顔でやはり黙りこむ。
そのタオルの下に何があるのか。
誰もが気になったが、そこに誰も触れることができない。

「………」
「て、ちょっと、もう少しで交代の時間よ」

鈴木が浴室内の時計を見上げる仕草をして、声をかける。
それに橋本が風呂から飛び出した。

「やべえ、俺まだ体洗ってねえよ!鈴木邪魔だ、どけ!」
「俺まだ入ってきたばかりでしょー。吉川君どきなさいよ」
「俺だってまだ洗ってねーよ!」
「あ、俺もうでるから橋本変わるよ」

佐々木がそう言ってタオルを押さえながら立ち上がる。
橋本は感謝、といいながら佐々木のポジションに変わる。

「ちゃんとちん○洗わねーとな!」
「皮の下までな」
「うるせー、菊池!」

その間に佐々木はそそくさと浴室を出て行った。
なんとなく、みんな肩を撫でおろす。
先ほどの和やかな雰囲気を取り戻し、無駄話も徐々にまた広がっていく。

その時、カラカラと磨りガラスの扉をあけ、長身の人間が入ってきた。
明日のキャンプファイアーの当番になっているため、打ち合わせをしていた近藤だった。
全員の視線が当然のように近藤の股間に向かう。

そして、浴室内に沈黙が落ちた。

「なんだよ?」

これまで騒がしかったのが嘘のように静まり返ったクラスメイトに、近藤が首を傾げる。
全員の視線は、そこにくぎ付けだった。

「おい?」

近藤が不思議そうにあたりを見回す。
そこで、風呂から上がっていた小早川がタイルの上に崩れおちた。

「小早川?」
「負けた……」
「は?」

橋本が、尊敬のまなざしで近藤を見上げる。

「近藤すげえ!」
「は、何が?」

山本が、うんうんと深くうなづく。

「俺は、お前はやる男だと信じてた」
「いや、だからなんだよ」

菊池が無表情に親指を立てる。

「やるな」
「説明しろって」

吉川がカランの前からどくと、近藤に譲った。

「先生、どうぞ!こちらをお使いください!」
「なんなんだよ!?」

鈴木が真面目な顔で盛大な拍手をした。

「さすが近藤、ビッグだ。でかい!でかい男だよ!」

浴室内にいた全員が、その拍手に追随した。

「あんたが、一番だ」
「ああ、かなわねえよ。なんだろう、負けたっていうのに爽やかな気分だぜ」
「こんだけやられちゃ、素直に認めるしかねえな。近藤、祝福するぜ」
「ふ、清々しい完敗だな」
「弟子にしてくれ!」
「お前マジなに食ってるんだよ」

視線を股間に一心にうけたまま、次々と祝福の声をうける近藤。
いつも割と落ち着いている近藤が、とうとう浴室内に響き渡る声で叫んだ。

「だからなんなんだよ!?」

その後交代時間ぎりぎりになるまで、その騒ぎは続いた。





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