お勉強をしましょう。 外はアスファルトが溶けそうなくらいのうだるような暑さ。 しかし今日もヤニ臭い菊池の部屋は、クーラーの効いた快適室温だった。 狭い部屋に、橋本の驚愕の声が響く。 「え、バックじゃだめなの!?」 「らしいぜ、なんか筋肉しまって余計痛いらしい」 「えー、俺、ア○ル○ックスって、なんかバッ○なイメージだったわ」 「俺も」 クーラーの効いた菊池のヤニ臭い部屋。 菊池と橋本は顔を寄せ合って、一冊の本を前に勉強中だった。 大事な大事な、夏休みの課題だ。 「じゃ、じゃあどんな体位がいいんだ?」 「なんか正常位でいいみたいだ」 フローリングに腹ばいに寝そべる2人は、常にない熱心さでその雑誌を見つめる。 ますます身を乗り出す橋本に、菊池がページをめくって先を読む。 それは鈴木が2人に与えた雑誌だった。 「正常位ー!へー、いがーい!」 「後はうつぶせに伏せるとか」 「うつぶせ!?なんか難しそうだな」 「適度に力が抜けていいらしい」 「奥が深いなあ…」 「うわ、ていうか見ろよ!この体位!すげえ!」 「うおおお!!何これ!人体の神秘!」 「アクロバティック!」 しばし付録扱いの4○手図解に感動しつつ、2人は更に読み進める。 食い入るように雑誌を見つめ、知識を貪欲に詰め込もうとする。 「横位もいいらしいな」 「横位?」 真剣にページをめくる菊池に、橋本が首を傾げる。 そこまで細かい知識がある訳ではない橋本は、言われた単語が理解できない。 菊池が顔を上げて、すぐ隣にある橋本と視線を合わせる。 「2人で重なるように横にねて、後ろから突っ込む体位だな」 「えーと、なんだろう、あんまイメージわかねえ」 そう言って、難しい顔で眉を寄せる橋本を、菊池が転がして、後ろから抱きしめる。 2人で横になって重なりあう。 首筋にあたる菊池の息に、小さく橋本が身震いした。 「こんな感じ」 「えー、これ、入れんの難しくねえか」 「女相手だとそんなんでもないけど」 その言葉に、橋本はぴたりと動きを止めた。 後ろを振り向かないまま、固い声で問いかけた。 「……女とはやったことあんの?」 「うん、足を抱えあげてるのがちょっと大変だな」 「………」 無言の橋本のエルボードロップが菊池の腹に見事に決まった。 菊池は腹を押さえて、一瞬息を止めた。 その後、噛み付くように、後ろから手癖に悪い橋本を押さえ込む。 「いってなーな!何しやがる!」 「うるせーな!なんかムカついたんだよ!」 開き直ったように言い放ち、菊池の腕の中で更にもう一発喰らわせようとする。 反省の色のない態度に、菊池は更に怒りを募らせ文句を言おうとした。 「なんだ、そりゃ…て、あ、なるほど」 しかし途中で、何かに納得したような言葉に代わる。 その声に、からかうような微妙な喜びが混じっていて、橋本は更に腹立だしくなった。 低い声で、自分のすぐ後ろにいる男を責める。 「……なんだよ」 「いやいやー、ふーん、へー」 「うっわ、感じ悪!何それ!」 「いいやー」 態度の悪い菊池に、橋本は怒りを募らせるが全く答える様子がない。 橋本を拘束していた腕に、力をこめる。 それどころか、前にまわった手が、何か意志を持って体を這い始める。 「ちょ、お前どこ触ってんだよ!!」 「えー、いいじゃん。もうやっちゃおうよ」 「なにその軽さ!私そんな女じゃないわ!つか誰がやらせるか!!」 暴れて菊池の腕を払いのけようとするが、内からの力より、外からの力のほうが有利だ。 しっかりとホールドをかましている菊池に、橋本を額に汗をかいて抵抗する。 「ぐっぐぐぐ」 「く、っと、結構抵抗防ぎやすいな」 「くっそー!隙を見せるんじゃなかったあ」 全力の抵抗に、菊池もさすがに苦しそうな声をあげる。 しかしポジションのリードからか、どこから余裕がある。 橋本の体に這わした手を、更に先に進めようとする。 「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないし。痛いのは最初だけだって」 「最低!ていうか減る!なんか減る!絶対減る!男として大切な何かが減る!」 「小さいこと言うなって、男らしくねえな」 「やかましい!!お前こそやらせやがれ!」 その後橋本のヘッドバッドで、菊池が鼻血を出すまで、2人の攻防は続いた。 |