伝わらなくて、もどかしい。 「この映画、おもしろかったね」 「私は、これ嫌い」 ソファに2人並んで見ていた映画。 その後の感想は、見事なまでにばらばら。 俺と真衣ちゃんは、趣味が合わない。 一緒に暮らしている姉弟なのに、それこそ面白いほど気が合わない。 食事の趣味も、服の趣味も、映画の趣味も。 真衣ちゃんはご飯は柔らか目が好きだけど、俺は堅めが好き。 真衣ちゃんは柔らかなパステルカラーを選ぶけど、俺は黒系とか寒色を好む。 真衣ちゃんは分かりやすいアクション映画を見たがるけど、俺はドキュメンタリー系に興味がある。 こんな風に意見が合わない時に、少しだけ冷たいものが心に突き刺さる。 姉と俺が一つのものではない、ということ。 それを思い知らされる。 違う考え、違う行動、違う歳。 それはどうしようもないもの。 分かっている。 それでもどうしようもなく、その距離に焦燥感が掻き立てられて、苛立たしい。 いっそつながったまま、どろどろに一つに溶けてしまいたい。 そうすれば、姉はずっと俺のものだ。 姉が他のものをみることも、裏切られることも、いなくなってしまうこともない。 そんな不安から、すべて解放される。 姉とすべてを共有することができる。 姉と、一つになれる。 「ねえ、真衣ちゃん」 「……何?」 「俺達さ、1人の人間だったらよかったのにね」 「……私と千尋が?」 「そ。そしたら真衣ちゃんが寂しい思いをすることもなかったのに」 そう、そうしたら、俺もこんなに苦しい思いをしなくてすんだ。 きっと、もっと穏やかでいられた。 真衣ちゃんも、あんな奴らから否定されて傷つくこともなかった。 しかし姉は少し考え込むと、首をかしげてなんでもないように答えた。 「私はやだな」 「……なんで?」 「千尋がいなくなったら、私見てくれる人、いない。そんなのやだ」 姉の言葉は間違っている。 前提がおかしい。 あまりものを考えない、姉らしい言葉。 俺がいなかったら、きっと姉の周りはもっと穏やかで光に満ちていた。 俺とひとつだったら、両親にも愛された。 それでも。 それでもその言葉は俺の胸に甘く苦く染み渡る。 どんなに嫌でも逃げたくても、俺の心を捕えて話さない唯一の女。 俺は隣に座る骨ばった体を抱き寄せた。 姉は素直に身を任せる。 「千尋の腕の中は、柔らかい」 安心したような姉の言葉に、俺はしがみ付くように腕に力をこめた。 姉も俺の胸に、頼りなく腕を添える。 ああ、こんなところでも意見が合わない。 やっぱり俺はこのまま一つになってしまいたい。 あんたのすべてを、俺のものにしてしまいたい。 もう、離れたくなくなってしまう。 それでも、この体温を感じられるのは2人だからで。 姉の言葉を聞けるのは2人だからで。 2つある体がとても邪魔で、とても愛おしい。 一つになってしまいたい。 それでも真衣ちゃんを、感じていたい。 伝わらなくて、もどかしい。 |