伝わらなくて、もどかしい。 「あ、ねえ、とても綺麗な夕陽」 「うわ、すげ」 「マジ、めっちゃデカ!」 冬子が坂の上を見上げると、自転車を引きずって歩いていた隣の2人をも顔を上げる。 冬子と春日、そして三沢。 並んで帰る、下校の道。 3人の家は高台の方にあり、自然その道は登り坂となる。 西日はそろそろ沈みかけていて、ギラギラとした強い光はなりをひそめ、ただ穏やかに辺りを橙に染めている。 ちょうど坂道の頂上の道が切れた辺りに、ぽっかりと夕陽は浮かんでいた。 「綺麗ね」 「はー、立派立派」 「おっきー、トマトみたい。あ、なんかあたしお腹空いてきた」 表現の仕方は三者三様だが、感じている想いはきっと一緒だ。 目を細めて、徐々に姿を消していく夕陽を見上げている。 夕陽はまるで坂に沈んでいくようで、その緋色とあいまってどこか現実感のない光景。 「ねえ、なんだかこの坂、空に続いているみたいね」 冬子は吐息混じりに、ぽつりとそんな言葉を漏らした。 途端に隣の2人は動きを止めた。 「うわ、さすが館乃蔵さん、詩人だ」 「すごいなータッチー、うちらじゃそんな格調高い表現は出てこない」 それはからかうというより、本当に感心しているような表情。 しかし冬子は夕陽に負けないぐらいに顔を赤らめる。 「ふ、2人とも失礼ね!私、そんな変なこと言ってないわ!」 「いや、変じゃないけどさ」 「変じゃないよ。むしろすごいよ」 幼馴染は息の合った様子で何度も頷いている。 そこに軽薄なものはないけれど、それでも冬子はいたたまれない気持ちになる。 「もう、知らないわ。勝手にしてちょうだい」 「あー、ごめんごめん、悪かった悪かった」 「本当に褒めてるのにー」 慌てて取りすがる両隣の2人。 冬子は軽く頬を膨らませ、口を尖らせ拗ねてみせる。 「……時々、あなた達とはどうしても分かり合えない時があるわ」 「まあ、だからこそ面白いってことよ」 「そうそう、タッチーと共通点ないけど一緒にいるのは楽しいし」 いくら怒ってみせても、2人は堪えない。 そうしてそんな風に、冬子の心を温かくに溶かしてしまう。 「………あなた達は、やっぱりずるいわ」 「えー、なんでなんでー」 「ひどーい、あたしはこんなにタッチーを愛してるのに!」 賑やかに抗議する春日と三沢。 そのうるささに、前だったら眉を顰めて一瞥していただろう冬子。 それなのに、その賑わいを、今は心地よく感じてしまう。 「あ、沈む」 「本当だ、すごい、まっかっか」 「………綺麗」 めったに見ない大きな夕陽は、辺りを一際赤く染めるとその姿を消そうとしていた。 3人は思わず立ち止まり、口を閉じてそれを見つめる。 「本当、このままあの夕陽までいけちまいそー」 「うん、空までいけちゃいそうだね」 どこかぼんやりと、らしくなく殊勝にこぼす2人。 今、間違いなく3人は、同じ想いを感じて一緒にいる。 「それでも……」 冬子はその後を心の中で続ける。 それでも、やっぱりあなた達とは分かり合えない。 だって今、あなた達と一緒にいれるこの喜びを、きっとあなた達には分からないから。 私がどんなに嬉しいか、きっと伝わりきらないから。 伝わらなくて、もどかしい。 |