きっとそれは、とても些細なこと。



あなたのためにできること <日課の告白>




毎日毎日、いっぱいの幸せをもらってる。
それはとてもとても、怖くなるくらい。

毎日幸せ。
毎日嬉しい。
少しでも長く、この幸せが続きますように。

私はいっぱい、あなたからもらっている。
でも、そうしたら。
代わりに私は何をできるんだろう。
あなたに何をあげられる?
私は何も持ってない。
私はただもらうだけ。
あなたにあげられるものなんて何もない。

私はあなたに何をしてあげられるのかな?



***




なんてことを、考えてみた。
お世話になってる人へプレゼントって感じのCMを見たせいだ。

お世話になってるって言えば、友ちゃんだよねえ。
隣をちらりと見る。
友ちゃんは隣にいる。
そう、隣だ。
前じゃない。
今見ているのは、背中じゃない。
私は今、友ちゃんの横顔を見ている。

なんて幸せ。
なんて嬉しい。

友ちゃんにはいっぱいいっぱいお世話になってる。
こんな私といてくれる。
優しくしてくれる。
嬉しい言葉をくれる。
まだ隣にいてくれる。

私は何を返せるかな。
私はあなたに、何をあげられるのかな。

「どうした?」

ずっと隣を見ていたら、友ちゃんが気づいたのかこちらを見下ろしてくる。
うーん。
何度見ても、やっぱり好きだなあ。
本当に友ちゃんが、好きだなあ。
いつまでも、ドキドキする。

「みのり?」
「あ、えへへ、あのね」
「うん?」

表情はあまり動かないけど、耳を傾けてくれている。
友ちゃんは、最近私の言うことをとってもよく聞いてくれる。
気にかけてくれる。
本当に、幸せ。

「友ちゃんに、何をあげられるかなあ、って思ったの」
「は?」

唐突すぎただろうか。
友ちゃんは頭の上にはてなマークを一杯出すように首をかしげる。
そうだよね、前置きないもんね。

「友ちゃんにいっぱいいっぱい色々なものをもらってるから、私も友ちゃんのために何かしたいなあ、って思ったの」
「…唐突に何言い出してるのかよくわからないけど、俺、お前に何もしてないだろ」
「いっぱいいっぱい、もらってるよ」

友ちゃんは眉をひそめて、小さく答える。
ちょっと怖い顔。
どうしたのかな。

怖い顔をした友ちゃんが黙り込んでしまったので、私はそのまま自分の思考に入り込む。
ああ、でも本当に何をあげられるかなあ。

プレゼントは、重いよねえ。
後に残るのは、迷惑だよね。
ただでさえ家近いし、これ以上存在を感じさせるものを家に置いておくのはいやだよね。
となると、ものじゃなくて、心かな。

私は友ちゃんに、かわいい、とか言ってもらえると嬉しいな。
あとばーかって小突かれるのすっごい好き。
ドキドキする。

でも、友ちゃんにかっこいいって言っても、それは当然のことだし。
友ちゃん馬鹿じゃないし。
小突くなんてもってのほかだ。
絶対に不可能。

だとしたら何が嬉しいかな。
友ちゃんは、何が嬉しいのかな。

うーんうーん。
私は友ちゃんと一緒にいるだけで、嬉しいけど。
私と隣にいても、そんな嬉しくないだろうし。

そこまで考えて、ひとつ気づく。
ていうか、もしかして、こんなに隣にいたら、迷惑かな。
ストーカー時代と同じくらい、ひっついてるし。
そういえば友ちゃん、彼女がいても自分の時間大切にする人だったよね。
もっと、自由に動きたかったりして。
あ、もしかして、私が一緒にいないことが、何より嬉しかったりする。
……私が、距離を置くことが何よりなプレゼントだったりして。

「………う」
「………なんで涙目になってるんだよ」

残酷な真実に思い当ってしまい、つい声に出してしまった。
友ちゃんが怪訝そうに私を見る。
私は、申し訳なさでいっぱいになる。

「ごめんねえ、友ちゃん、私、友ちゃんに何もしてあげられない」
「いや、この短い間に何がどうなってそこまでいってるんだ」

友ちゃんは私の目じりを親指で拭うと、呆れたような声を出す。
その手が温かくて、私は余計にいたたまれなくなる。

「だって、私友ちゃんにいっぱいいっぱい、色々なものもらってるのに。返せない」

まだ、まだ時間あるし。
まだ一緒にいたいな。
もう少しだけ、こうやっていたいな。
わがままで、ごめんなさい。
ああ、本当に何も返せない。

「お前さ、そうやって一人でつっぱして一人で完結するのやめてくれ」
「……うう、ごめんなさい」
「たぶん何もわかってないだろ」

友ちゃんが、諦めたように溜息をつく。
ほっぺたをぶにっと、つままれる。

「ひたい」
「何をそんなに落ち込んでんだかしんないけど」

そのまま、今度は両手で私のほっぺたをぐいーとつまんで、ちょっと苦笑する。
苦笑だけど、なんだかあったかい。
友ちゃんの笑顔は、いつだってドキドキする。

「俺もお前にいっぱいもらってる」
「にゃにもはへへてないよ」
「毎日好きだって言ってもらえる」
「ふぇ?」

友ちゃんは笑いながら、眉を寄せる。
どこか苦しそうに。

「これからも、好きだって言って」

なんだろう。
どうして、そんな当然のこと言うのだろう。
そんなの、お返しでもなんでもない。
私に好きだって言われても、ちっとも嬉しくないだろうし。

「ずっとずっと、俺の隣にいて、好きだって言って」



***




きっとそれは、とても些細で、でも難しいこと。