行きたいところ。


白青



「海、行ってみたいなあ」

それはずっとずっと前から、密かに夢だったこと。
リビングでごろごろと、双兄が買ってくれた海の写真集を眺めながら言うと、本を読んでいた四天が反応した。

「あれ、兄さん、海行ったことないっけ?」
「うん、俺、遠出したことないから。一度でいいから行ってみたいなあ」

写真集で眺める海は、空を映してどこまでも青い。
その上に浮いて空を見上げたら、どんなに気持ちいいだろう。
きっと、悩み事なんてどうでもよくなってしまうほど、海は広く俺を受け止めてくれるだろう。
想像するだけで、心穏やかになる。

「兄さん、力を使うとき海をイメージするって言ってたよね。あれってどっからきてるの?」
「よく覚えてるな。小さい頃に、一兄かな?誰かに聞いたんだ。海と空と、ずっと広い青が広がってるって。広くて広くて果てが見えないって。なんかその話のイメージが抜けないんだよな」
「ふーん」

そう、今よりも更に力が扱えなかった幼い頃。
確か、泣いている俺を誰かが慰めた。
どこまでも続く、青の光景。

『すごく、広いんだよ。見ていれば、きっとそんなこと、どうでもよくなるよ』

透き通る青に染められて、まるで宙に浮いているようだと。
そう言われたのが、未だに心に残っている。

「あ」

どこまでも遠く広がる、青い海。

『兄さんも、今後は一緒に見れるといいね』

そう、幼い声に言われたのだ。