怖い夢を見ました。


野良犬



「こんばんは、三田」
「………お前、今何時だと思ってんだ」

音を切り忘れた電話が、真夜中に大音量で音楽を奏でた。
あまりにもうるさくて寝ぼけながら通話ボタンを押すと、聞こえてきたのは聞きなれた平坦な声。
かすむ目で時計を見ると、まだまだ夜明けは程遠い。

「怖い夢見てさ」
「ああ!?」

私の不機嫌なんてものともせずに、野口は先を続ける。
少しは人の話を聞け。
ていうか謝れ。

「三田の声、聞きたくて」

ちょっとドキドキする言葉だが、それ以上に眠い。
まあ、嬉しいけどさ。
嬉しいけど、出来れば朝にしてほしかった。

「………これで聞けたよね、満足?」
「もうちょっと」
「………頼むから寝かせて」

こっちは部活でくたくたなのだ。
明日も朝練がある。

「もうちょっと聞いてたい」
「何を話せって」
「えーと、じゃあ歌って」
「嫌だ」
「えーとじゃあ、昔話して」
「思い浮かばない」

どうしたら満足して眠ってくれるんだろう。
いっそ本当に子守唄でも歌ってやろうか。

「文句言いながら、切らないところが三田優しいよね」
「あ?」
「まあ、切ってもまたかけるけど」
「嫌がらせか」

こいつなら本当にやりかねない。
といっても、普段はこんな風に本当に迷惑するようなことはしないのに。
どんだけ怖い夢を見たのだろうか。

「ねえ、話さなくていいからこのまま切らないで」
「え」
「三田の寝息聞いてるだけで、いいや」
「………変態」

どうして言うことが一々変態くさいんだ、本当に、こいつは。

「駄目?」
「………まあ、いいけど」

しかしそんな風に甘えた声で言われると、ついつい承諾してしまう。
最近私、こいつに甘くなってる気がする。
ここらで引き締めないとな。
いや、でもこのまま話に付き合わせられるよりはマシだろう。
少なくとも眠れるし。
電話代は向こう持ちだし。

「ありがとう。おやすみ」
「………うん」
「大好き、三田。出来れば俺の夢を見てね」

その言葉に、一気に顔と体が熱くなる。
そして野口の寝息が聞こえてきても、私は寝つくことが出来ずに、結局次の日は寝不足になった。