怖い夢を見ました。


あなたにその手が



「あ?」

何か違和感を感じて意識が急激に覚醒する。
違和感を確かめようと肩越し後ろを振り返ると、どうやら同居人がいつの間にか勝手に俺のベッドに入って来たらしい。
俺の背中に顔を埋めるようにしてひっついているようだ。
寝巻代わりのTシャツ越しに、背中に熱い息を感じる。

「………何してんだ、お前」
「すいません、ちょっと横借ります」
「借りてから言うな」
「細かいことは気にしないでください」

どうやらここで寝る気らしい。
一瞬また発情したのかと思ったが、それ以上誘う様子もないので、単に寝に来たらしい。
一体どういう風の吹きまわしだ。
普段はムカつくぐらいにドライなくせに、時折こんな風に甘えてくる。

「襲うぞ」
「どうぞ、寝てるんで勝手につっこんでください。前戯とか面倒なんで省いてください」
「死ねよ」

まあそんなこと言っていざ襲えばノリノリで腰を振るんだろうけどな。
そんな気にもならなかったので、寝がえりを打って向かい合わせになる。
すると無表情な男は素直に体を寄せて俺の胸に顔をうずめてきた。
本当に珍しい。

「どうしたんだ?」
「………」
「守?」

耳元で名前を囁いてやると、恨めしそうに睨まれた。
いまだに名前を呼ばれるのは慣れないらしい。
観念したように、一つため息をつく。

「昔の、いえ、悪夢を見たんです。そしたら目が冴えちゃって」
「それで俺に甘えて添い寝してほしくなったって訳か」
「はい、手貸してください」

からかいには付き合うことはせず頷いて、俺の左手をとると自分の頬に当てる。
そしてそっと目を瞑って密やかに息をついた。

「不思議です。先輩の手って心臓が痛くなるぐらい興奮する時もあれば、こんな風に落ち着いて眠くなったりもする」
「そりゃ、俺に惚れてるからだろ」
「そうですね。多分そうなんです」

いつになく従順な男が面白くて、ガリガリの体を抱き寄せて頭を撫でる。
変態は俺の匂いを吸いこむように、大きく深呼吸した。
そういえば何もせずに一緒に眠るなんて、初めてかもしれない。

「おやすみ、守」
「おやすみなさい、先輩」

まあ、たまにはこんなのも悪くないだろう。
俺たちは呼吸を重ねるようにして、目を閉じた。