怖い夢を見ました。 「一矢お兄ちゃん、一矢お兄ちゃん」 自分の部屋から飛び出して居間に行くと、一矢お兄ちゃんはまだ起きていた。 僕はソファに座っていたお兄ちゃんの足につっこむようにして抱きつく。 そうすると、ようやく不安が解消されていく気がした。 「どうしたんだ、三薙。こんなに遅くに」 「あのね、怖い夢見た。僕、黒いのに、食べられちゃうんだ」 さっきまで見ていた怖い夢を思い出して、またぶるりと体が震える。 頭からバリバリとオバケに食べられてしまう夢だった。 一矢お兄ちゃんは優しく僕の頭を撫でてくれる。 「そうか、怖かったな」 「すっごい、すっごい怖かった」 「よし、じゃあ、俺が一緒に寝て、黒いのを追い払ってやる」 「うん!」 それからお兄ちゃんはちょっと待ってろと言って、台所にいってしまった。 しばらくして戻ってくると、手にはお盆があって二つのカップが乗せられていた。 「はい、三薙」 「これなあに?」 「よく眠れるお茶だよ。これでもう怖い夢を見ない」 「本当に?」 「ああ、本当だよ」 「ありがとう!」 一矢お兄ちゃんが言うなら絶対なんだろう。 僕は熱いお茶を息を吹きかけて冷まして一口飲む。 甘くて、ちょっとだけ青臭い味がするお茶は、美味しかった。 その日は本当に悪夢は見なかった。 「あれ、天?どうしたんだ?」 「ああ、夢見が悪くて起きちゃった。兄さんは勉強?」 「うん」 台所でお茶の用意をしていると、四天が浴衣のままやってきた。 ぴっちりとした格好は、本当に寝ていたのかと突っ込みたくなる。 「なんか飲もうかと思って」 「あ、ちょっと待った」 「何?」 「ちょっと待ってろって」 自分も何か飲もうと思っていたので、お手軽にティーバッグで二人分のお茶を入れてしまう。 お手伝いさんに頼めばちゃんと葉っぱで淹れてくれるだろうが、普段は別にこれぐらいで十分だ。 「はい」 「お茶?」 「そう。よく眠れるぞ」 二人で台所のテーブルに腰掛けながらお茶をすする。 天は一口飲んでから首を傾げる。 「カモミールティーにミルクと蜂蜜?」 「うん」 「なるほどね」 小さい頃から夜に飲むのは、これだ。 俺の希望でいつだってティーバッグが用意されている。 二人黙ってお茶を飲んだ後、天は流しにカップを戻しながら礼を言う。 「ご馳走様。ありがとう」 「どういたしまして」 「ところで、兄さんは安眠していいの?」 「あ!」 そうだった、試験勉強だからコーヒーを淹れようと思ってたんだ。 なんで安眠効果のあるお茶とか飲んでるんだ。 よく眠ってどうするんだ。 「じゃあ、俺はおかげさまで眠くなってきたから寝るね。おやすみ」 「俺が飲む前に言えよ!」 なんだか本当に眠くなってきてしまった瞼を抑えながら、俺は恨み事を言った。 |