「あのさ、野口君ってすごい変態くさいけど、マゾなのサドなの?」 放課後いつもの四人でだらだらと話していると、いきなり美香が馬鹿なことを言いだした。 思わず飲んでいたウーロン茶を噴き出しそうになる。 「あのさ、美香………」 この子はたまにこういうとんでもないことを言いだす。 本人はいたって涼しい顔で、興味深そうに野口を見ている。 野口はシェイクを飲みながらこちらも涼しい顔で返す。 「セックスは別にノーマルだと思うけど」 「そうなの?」 「知るか、アホども!」 かわいらしく首を傾げてこっちに振ってくる美香の頭を軽くはたく。 ああ、もうどいつもこいつも。 まあ、かなり噛まれはするけど、別にそんな変なことはしてないと思う。 いや、そういうことじゃなくて。 恥ずかしくて俯く私を気にせず野口は続ける。 「まあ、あえて言うならサドであり、マゾです。その二つは両極でありながら不可分であると俺は思います」 「深いなあ」 全く深くない。 ていうか何を真面目に言ってるんだ、こいつらは。 どうしてこういうことをこんなところで言えるんだろう。 「そ、そういう美香はどうなのさ!」 やられっぱなしは悔しいので反撃したくて、私は美香に聞き返す。 少しはうろたえてほしい。 「私?Sだと思うよ?」 「藤原はM臭いしな」 「うん。ドMだと思う」 けれど美香と野口は、動じる様子は全くない。 最近思うんだけど、こいつら結構似ている気がする。 「………」 「………」 あ、空気になっていた藤原君が紅くなって俯いている。 うん、やっぱり藤原君を見ていると落ち着く。 「まあ、俺はSとかMとかいうより、フェチなんだと思う」 「フェチ?」 「そう、フェチシズム」 お互いを見て労わるように笑い合う私と藤原君を全く気にする様子なく馬鹿二人は話を続けている。 いい加減黙らせたい。 「えーと、足フェチとか、足に興奮するとか胸に興奮するとかそういうこと?」 「そういう感じ。あるものに対する偏愛?執着?」 「うわあ、変態くさい。すっごい野口君ぽいね」 「ありがとう」 いや、褒めてないだろ。 全く褒めていないだろう。 「で、何フェチなの?」 「俺は属性いっぱいあるけど、舐めフェチなんだと思う」 「ますます変態くさいセリフ出てきたね。舐めるのが好きなの?」 美香の興味津々の視線を受けて、野口はチェシャ猫のように笑って頷いた。 「そう、三田のこと、舐めたい。全部舐めたい。舐めつくしたい。味わいたい。顔も目も肌も口も腋も唾液も涙も血液も鼻水もあ…」 「お前はこれ以上口を開くな!!」 隣にいた男の頭を思い切りはたいて黙らせる。 眼鏡がずれたけど知るか。 ああ、顔が熱い。 つーかキモイわ、このボケが。 「由紀、すごい愛されてるなあ。羨ましくないけど」 「あんたもいい加減に黙ってろ!」 にっこりとやっぱりかわいらしく笑う美香の足を蹴りあげる。 ああ、私はやっぱり親友と恋人の選択を間違ったのかもしれない。 |