世の中は理不尽と不公平に満ちている。 「あら、あなたが陛下が最近お気に入りだという女性?異世界から来た、ですっけ?」 城の廊下で出会った女性は、いきなり私を上から下まで値踏みするように眺めると、馬鹿にするように笑った。 私よりも10かそこら年上だと思われる中年女性。 けれどふくよかな体はグラマラスと言えるレベルで、綺麗な金髪と青い目はさすがの西洋人。 掛け値なしの美熟女だった。 両脇にお連れの人間を引きつれているところを見ると、結構身分が高い女性なんだろう。 『………誰?』 私は隣を歩いていたネストリに脳内で話しかける。 ていうかこの脳内会話に慣れてしまったのが哀しい。 『陛下の第二妃です。アルベルト王子のお母上に当たります』 『へえ』 あの金髪碧眼美少年の母親か。 つんけんしてそうな性格まで言われてみればそっくりだ。 「随分みすぼらしいのねえ。陛下の好みも随分変わったのね」 うん、間違いなく喧嘩売りに来てる。 しかし私はこの女と面識はない。 なんでいきなり喧嘩売られてるのだろう。 『なんでこの女はこんなに攻撃的な訳?』 『陛下を捨てたとはいえ、それなりに未練もあるんでしょうね。いまだに夜を一緒にお過ごしになることもありますし』 『本当に節操ないわね。あの下半身馬鹿キング』 『キング?』 ネストリの疑問を気にすることなく、私は軽く会釈をしてにっこりと笑う。 なるべく優しく見えるように笑えているといいけれど。 「はじめまして、私、セツコ、言います。あなたは陛下のお知り合い?」 「な!」 プライドの高そうな女は、みすぼらしい女が、身分の高い自分を知らないことが屈辱だったらしい。 一気にゆでダコのように顔を真っ赤にさせる。 ていうか知るか、そんなもん。 「陛下、優しいです。今は、私だけ、よく言ってくれる。嬉しい」 更に言ってやると、馬鹿女はますます顔を真っ赤にしていく。 倒れちゃうんじゃないかしら。 血圧平気かしら。 「陛下はすぐに飽きるわよ!今は物珍しいから気に入ってるだけでしょ!」 ま、その通りだろう。 正直ミカなんて生活的な意味以外はどうでもいいけど、私は俯いてはにかんで見せる。 「私、ここ、慣れない。怖い。でも陛下、いてくれるから、平気。陛下、ずっと守ってくれる、言った。優しい」 わなわなと持っていた扇を今にも折りそうなほどに握りしめる第二王妃とやら。 私はそれからにっこりと笑って聞いた。 「あなた誰ですか?聞いたことない」 「わ、私は、第二王子の産んだ、王妃なのよ!」 「えっと、元、王妃?昔、王妃?あ、第二王子?第一じゃない?」 わざと何回も聞き返すと、馬鹿女は今にも私に殴りかかりそうなほどにいきり立つ。 「あ、あ、あなたねえ!」 「ごめんなさい、私、言葉、よく分からない」 けれど私はそんなの勿論気にせず、哀しそうに謝って見せる。 そしてもう一度聞いてやった。 「あなた、元王妃?今も王妃?」 私を殴ろうと思ったのか、手を少しだけ振りあげる。 しかし隣にいたネストリをちらりと見て、その手を下げた。 一応ボディーガードとしての役割はあったのか、こいつ。 「失礼するわ!こんな人と話していると頭が痛くなる。全く育ちを疑うわ!」 顔を真っ赤にさせた元第二王妃はくるりと踵を返してすたすたとお伴を引きつれて去って行った。 もっと手ごたえある人かと思ったが、意外と可愛らしい。 こんなんで引き下がるなんて、結構性格がいいんだな。 まあ、ミカの後ろ盾があってこそ出来ることだけど。 『かわいいもんね。最高権力者のバックがあるって素敵』 『いやあ、女性は怖いですね』 『盗み聞きしてるんじゃないわよ、このデバガメ野郎』 『デバガメ?』 また不思議そうに聞き返すネストリに、私はやっぱり答えることなくため息をついた。 なんだ、とっても疲れてしまった。 「………はあ」 「セツコ?」 ああ、世の中って本当に理不尽で不公平。 『どうしてあんな女ですら結婚もして子供もいるのに、私は結婚できないのよ!やっぱ顔な訳!?顔!?』 世の中は理不尽と不公平に満ちている。 だから私にだけ幸福をよこせ馬鹿野郎。 |