ジングルベルジングルベルと、商店街に楽しげな音楽が響いている。
寒さから逃れるようにマフラーに顔を埋めた。
双馬お兄ちゃんから、珍しくお使いを頼まれた。
何かを頼まれるってことがあまりないので、嬉しくてひきうけた。

街の中はツリーやクリスマスらしい飾りがキラキラしていて綺麗だ。
なんとなく見ているだけで楽しくなってくる。

ツリー、綺麗だなあ。
サンタさんが踊ってる。
あの長靴に入ったお菓子を食べてみたい。
クリスマスケーキ、おいしそう。
楽しそうだなあ。

家ではクリスマスという行事をやったことはない。
そういうことやるような家ではない。
お兄ちゃん達はお友達とかに誘われてクリスマス会みたいなことをしているみたいだ。
僕はお友達がいない。
だからそういうのをお友達とやったこともない。

みんなには見えないものを見たり、逃げたりしていたら、変な奴って言われる。
四天は小さいのにもうあんなに力を使いこなせている。
それなのに、お兄ちゃんの僕は全然力が使えない。
変なものを呼び寄せて泣いて逃げて倒れてしまう。
クラスの子たちにも、おばけって、呼ばれたりする。

いつの間にか俯いていた。
だめだ、泣いたら双馬お兄ちゃんに馬鹿にされる。
一矢お兄ちゃんに心配される。
四天にも変に思われる。

僕はお買いもの袋を抱え直すと駆け足になってクリスマスの歌から逃げ出した。



***




「ただい………」
「メリークリスマス!」

パンパン!っていきなり風船が破裂するような音がして、びっくりしてお買い物袋を落とした。
何事かときょろきょろと周りを見渡してしまう。
玄関には一矢お兄ちゃんと双馬お兄ちゃんと四天がいた。
今のは双馬お兄ちゃんが持っていた何かのおもちゃの音のようだ。
三角で中から色々な色の紙がひらひらと飛び出ている。

「な、なに?」
「メリークリスマス、三薙」
「え?え?」

もう一度双馬お兄ちゃんに言われるが、なんのことだかさっぱり分からない。
そうすると一矢お兄ちゃんの大きな手が俺の手をそっと引っ張った。

「おいで」
「一矢お兄ちゃん?」
「リビングに行こう」

とりあえず一矢お兄ちゃんの言うことだから、大人しく靴を脱いでついていく。
四天も後ろからくすくす笑いながら着いてきた。
そしてリビングに辿りついて僕は思わず大きな声をあげてしまった。

「わあ!」

そこには買い物に出る前にはなかった僕の背ぐらいの木がキラキラと光っていた。
もちろん天辺には金色の星が飾られている。

「ツリーだ!どうしたの、これ!?」
「綺麗だろう、お兄様が用意してやったんだぞ」
「買ったのは父さんだろう」
「飾り付けたのは俺!」

腰に手をあててえばる双馬お兄ちゃんに、一矢お兄ちゃんがため息をつく。
僕はそれよりもツリーが見たくてしょうがなくて部屋の真ん中に駆け寄る。

「わあ、綺麗」
「ケーキもあるよ、お兄ちゃん」
「本当!?」

四天の声に振り返ると、テーブルの上には真っ白な綺麗なケーキが用意されていた。
とても綺麗で、とてもおいしそうでため息が出てしまう。
見とれていると、ぽんと温かい手が頭に置かれた。
一矢お兄ちゃんが優しい顔で笑っている。

「気に行ったか?」
「うん、うん!ありがとう、一矢お兄ちゃん双馬お兄ちゃん四天!ありがとう!」

お礼を言うと、三人はにっこりと笑ってくれた。
一矢お兄ちゃんは更に嬉しいことを言ってくれる。

「来年もやろうな」
「本当!?………あ、でも、いいの?お兄ちゃん達、お友達いいの?」

お兄ちゃん達はお友達がいっぱいいいる。
いつもだったらお出かけしてお友達と遊んでいるところだ。
四天だって僕と違ってお友達がいっぱいいる。
そのうち誘われもするだろう。
双馬お兄ちゃんがにやにやと笑う。

「しょうがないから付き合って上げるわよ。甘えたな三男坊のためにな」
「あ、甘えたじゃない!」

別にクリスマスやりたい、なんて思ってなかった。
ただ、ちょっと、いいな、って思ってた。
それだけだ。
別にすっごいやりたかった訳じゃない。
そう言い訳しようとすると、一矢お兄ちゃんがなだめるようにぽんぽんと頭を叩く。

「家族で過ごすクリスマスもいいだろう。いつか三薙に一緒にクリスマスを過ごす相手ができるまで皆でクリスマスしような」
「いいの?」
「勿論だ」
「ありがとう!一矢お兄ちゃんありがとう!」

僕は生れて初めてのクリスマスに、心から喜んだ。



***




「メリークリスマース!」

玄関を開けるとやっぱり、クラッカーを鳴らされた。
予想が外れなかったことに、思わずため息が出る。

「……………」
「はい、今年も家族で過ごすクリスマスおめでとう、三薙君」

楽しそうに笑ってクラッカーを三つもっているのは双兄。
その笑った顔がムカつく。
その後ろで一兄が苦笑していて四天も無表情に立っている。

「もういいって言ってるだろ!」
「いやいやいや、寂しがり屋の三男坊のために優しいお兄様達と弟はいつまでだって付き合うさ。三薙に一緒にクリスマスを過ごす相手が見つかるまでな」

もうすでにこれは嫌がらせだ。
どうせ俺は高一になってもクリスマスを一緒に過ごす人はいない。
今年も家で寂しくクリスマスだ。
いや、むしろ寂しくクリスマスをした方がマシだ。

「み、みんなはどうなんだよ!」

思わず言ってしまってから後悔した。
答えなんて決まってる。
四天が薄く笑って肩をすくめる。

「俺は栞と過ごそうと思えばいつだって」
「もちろん兄貴も俺もひく手数多だ。そんな中お前に付き合ってやってるんだ。優しい兄弟愛に感謝するといい」

双兄に頭をぐりぐりと乱暴に撫でられる。

ちくしょう。
来年こそは絶対彼女作ってやる!

多分無理だけど。





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