「ということで、蔵元さんは私とえっちするべきだと思うんです」
「何がということで、だ。いい加減にしなさい」
「痛い!」

カラオケで横に座りながら、歌の合間に乃愛ちゃんがまた馬鹿なことを言い出す。
脳天にチョップをくらわせると、頭を抑えて涙目になる。
その上目づかいはとてもかわいいけれど、相変わらずやってることにかわいさの欠片もない。

「蔵元さん、本当にもしかしてED………」
「それ以上言ったら帰ります」
「すいません、なんでもないです!」

人を勝手に不能にしようとする彼女に釘を刺す。
まあ、付き合い始めてそろそろ一か月。
確かに本気で何もしていないこの状況は異常かもしれない。
しかしたまにそんな気になっても全てをぶち壊すのは、目の前のかわいらしい彼女なのだ。

「かくなる上は!」
「かくなる上は?」

ものすごい古風な言い回しで決意を固め、握りこぶしを握る乃愛ちゃん。
さて、今度は何をしでかすのか。

「実力行使です!不意打ち御免!えい!」

わざわざ宣言してから、俺に飛びつこうとしてくる。

「えい」
「ひゃあ!」

余裕を持って、その手を押さえて横にひねる。
かわいらしい間抜けな声をあげて、乃愛ちゃんはソファから転がり落ちる。
そして打ったらしいお尻をさすりながら、上目遣いに睨んでくる。

「………ひどいです」
「全く不意打ちになってなかったんだけど」
「どうして時代劇とかって最初に皆予告して襲うんでしょうね」
「本当ですね」

それは俺も昔から謎だ。

「で、今度は誰の入れ知恵なの?」
「先輩方が、もう縛ってヤってしまえ!と。でも縛るのはちょっと初心者としては照れてしまうので押し倒そうかと!」
「照れる場所が違う」

そこで照れる前に襲ったりストレートに誘ったりする時点で照れろ。
なんて、今更いってもどうしようもないんだが。
本当にもう、どうしようもないんだが。

「もう、ほんと、乃愛ちゃんは鎖につないで檻にいれておきたいわ」
「え」

遠目から大人しくしているところを見ている分には、かわいらしい子なのだ。
鎖にぐるぐる巻きにして檻に放り込んでおけば、乃愛ちゃんに欲情することも可能かもしれない。
なんてことを考えていると、乃愛ちゃんが床に座り込んだまま、キラキラした眼で俺を見上げてくる。

「つ、つないでください!檻にいれてください!」
「は!?」

胸の前で祈るように手を組んで、俺を拝むように真っ直ぐに見詰めてくる。
期待に満ちた表情が、生き生きとしてとてもかわいらしい。

「そういうプレイですよね!?蔵元さんそういうのが好きなんでしょうか!どんど来いです!むしろ今ドキドキしました!蔵元さんに鎖で繋がれて檻で飼われたいです!そんでにくどれ………」
「てい」

またとんでもない単語が出てきそうになっていたので、脳天チョップで止まる。
だんだん慣れてきたぞ、これも。
俺つっこみスキル、かなり上がってるんじゃないだろうか。

「あんまり変な本読まないように」
「ううう」

さっきよりも強めの脳天チョップに、乃愛ちゃんがまた涙目で頭を抑える。
どうしてこの子はその情熱をもっと別な方向に向けてくれないのだろうか。

「蔵元さん、そういう趣味おありなんですか?」
「おありじゃないです」
「あ!」

そこで何かを思いついたように、手をぱんと叩く。
うん、嫌な予感しかしない。

「じゃあ、私が蔵元さんを鎖でつないで檻に閉じ込めるのはどうでしょう!うわ、鼻血でそうです!」
「本当に君をどうしましょうね」

一つ息を吸って、吐く。
女の子をあまり殴るのも忍びないしな。
そして、ウーロン茶を一口すすると立ち上がる。

「さて、帰るわ」
「あー、待ってください!鎖は嫌だったでしょうか!ロープでしょうか!」
「いい加減にしろ!この馬鹿娘!」

そしてついに俺は拳で、その頭に制裁を下した。





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