ドキドキする。
心臓が口から出てしまいそうだ。
なんだか、あれに似ている。
予習をしていない授業で先生に当てられそうな時とか。
かくれんぼで、鬼に見つかりそうな時とか。
とにかくドキドキして、心臓が痛いくらい。

今日、誰もいないから遊びに来いよ。

なんて、使い古された台詞で訪れたカレシの家。
2人ともそのことで頭がいっぱいな癖に、気付かない振りをして。
ぎこちないまま、ゲームしたりなんかして。
それで、ぎこちない動きで、ぎこちない流れで、不自然なキスなんてして。
あー、ついに来る時がきたんだなあ、って感じだ。
ドキドキしているけど、どこか冷静。
恐る恐る胸に触ってくる手も、素直に受け入れる。

パンツもブラジャーもばっちり新しいものにした。
わき毛の頑張って処理もした。
すね毛も指毛も大丈夫。
来る前に念入りにシャワー浴びたし、ボディローションに軽く香水もつけた。
臭くないし、汚くないと思う。
ちょっと汗ばんでるし、おりものとか気になるから本当はもっかいシャワー浴びたいけど、今更ムードを崩すのもなんだ。
そのくらいはなんとか乗り切るしかない。

て、あ!

「ああ!」
「な、なんだよ!?」
「ごめん、今日無理!」
「は、はあああ!?」

私が突然体を離して拒絶したことで、カレシは大きな声を上げる。

「な、なんだよ、どうしてだよ、突然」
「えーと…その……」
「その……えっと、せ、せ、生理、とか……?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
「じゃ、じゃあなんだよ!」

そ、そうだよなあ、ここで止められるのは辛い、よね…?
なんか、さっきちょっと触ったところ見ると、た、たってるし……。

「や、やっぱ俺じゃいや、とか……?」
「そうじゃない!そうじゃないの!えっとね、その…」
「なんだよ!」

いつも優しい人なんだけど、なんか目が血走ってる。
男って、やっぱ急には止まれないのかな。
よく、わかんないけど。

「あの……」
「だからなんだよ!」
「はらげ……」
「へ?」
「腹毛の処理、してない……」
「は?」
「だから、腹毛の処理、してないの!」
「…………腹毛…?」

ものすごく恥ずかしいけど、こっくりと頷く。
なんか、怖いし。
正直に言わないと、マジで別れられそう。

「………」
「わ、私産毛濃くて、なんかこう、ギャランドゥが……」
「………見せて?」
「え、や、やだ!」
「お願い、ちょっとだけ!てか女にもギャランドゥとか生えんの!?」
「生えるよ!普通に!」
「見せて!ちょっとだけ!」

熱意に負けて、ちらりと服をめくって見せる。

「へー……確かに、濃いな」

マジマジと見てくるカレシに、なんか泣きそうになる。

「や、やっぱヤダよね…、こんな無駄毛の濃い女……」
「え、いやいやいやいや!気になんねえよ!こんなの!」
「うそだ……」
「いや、マジで!てかこんなの気にするのがよくわかんないし、言われなきゃ気づいてなかったし!」

必死こいて説明するカレシ。

「……本当?」
「本当!てかむしろ自己申告されたほうが萎えるって」
「………もう、やだ?」
「いや、むしろもうギリギリ。なんかそんなこと気にしてるってのが、こう………その、……かわいい」
「本当……?」

こくこくと何度も頷く。

「ていうかそんなこと気にしてる余裕ないし、俺のほうは」
「え?」
「いや、なんかもうお預け勘弁してください」
「………」
「すいません、やらせてください」
「こんなのでも、やる気なる?」
「なるなるなる!もうすいません、お願いします、頼みます!」
「………なんか、やりたいだけって感じ」
「だー!!!!やりたいんだよ!とにかくやりたいんです!」
「か、体だけが目当てって感じ……」
「体も目当てだけどそれだけじゃないんです!」
「……私のこと、思ってくれるなら、止めてくれても、いいんじゃない」

私だって、初めては、なんか、いい想い出に、したい。
こんな、色気のない初えっちは、いやだ。

「なんで女ってそういうこと言うかな!?ギリギリなんだって、こっちは!マジで!無理!止まんないの!」
「……そんな、何回もやったことあるの?」
「いや、ない!ないです!お前が初めて、これは本当!」
「………」
「疑いの目で見るな、吉原にでも聞いてみろ!本当だから!」
「………」
「そんな何回も経験あったら、こんなギリギリじゃねえっての」

カレシが急にジーンズのファスナーを下ろし始める。

「ちょ、な、何!?」
「見ろよ、ほら、こんなんなっちゃってるんだって」

ジーンズを下ろしたカレシのトランクスは、確かに大きく盛り上がっている。

「うわあ…」
「な、だからお願い!」
「なんかムードないんだよね…もっと、こう、気のきいたこといえないの」
「えーと、その、俺は、お前がどんなんでも、好きだから……腹毛生えてても」
「一言多い!」
「すごい、好きだから、お前を、抱きたい」
「ぶはっ、なんか抱きたいとかうけるんだけど、何気取っちゃてんのー!」
「お前が言えっていったんじゃねえか!」
「う、くくくく!ぷははははは!」

あー、なんか笑ったら緊張がほぐれてきた。
私、なんか緊張しすぎだったかな。
そんな気を張らなくてもいいのかも。
私も、いっぱいいっぱい。
あっちだって、いっぱいいっぱい。