「あいつが、もうすぐここにくる」 「本当ですか!?」 「ふん」 檻に囚われた小さく儚げな女は、疲れた顔にそれでも喜色を滲ませた。 青ざめていた顔に赤みがさし、美しさがさらに引き立つ。 白い肌。 細い手足。 輝くような美貌。 高い地位に、気高い心。 あいつの隣に立つのが、何よりも自然な女。 「ああ、マリオ……」 「ふん、お前の前であいつを引き裂いてやる。せいぜい楽しみにしておけ」 「………あなたは、なぜこんなことをするのですか」 「………」 その問いには答えずに、俺は石造りの城の外に目をやった。 今、あいつはここを目指している。 そして、辿り着くだろう。 俺の元に。 あの真っ直ぐな熱い目で、俺を見つめ、その憎悪を、俺にたたきつける。 それは、俺にだけ許された特権。 あいつは俺だけを見て、あの優しい男が、俺だけを憎む。 この醜い容貌も、何かを傷つけることしか出来ない爪も、獲物を引き裂く牙も、すべてはこの時のために。 目の前の白い小さな女が、あいつの隣に立つためにいるのだとしたら、俺はあいつの前に立つためだけにいる。 あいつの前に立てるのは、俺だけだ。 さあ、早くこい。 俺を見て、俺だけを見つめて。 そして、俺に挑むがいい。 考えただけで、体が震える。 もうすぐ、あの最高の快感を味わえる。 この手であいつを引き裂く。 この爪であの体を傷つけ、この牙で喰らう。 ああ、それはどれだけの充足感。 早く来い。 早く来るといい。 「…あなたは、かわいそうね」 ぽつり、と檻の中の女が言った。 可哀想。何が可哀想なんだ。 俺は、最高に、恵まれている。 お前なんかに分かるものか。 分かられてたまるものか。 あいつの前に立つのは俺だけ。 俺だけなんだ。 そしてあいつの手にかかって、死ねる悦び。 お前になんか分かるものか。 お前だけには、分からない。 それは、俺だけが手にすることのできる、最高の、悦び。 |