しまいこんだ宝石箱を、見つけたのは娘だった。

「ね、お母さん、このビーズのピアス頂戴」
「あ、それ……」
「かわいいね、これ。ていうかお母さんピアスの穴開いてないよね?」
「………うん」

青い、少し変わったデザインをしたドロップ型のピアス。
ピアスを身に着けることがない私が持っている、唯一のピアス。
胸の痛みと共にしまいこんだ、ずっと見るのが辛かったもの。

「なのになんでピアスなんて持ってるの?」
「デザインが、気に入ったの」
「あ、なるほどね。ビーズだしね。でもなんでまたあんな奥深くにしまってあったの?」
「あんたはなんでそんなところまで見てるのよ」

年頃になるとともに洒落っ気がでてきた娘。
でもまだ小学生なのに、そんなアクセサリは早すぎると思う。
なのに、夫は娘に負けてピアスの穴を開けることを許してしまった。

「だってー、お母さんの押入れかわいいアクセがいっぱいあんだもん」

悪びれなく口を膨らませる。
好きな男の子が出来たというから、かわいい格好をしたいのだろう。
その気持ちは、分からないでもない。
けれど。

「まったくもう、あんたは。でも、それは、だめ」
「ええ、なんで!」
「もらい物だから」

そう、貰ったのだ。
彼からもらった、唯一のもの。
ずっとずっとしまいこんでいた、小さな想い出。
ちくりとした痛みを伴う懐かしさ。
ちょっと切ない、宝物。

「えー、ピアス出来ないのにピアス贈るってどんなアホよ」
「私が欲しいって言ったのよ」
「なんでまた」
「ね、なんでだろう」

やっぱり身につけられるものでなくて、よかった。
下手に身につけられるものだったら、私立ち直れてたかな。
ね、友ちゃん。

私のすべてだった人。
今はもう、くすっぐったい痛みと共に思い出せる初恋の人。

「誰に貰ったの?」
「ふふ、初恋の人」
「うっわ、マジ!?どんな人だったの、てかお父さん?」
「さあねえ。秘密。とても素敵な人」
「わー、お父さんに言ってやろ!こんなの隠してたよって、浮気だ浮気!」
「とてもとても、大好きだった人よ」

騒がしい娘から、アクアブルーをした宝物を取り上げる。
体温が移って温かいそれに、あの時の嬉しさが蘇るようだった。

夢中だった。
一生懸命だった。
あんなによくやれたものだと思う。

今思うと恥ずかしいというかなんというか。
若かったな、って感じだ。
顔が赤らむような、息苦しいような想い。

「懐かしいなあ」
「ね、ね、付き合ったの?どんなだったの?」
「楽しかったよ。とっても」

ね、楽しかったよね。
だって、あんなに一つのことに真っ直ぐになれたことって、ない。
どんな辛いことだって、哀しいことだって、あったけどね。
後悔してないっていいうと嘘だけど。
それでもね、今になったらいい想い出っていうとなんか安っぽいけど。

それでも、あなたに出会えてよかったと、思ってる。
それは、今が幸せだからかな。

ね、友ちゃん。
あなたと出会えて、よかったです。





もしくはこんな…


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