「よう、じじい。まだ生きてやがんのか」
「うるさいわ!とっとと練習に入らんか!」

じじいはいつも通りに青筋を立てて、俺をリングへと追い立てる。
そのいつも通りの様子に、胸をなでおろす。
この前倒れてから、どうも心配性になっていけねえ。

じじいには約束通り世界を見せてやった。
でも、まだまだこれからだ。
三階級制覇だろうが、五階級制覇だろうが、見せてやる。
じじいに、もっと高みを見せてやる。
だからその前にくたばったりされたら困るんだよ。

俺の抑えきれない力を方向性につけたのが、じじいだ。
手綱をとって、俺にボクシングという目的を見せてくれた。
そして世界という遥かな高みまで連れて行ってくれた。

じじいは俺の才能だと言うが、じじいがいなければ俺は何もできないチンピラのままだっただろう。
じじは、ケダモノだった俺を人間にしてくれた。

「じじい」
「なんじゃ」

年の割にはしっかりとした、敏捷性のある体。
最近その姿を見ているとたまらなく頼りなく感じて、抱きしめたくなって困る。
俺を殴り飛ばす、世界で唯一の人間なのにな。
そんな弱い存在じゃない。
なのに、守りたい、なんてとちくるった思いが生まれてきてしまう。

「なんでもねえ」
「ならとっととはじめろ」
「へーへー」

これは尊敬だろうか。
親愛だろうか。
分からない。

ただ分かるのは、ずっと飢えて暴れ狂っていた俺の中の熱が、じじいを見ていると収まるってことだけだ。
熱ではなく、温かさを感じる。

そう。
それはまるで、陽だまりのような、





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