「そんじゃ、ここらで一発告白ターイム!」

ミス無神経大川が、また何かを言い出した。
酒もほどよく回って、いつもより口も回るし、意味不明さも増加している。

「………おい、大川」

ていうか焼酎一瓶空いてんじゃねーか。
まあ、ほとんど池さんと鷹矢君が飲んでいたが、大川もかなり飲んでいる。
大丈夫か、これ。
つーか、俺、大川、黒幡、池さん、鷹矢君って本当にシュールなメンバーだ。
なんでこんなことになったんだろうな。

「そんじゃ、トップバッター、黒幡君!恋人の一番好きなところはどこですか!」

一応制止しようとしたが、大川はそんなことで止まるはずがない。
手でマイクを作り、黒幡に向かって差し出す。
黒幡は酒に弱いからちびちびとしか飲んでいないので、表情もいつも通りだ。

「才能。………恋人って、先輩のことでいいんだよな?」

相変わらずの揺るぎない即答。
ここはもう、ブレることはないな。
こいつは何もかもを投げ打つぐらい、池さんの才能に惚れこんでるしな。

「多分いいんじゃなーい?じゃあ、池さん、恋人の一番好きなところはどこですか!」
「便利さ」

こっちもまた揺るぎない。
相変わら甘さも何もない。
まあ、恋人がお互いだと認識している分、前よりはマシなのか。

「確かに黒幡は便利ですよね!たまに貸してください、私親子丼食べたい!」

酔っていつもより飛ばしている大川は、さりげなく酷い台詞を言い放つ。
焼酎をロックでぐいぐい飲みながらも一切酔った様子を見せない池さんは、ふっと笑う。
前に黒幡が言っていたが、どうやら池さんは大川を割と気に入っているようだ。
黒幡といい大川といい、変わり者が好きなのだろうか。
まあ、自身が一番ぶっとんだ変わり者だが。

「見返りは?」
「えー、じゃあ、わ、た、し」
「おい、大川」

本当にもう、この女は。
そんなこと言うと、本当に食われるぞ。
それでも笑って済ましそうなのが怖いが。
池さんは楽しげに肩を竦める。

「まあ、たまには貧乳もいいか」
「だから貧乳じゃないって言っんじゃないですかあ!見せてやりますよ!!見るがいいよ!」

そして服を脱ごうとする大川を羽交い絞めにして必死に止める。
こいつはどこまで怖いもの知らずなんだ。

「だからやめろ、大川!池さんもやめてください!」
「ああ?」
「すいません!」

じろりと睨みつけられてつい謝ってしまう。
本当に怖い。

「そいつ交えて3Pもいいんじゃねーの?お前女とヤリたいって言ってただろ」
「大川は嫌です」

池さんが黒幡に話を振ると、黒幡は言下に却下する。

「なんだとこらああ!」

腕の中の大川が更に暴れ始める。
猛獣か、この女は。
この中で紅一点なのに、まったくそんな気がしないのはなんでだ。

「く、黒幡もやめろ!」
「大川は、大事にしたいし、いつまでも友達でいたいから」

けれど、黒幡の続けた言葉に、大川が動きを止める。
毒気が抜けたように、顔を赤らめて俯く。

「そ、そっか」

黒幡がたまに言うこういうストレートな言葉に、大川は弱い。
まるで普通の女の子みたいに照れたりする。
黒幡、池さんという男の恋人がいるくせに、女たらしだよな。
いや、男の恋人がいるからこそ、下心なしにこういうことを言えるのだろうか。
くっそうらやましい。
俺にそんな技術はない。

「えへへ、じゃあ、次いってみよー!鷹矢君、恋人の一番好きなところは!」

満足したらしい大川は手マイクを、今度はおろおろと周りを見ていた鷹矢君に向ける。
急に話をふられた鷹矢君は目を丸くしてしどろもどろになる。

「あ、あの、俺恋人いないんで」
「あ、そうなんだー、じゃあ、えっと、好きなタイプは?」

鷹矢君は困った様子で辺りを見渡すが、助け船を出す人間はいない。
池さんは我関せず、俺は怖くて止められない、大川と黒幡は身を乗り出して興味津々だ。
鷹矢君は仕方なく、ぼそぼそと照れたように言う。

「そうだな、優しくて、思いやりがあって、常識のある子、かな………」

ああ、なんか、ああ。
うん。

「あははは、苦労してるー!可哀そうー!」

そのものずばり大川が笑い飛ばす。
非常識人間に囲まれて、随分苦労しているのだろう。
いい彼女が出来ることが祈るばかりだ。

「鷹矢、彼女出来たら連れて来いよ」

黒幡がじっと無表情に鷹矢君を見ながら言う。
鷹矢君はちょっと身を引く。

「なんでだよ」
「見たいから」
「やだよ」
「俺には見せられないのか」
「そういう粘着質なところが怖いんだって!」

本当に怖いわ。
こいつのこの鷹矢君への執着はなんなんだ。

「あはは、修羅場ー。あ、黒幡、鷹矢君の一番好きなところは?」
「優しくて頼もしくて可愛くて、むしろ欠点がない」
「やめろ!!!」

黒幡が真顔で言い切ると、鷹矢君が黒幡の頭をはたく。
ああ、本当にかわいそうだなあ。
なんでこんな熱く愛されちゃったんだろう。

「らぶらーぶ!あははははー」

そして大川、お前はそろそろやめろ。

「鷹矢君、彼女作ったら大変だー」
「………勘弁してください」
「連れてこいよ」
「だからなんでだよ………」
「黒幡、嫌な姑みたーい!」

ああ、本当だ、それだ。
姑みたいだ。
彼女連れて来たらイビりだしそうで怖い。
俺は友達のそんな姿は見たくない。

「だって鷹矢はこんなにかっこよくて性格よくて、金持ちで、育ちもよくて、ちょっと押しが弱い。変な女にひっかかったら押し倒されて既成事実作られるかもしれないだろ!」
「………おい」

珍しく興奮した様子の黒幡が、真剣に語る。
いや、まあ、確かに鷹矢君は優しすぎるくらいに優しすぎる金持ちの坊ちゃんだから心配ではある。
だけど黒幡の愛は重くて怖い。

「俺が女だったら、絶対に押し倒す」

だから怖いって。

「お前、実際押し倒してたしな」

そして池さんが更に怖いことを言い出す。
何言ってんだ何言ってんだ怖いよ。

「今だって押し倒したいです!先輩と鷹矢が許すなら一回ぐらいヤリたい!」
「やめろ!!!」
「やだー、黒幡クソビッチー!」

ああ、黒幡も酔っていたのか。
大川も酔ってる。
池さんは酔ってても酔ってなくても一緒だ。
止めてやらないと、鷹矢君が可哀そうだ。

「おい、黒幡やめろ、鷹矢君が可哀そうだ。さすがにそれは冗談でもタチが悪い」
「冗談じゃないんだけど」
「余計に悪いからやめろ」

ああ、なんて可哀そうな鷹矢君。
怯えた様子で、さっきより距離を置いている。
無理やり押し倒すことはないだろうけど、これは怖い。

「あれ、黒幡、鷹矢君ならいいの?私とは嫌なのに?鷹矢君はずっと友達続けるんでしょ?」
「いや、大川にはその気にならないというか」
「なんだとこら!」
「ストップストップストップ!大川、ほら、落ち着け。どーどーどー」

そしてまたさっきの話を蒸し返し、激昂する大川をまた羽交い絞めにして止める。
ああ、もうなんでこんなことになってるんだ。

「もうー!あ、そうだ、松戸の好きなタイプは?」

そこでようやく俺の存在を思い出したらしい。
後ろの俺を振り返って、聞いてくる。
まさか話をふられるとは思わず、心臓が跳ね上がる。

「え、お、俺?」
「そうそう。あんた彼女いないよね」
「い、いないけど」

いない。
欲しいけどいない。
欲しい。
彼女欲しい。
誰に彼女になってほしいかっていう、希望もある。

「そ、その」
「うんうん」

腕の中のアルコールが入ってるせいか熱めな体温を、改めて意識してしまう。
カメラを何台も持ち歩く力もちのくせに、やっぱり柔らかい体。
なにかつけているのか、花のようなさわやかな匂いがする。

「俺の好みは、その、明るくて元気で、ちょっと無神経すぎるぐらい元気で、でも一緒にいるとつい笑っちゃうぐらい朗らかな子、かな。胸はちょっと小さいけど、でも、実は優しいし、一緒にいて、楽しい、本当に元気な、子」

あああ、酔った勢いで言っちまったああ。
やっちまった。
いや、でも、これくらい勢いがないとだめだ。
いつも失敗してるし。
例え振られても黒幡も鷹矢君も何も言わないはずだ。
池さんは興味がないはずだ。

「えー、なにそれ貧乳で無神経って最低じゃーん。一緒にいたら疲れそうだし、楽しくなさそうー」
「………」
「………」
「………」

ああ、うん。
そうだよな、うん。
回りくどい、俺が悪かった。

「もっと性格いい子にしなよ!」
「あ、ああ、うん」

にっこりと笑いポンポンと俺の肩を叩いて、大川が立ち上がる。

「お酒なくなっちゃった、黒幡、冷蔵庫から出していい?」
「どうぞ」
「はーい」

大川が台所に去ると、黒幡が俺の肩をぽんと叩く。

「頑張れ、松戸」
「………」

今は、その優しさが痛い。

「情けねえな」
「み、峰兄!」

いや、優しさも痛いけど、塩をすり込まれるのはもっと痛い。

「そ、その松戸さん、その、えっと、大川さんはその、ちょっと、鈍い、じゃない、大らかな人だから、その」

鷹矢君がわたわたとしながら、なんとかフォローしてくれようとする。
ああ、なんていい子なんだろう。
心に染み入る。

「俺の癒しは鷹矢君だけだ!」
「わ!」

つい、目の前の優しい青年に抱き着いてしまう。

「あ、松戸、離れろ」
「うお」

すると後ろからぐいっとひっぱられる。
ふりむくと黒幡が怖い顔で睨んでいた。

「鷹矢に鞍替えは許さないからな」
「あほか!」

そして鷹矢君が黒幡の頭をはたく。

「あ、なになに、男同士の四角関係?きゃー、超修羅場ー!血みどろの決戦だー!」

そして戻ってきたミス無神経が嬉しそうに騒ぎ出す。
ああ、もう、うん。

これはもう、この女に察することを願った俺が悪かった。


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