ノックが聞こえて、柳瀬が軽く返事をする。 「………柳瀬、大丈夫か?」 恐る恐るドアを開けて入ってきた雨宮に、電話をしていた柳瀬は待ってろと言うように、軽く手を上げる。 雨宮は大人しく頷いて、ドアの前で立ったまま待つ。 「………」 柳瀬は電話をしながらメモを取ったり、カレンダーを見たり、着ていた上着を脱いでハンガーにかけたりしながら、部屋の中を歩く。 雨宮は突っ立ったまま、柳瀬が歩く姿を、右に左に目で追う。 「ああ、じゃあ、また。分かった」 そして柳瀬が通話を切る。 そして、デスクに戻って更に何かを書きつける。 その間も雨宮はじっと黙って柳瀬を目で追い、ひたすらに待っている。 柳瀬が無表情にドアの方に振り返る。 「………」 雨宮の目が期待に満ちて輝き、今にも動き出しそうになる。 けれど、まだ、黙って立ったままだ。 柳瀬がふっと表情を緩める。 そして雨宮の方に手を差し伸べた。 「待たせて悪かったな。おいで、秀一」 「京介」 ぱっと雨宮の顔が、目に見えて明るくなる。 喜びが溢れんばかりで、きっと尻尾があったら千切れそうなほどに振っていただろう。 そして早足で柳瀬の元へ行くと、その首に腕を回し、キスをする。 「いい子だ、秀一」 雨宮が、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。 その背を抱き、頭を撫でる柳瀬も満足げだ。 「………犬だ」 完全に犬だ。 そして、この犬はどうやら待てが出来るらしい。 「え、秋庭!?」 そこでようやくバスルームから出ようとしていた俺の存在に気付いたらしい。 雨宮が慌てて柳瀬から離れ、顔を赤らめる。 「………だから、俺の部屋でやるな」 桜川に見られたらと思うと、背筋が寒い。 頼むから俺がいないところでやってほしい。 「しかし、思った以上に犬だな、お前」 その言葉に、なぜか雨宮は、照れたように顔を赤らめた。 なんでだよ。 いや、ほんとないわ。 |