「うわ!」

三田が野口から逃げようとして後ろに下がり、こけそうになる。
その前に野口がその腰を支えて止める。

「あ、ありがとう」
「重いから、早く立って。俺非力なんだってば」
「うっさい、ぼけ!誰のせいだ!」

顔を赤らめてお礼を言おうとしようとする三田に、野口はいつもの通り余計なことを言う。
そしてこれまたいつもの通り殴られる。
三田は怒って足音荒く、去っていく。

「野口って、三田のことよく分かってるよな」
「ん?」

殴られた頬をおさえながらも楽しそうに戻ってきた親友に感心してしまう。
野口は不思議そうに首を傾げる。

「ああいうフォローとか、後三田の言うことにすぐ返事するとか、三田のことよくわかってるからこそ出来るんだよな。すごいな」
「ああ、お前雪下の言動とかあまりよく分かってない感じだしな」
「う」

こっちは褒めたのにきつい言葉が返ってくる。
確かに俺は気が利かない。
昔からあまり周りの人間の感情とかを察するのは苦手だった。
目の前の友人の、周りをよく見て、気を回すのとかが得意なところは、正直尊敬している。

「お前はもっと自分のことだけじゃなくて、相手のことを見た方がいんじゃない?」
「………お前、きつい」
「ま、俺も人のこと言えないけど」

でも、こういうことはっきり言ってくれるところは、ありがたい。
野口は仲が良くない人間には適当に愛想がいいから、気は許されているのだろう。

「三田も俺もお前に惚れてるの全然分かってなかったしな」
「だからそういう冗談はやめろ」

こういうすぐタチの悪い冗談言うところは困りものなのだが。
本当はいいやつだし、気を許してくれてるのは分かるけど、毒舌だし、タチの悪い冗談が行き過ぎるところは、ちょっと控えた方がいいかもしれない。

「ま、お前にはしっかりしてて何気に強かな雪下みたいのが似合ってると思う」

野口はうっすらと笑って、そんなことを言った。
雪下は可愛くて朗らかなのに、確かにしっかりしてて頭がよくて強い。
守りたいと思っていた少女は、俺みたいなぼうっとした人間を引っ張っててくれるほどだ。
たまには、俺も雪下をリードするぐらい、しっかりしたいんだけど。

「………お前はしっかりしてていいよな」
「いや、まったくしっかりしてないけど」
「でも、三田のフォローとか、うまいしさ」
「ああ」

野口は肩を竦める。

「単に一挙手一投足を見逃したくなくてひたすら観察してるだけだから」
「え?」
「三田がどんな時笑うか、怒るか、泣くか、全部見逃したくない、知りたい。全部いじりつくしたい。俺が笑わして、怒らせて、泣かせたい」
「………」
「基本ストーカー気質だから、俺」

そう言ってジュースをすする野口に、つい笑ってしまう。

「本当に、三田が好きなんだなあ」
「へ?」

俺も確かに、雪下のすべてを見たい
笑って、泣いたり怒ったりするのは哀しいから嫌だけど、でもちょっと見たい。
見逃したくない。
そんな気持ちはわかる。

「三田のことずっと見てるから、気遣いも出来るんだな」
「………」

野口は無表情に俺の顔をじっと見て、黙る。
何か変なことを言っただろうか。

「野口?」
「あー」

それから俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「野口?」
「やっぱり俺、お前も好きだわ。うん。三田が一番だけど」
「え、うん?」

好きとストレートに言われるとさすがに照れる。
男同士で好きっていうのも、なんか変な感じだし。
いや、割と嬉しいけど。

「藤原はそのままの単純馬鹿でいいと思うよ」
「え、あ、ありがとう」

あれ、もしかして褒められてないのか?






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