「なんであんたがここにいるんですか」
「こえーな、いいだろそれくらい」

清水姉と一緒に歩いていたところを見咎めて、弟が険しい顔で近づいてくる。
相変わらず心せめーな。
もう自分が選ばれたんだからどっしり構えてりゃいいのに。
こいつはずっと安心することもないんだろうな。

「真衣ちゃん?」
「………参考書、借りてただけ」

弟の静かな、けれど冷たい詰問に、清水姉はやや怯んだ感じで返事をする。
ただ、前までは怯えて何も答えられなくなっていたから、ある程度成長もしたのだろう。

「こいつに借りなくてもいいでしょう?」
「千尋、私は、根木とは、友達でいたい」

目を逸らし、たどたどしく、けれど清水姉ははっきりと言う。
やっぱり随分、成長したと思う。
弟は、じっと見ている俺以外には分からないようにわずなに鼻に皺を寄せる。
姉が自分に逆らったのtが、気に入らないらしい。
目を逸らしている清水姉には見えていないが。

向かい合う二人はまったく対照的だ。
綺麗な顔立ちで印象的な弟、ぼんやりとした地味の印象な姉。
背の高いスタイルのいい弟、猫背で痩せすぎている姉。
でも、茶色がかった猫っ毛や、目の色は、とてもよく似ている。

ただ前からちょっと思っていたのだが、何気に清水姉の顔立ちも、それなりに整っているのではないだろうか。
いつももさいので分からないが、よく見れば弟に似ているような気がする。
弟よりも地味目な顔立ちだから、目立たないのかもしれない。

「………清水ってさ、磨けば結構光りそうだよね」

清水は外見に気を使うことなく、髪はぼさぼさ。
猫っ毛でまとまりの悪い髪は、手入れしないのでひどい状態になっている。
それに食に興味がなくお菓子以外はロクに食べていないせいか痩せぎすで顔色も悪い。
肌もやや荒れている。
全体の印象として、悪い。
でも、これらをどうにかすれば、結構どうにかなりそうな気がする。

「は!?」

じっと顔を眺めながら言うと、清水姉は驚いて眼を丸くする。
何を言われたか分からないと言うように、俺の顔をじっと見る。

「やっぱさ、髪をもうちょっと整えてさ。綺麗な色してるから色は入れなくていいかな。後栄養のあるもの食べて、背筋伸ばして。そうだなちょっと化粧もしてみて」

なんだかいろいろな妄想が浮かんでくる。
別に今でも俺にとってはかわいいが、清水姉には改善の余地が色々ある。
磨き上げて綺麗にしたい衝動が沸いてくる。
光源氏ってこんな気持ちなのだろうか。

「あ、あんた何言ってんの!」
「いや、清水千尋と顔立ちやっぱり似てるよね。素材は一緒なんだから、いけるって。性格は可愛いんだし」
「ば、ば、馬鹿じゃないの」

清水姉は悪態をつきながらも、どこか照れた様子で顔を赤らめている。
やっぱかわいいなあ。
こんなに可愛いんだから、もっと多くの人に知ってもらえればいいのに。

「真衣ちゃんが?」

そこで、笑い交じりの声が入る。
たった一言。
けれどその嘲笑の響きは、清水のコンプレックスを刺激し、黙らせるには十分だった。
ほんのりと朱に染めていた顔を、一気に青くさせる。

「………っ、べ、別に、そんな」

自分に自信のない清水は、無表情になり、俯く。
清水千尋は、なおも穏やかな笑顔で言う。

「いいんじゃない?化粧してみれば?」
「うるさい」

清水は堅い声で言って、顔をそむける。
さっきまでの和やかな空気など消え去っている。
ああ、なるほど。
こうやって清水の自信とか外見に向ける気力とかを根こそぎ奪っていったわけか。
相変わらず粘着質で怖いことだ。

「………お前本当に心狭いな」
「なにがですか?」

思わずつっこむと、清水千尋はしれっとした顔でそう答える。
なんの罪悪感も感じていないようだ。
まあ、感じてないんだろうな。
姉には自分だけがいればいいと、本気で思ってる電波だからな。

「まあ、俺は俺なりに清水姉弟に関わるから、清水真衣には正直な感想を言っちゃうけどね」
「必要ないです」
「いや、お前が決めることじゃないから」

俺の言葉に、清水千尋が苦々しく顔を歪める。
怖い。
つーか本当にいつか俺、こいつに刺されそうで怖い。
でも、だからこそ、この二人が気になって仕方ない。

「勿論、清水千尋にも関わるから安心してね!」

そう言うと、ますます顔を歪める。
俺は、この二人をどうしたいんだろうな。

「仲良くしような、清水姉弟」

でも、見ていたいんだから仕方ない。
この危なっかしい不安定な姉弟を。






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