志藤さんは呆然と、天と、そして天の下にいる俺を凝視している。

「三薙さん、四天さん………?一体、何を………」

何が起こっているのか理解できないように、ただじっと俺たちを見つめている。
その視線に、今の自分たちの姿がリアルに認識出来て、羞恥に全身が熱くなる。
浴衣が肌蹴た足はほとんど剥き出しで大きく開き、天の体を迎え入れている。
弟に好きなようにされて、女性のように組み敷かれて、泣いている自分。

「う、う、や、やめろ、てんっ」

力の入らない手で、なんとか天を押しのけようとする。
けれど天はいつものように意地の悪い顔で笑うと、素早く俺の下着を下げ、ぎゅっと性器を握りしめる。

「んっ」

甘い痛みに、喉を晒してのけ反る。
高い声が出て、屈辱にますます涙が出てくる。

俺の意志を無視して好き勝手にする天。
自分の自由にならない体。
こんなことをされても快感に溶けていく理性。
その全てに、悔しくて、苦しくて、哀しい。

「三薙さん!」

志藤さんが咎めるように声を荒げて、部屋の中に入ってくる。
乱暴な足取りで一歩部屋に入ったところで、天が俺の体を抑えつけながらようやく志藤さんに視線を向ける。

「志藤さん、大きな声はあげないでくれますか?誰か来ますよ。それとそこ閉めてください。今の兄さんの姿を誰かに見られてもいいんですか?」

どこまでも冷静な声に志藤さんは気勢を削がれたように、立ち止まる。
眉を寄せて苛立ちを見せて一瞬躊躇った後、障子を閉める。

「勝手に部屋に入っちゃいけません、って習いませんでした?」
「………四天さん」

天の揶揄するような言い方に、志藤さんが震える声で呻き、ますます顔を険しくする。

「兄さんも」
「………っ」

なんとか天の下から抜けだそうと暴れていた俺の耳元に、天が顔を寄せる。
息を吹き込まれるように囁かれて、体がまだ小刻みに震えてしまう。

「あまり大きな声を出すと、人が来るよ?」
「っ」

古風な日本家屋は、障子一枚を挟んですぐ廊下だ。
あまり大きな声を出したら、誰かが来る。

「四天さん、これはどういう、ことなんですか」

志藤さんが感情を押し殺すような低い声で問う。
見ないでほしい。
こんなところ、志藤さんには見ないでほしい。
弟に好き勝手にされている、情けない姿を、見せたくない。

「どういうことって」
「あっ」

天が笑い交じりに俺の体をひっぱり起こす。
そして膝に乗せるような形で、後ろから抱え込む。

「やめ、やめろ!」

志藤さんと対面するような座り方にさせられそうになって、必死に身をよじって抵抗する。
その時、天の手が、俺の腕を思い切り掴んだ。

「つっ」

この前阿部によってつけられた腕の傷に、爪が立てられる。
痛みに怯み、涙が溢れ、動きを制止されてしまう。

「や、だ」

天がその手で俺の足を持ち上げて、開かせる。
すでに帯で辛うじて止まっているような布地は、肌を隠す役目を果たしていない。
身をよじろうとしても、いつのまにか腕は後ろにまわされて天と俺の体に挟まれ、動かすことが出来ない。
ただでさえ供給中の体は、飢えと快感で、力が入らない。

「四天さん!」
「どうしたんですか?」

脱げかけていた下着が下ろされ、俺の勃ちあがった性器が、電灯の光の下、志藤さんに晒される。
志藤さんの顔をこれ以上見ていられてなくて、顔を伏せる。
涙が流れて、頬を伝って、浴衣に落ちる。

「三薙さんが、嫌がっていますっ」

志藤さんの悲痛な声。
見ないで、見ないで、お願い見ないで。
こんな情けない、俺の姿を見ないで。

「嫌がってる?本当に?」

天の笑いを含んだ声。
志藤さんに見せつけるように、更に足を開かされる。

「や、やだ、やめっ」
「しー、ほら、人が来ちゃうよ?」
「ふっ」

耳元で囁かれて、敏感になった体はその刺激を受け止める。
いやだいやだいやだ。
こんな体、嫌だ。
こんなの、嫌だ。

「こんなに勃って、濡れて、悦んでいるのに?」
「見ない、で、見ないで、くださいっ」

こんなの、嫌だ。
弟に好き勝手されて、それを快感として受け止めて、拒むことすらできない。
天と二人きりの時なら、まだよかった。
天にしか知られていないのなら、耐えられた。
志藤さんに見られていると自分のみっともなさが、情けなさが、より浮き彫りになる。
こんなの、誰にも知られたくなかった。
消えてしまいたい。

「みなぎ、さん………」

志藤さんの、どこか傷ついたような声。
呆れてしまっただろうか。
嫌われてしまっただろうか。
当然だ。
男のくせに、弟に触れられ、組み敷かれ、快感に体を震わせている。

「これは、必要なことなんです。仕事の一環です。あなたも知っているでしょう?兄さんには自分で力を作り出すことが出来ない。だから力の供給が必要なんです」

天は、何を考えているんだ。
なんで、こんなことをするんだ。
どうしてどうしてどうして。
どこまで、俺を貶めるんだ。
そこまで、俺が嫌いなのか。
近づけたと思ったのに。
少しは分かり合えたと思ったのに。

「ね、兄さん?」

伏せた顔をぐいっと捻られて横を向けさせられる。
天の顔が近づき、俺の唇を吸う。

「う、ぅ、んっ」

嫌がって背けようとした顔は、無理矢理固定される。
半開きになった口から舌が入り込んできて、唾液が触れる。
そうすると、また体が震え、脳みそが蕩けるような快感に力が抜けていってしまう。
中途半端に放置されていた全身が、天の力を、受けとめ悦んでいる。

「あ、はっ、あ………んっ」

無理矢理後ろを向かされる体勢が苦しくて、酸素を求めて喘ぐ。
でもそれとは裏腹に、天の唾液を求めて力を求めて、自分から天の舌を求めてしまう。
必死に天の舌を吸い、絡め、唾液を呑み込む。
体が燃えるように熱い。
脳みそが焼き切れる。

「ほら、ね、兄さんも、悦んでる」

自分も呼吸を荒げた天が、唇を解いて笑う。
上半身もいつの間にか肌蹴てしまっている。
天が、からかうように乳首をつまみあげて捻る。

「ひぅっ」

そのつんとした痛みすら、俺の体は快感として捉える。
胸を弄られながら、剥き出しの性器を擦りあげられる。
思わず達しそうになって、背骨が折れるぐらいに反り返る。
大きく開いたままの足が痙攣するように震える。

「駄目だよ。まだ供給が終わってない。まだイっちゃ駄目」
「くぅっ」

けれど天は無情にもぎゅっと根元を握ってしまう。
後少しでイケそうだったのに。
イキたい。
力が欲しい。
この体を満たしてほしい。

「志藤さんも、兄さんに力をくれませんか?」
「て、ん………っ」

熱に浮かされて、理性を飛ばす寸前、天の言葉を理解する。
何を言っているんだ、天は。

「ほら、兄さんも、力が欲しいでしょう?」
「くぅ、やっ」

曝け出した喉をつっと撫でられて、また大きく体が震える。
欲しい。
力は欲しい。
でも、いやだ。
何がいやなんだっけ。
でも、いやだ。

「やめてください、四天さん、なんで、こんな………」

遠くで悲痛な声が、聞こえる。
志藤さんの声だ。
耳に心地いい、優しい声。
でも今は不安そうな色を怯えている。

「駄目ですか?兄さんは欲しがってるのに」
「馬鹿なことを言わないでください!」
「残念だね、志藤さんはくれないって」

耳を舐められて、性器が震え、またジワリと濡れたのが分かった。
根元の戒めを解いてほしい。
擦りあげてほしい。
でもその前に、力が欲しい。

「俺の力だけで我慢してね」

天の唇が、また俺の唇を塞ぐ。
待ち焦がれた白い力が、体の中に流れ込んでくる。
ビクビクと体が震えてしまう。

「んっ、あ、はっ」

必死に舌を絡めて、より多くの力を得ようと唾液を呑み込む。
いつの間に自由になっていた手で天の首に縋りつく。
溢れた唾液が零れるのすらもったいない。
もっともっともっと。
もっと欲しい。

「みなぎ、さん」

十分に弟の力を貪った後、唇が離れていく。
回路も途切れ、天とのつながりが解かれる。
満たされて、体の力が抜けていく。
でも、体が熱い。
苦しい。

「てん、くる、しい」

身をよじると、天が耳元で笑う。
そして、俺の根元を戒めていた手を、ようやく離してくれる。

「イっていいよ、兄さん」

滑らかな手が、性器を擦りあげる。
的確に、気持ちのいい所を刺激してくれる。

「あ、あ」

もっとしてほしくて、足を大きく開く。
内腿がつるように、痙攣する。

「あっは」

ビクビクと打ち上げられた魚のように震えながら、精液を吐きだす。
腰を揺らしていると、天が尿道に残った精液も絞り出すようにしごきあげる。
頭が真っ白になって何も考えれない。
大きく開いた口から、唾液が溢れて伝う。

「気持ちよさそうだね、兄さん」
「ふっ、う、う………」

唇をなぞられて、苦くて生臭い味が口に広がる。
急激に体が重くなっていく。
全身から力が抜けて、後ろの天にもたれかかる。
瞼が重くなっていく。
熱い。

「四天さん、なんで、こんな………」

意識が、真っ黒に塗りつぶされていく。
今はそれが嬉しくて、目を閉じる。
もう、何も考えられない。

考えたくない。





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