鷹矢と一緒に買い物をして帰って、夜は鍋にした。
味噌と鷹の爪としょうがとにんにくを入れて辛めに味付けした豚肉がメインの鍋を、鷹矢はおいしいと言って沢山食べてくれている。
ぐつぐつと煮える音と立ち込める湯気は、体だけでなく心から温かくなれる。
鍋はとっても幸せな気分になれる料理だと思う。

「鷹矢は、先輩と何をして遊んだ?」

よく煮えた白菜を取り出しながら聞くと、鷹矢は目を丸くした。

「え、峰兄と?」
「うん。小さい頃一緒に遊んだりしなかったのか?」
「………」

鷹矢は難しい顔をして黙りこんでしまう。
そんな答えにくい質問をしただろうか。
一般的な兄弟は小さい頃どんなことして遊んだのだろうと素朴な疑問だったのだが。
と思ったが、そもそも先輩は普通じゃなかった。

「………いや、峰兄は小さい頃からあの性格だった、ていうか小さい頃はもっとひどかったから、遊ぶとかそういうレベルの話じゃなかった」
「………今よりもひどい性格の子供ってやだなあ」
「お祖母様以外、近づける人はいなかった。俺がガキの頃は、今みたいに憧れるとかそういうのなくて、ただひたすら怖かったし」

今よりも強烈で、こんなに兄を敬愛してやまない鷹矢すら怖くて近づけなかったって、先輩はどんな子供だったんだろう。
見てみたいような見てみたくないような。

「………」
「あ、でも、峰兄が落ち着いてから、俺も一緒の武道場通い始めたんだ。だからたまに組手してもらったりした。後さ、ガキの頃絡まれたりした時、助けてもらったりしたんだ」

黙りこんだ俺に鷹矢は慌ててフォローらしきものを入れる。
落ち着いてからってところも気になるけど、過去を思いだしてか嬉しそうに笑う鷹矢の話に水を差す訳にもいかない。
あの先輩が人助けをするなんて、やっぱり先輩も鷹矢はかわいいのだろう。

「へえ、先輩も弟はかわいいんだな」
「………いや、単に、暴れたかっただけな気もする」
「それは………うん」

そんなことないよ、とは口が裂けても言えない。
俺なんかより弟の鷹矢の方があの人の性格はよく知っているだろうし。
しかし本当になんで鷹矢は、あんな人が好きなんだろう。

「でも、峰兄は強くて頭がよくてなんでも出来て、本当にかっこよかった」

鷹矢は子供のようににこにこと無邪気に笑いながら兄を心から賞賛する。
あまりにも可愛くて、なんだか先輩に嫉妬してしまいそうだ。
ていうか羨ましくてムカつく。
あんな人なのに、なんでこんなに鷹矢に好かれているんだ。

「一番上のお兄さんは?」

これ以上鷹矢から先輩の賞賛を聞いていたら、俺の方が鷹矢を大事にする、とか言いだしてしまいそうなので話を逸らす。
この前初めて見かけた一番上のお兄さんは、やっぱり先輩や鷹矢に似ていて男らしい端正な容貌の人だった。
先輩よりも鷹矢に似た優しい面差しだったけれど。

「霧兄も、優秀な人だし優しいよ。でも年が7つ離れてるからあんまり遊んだりしなかったんた。小さい頃から後継ぎ教育されてて大人っぽかったし、兄さんっていうより、父さんって感じの方が近くて」
「そっか」

そう考えると、鷹矢もあまり一般的な兄弟って訳じゃないのかもしれない。
まあ、兄があの先輩だしな。

「俺、鷹矢と兄弟だったら、楽しかったのにな」

そう思ったら、ついそんな言葉が出てきた。
鷹矢と兄弟だったら、どんなに楽しかっただろう。
この優しい年下の友人とずっと笑いあえたのなら、きっととても楽しかっただろう。
けれど、鷹矢は眉を顰めて複雑そうな顔をする。

「………お前と兄弟、か」
「そう、俺、お前のお兄ちゃん」
「いや、無理」

そして真面目な顔できっぱりと断られた。
ショック。

「そもそもお前、危なっかしいし頼りないし、年上って感じがしないし」

まあ、確かに鷹矢の方がずっとしっかりしてると思うけど。
俺と鷹矢じゃ趣味も合わないだろうし、兄弟だったらうまくいってないのかもしれないけど。
でも、少しくらい夢見させてくれてもいいのに。

「それに貞操観念がなさすぎる」
「先輩の方がひどいと思うけど」
「………み、峰兄は別!」
「ひいきだ」
「当たり前だろ!」

先輩、ずるいな。
なんでこんなに愛されてるんだろう。
鷹矢は小さい子に言い聞かせるようにゆっくりと俺の目を見て諭す。

「いいか、簡単に誰とでもセックスしようとか言うなよ。もう」
「でも俺、鷹矢が男も大丈夫なら、一回ぐらい鷹矢と寝てみたかったな」

男が駄目なら無理強いするつもりはないけど、鷹矢はどんな抱き方をするんだろう、興味がある。
俺が男役でもいいけど、鷹矢可愛いんだろうな。

「ばっ」

年下の友人は顔を真っ赤にして眉を吊り上げ怒鳴りつけようとする。
しかし叫び声が鷹矢の口から出る前に、ふすまが開く音がして、背中に衝撃を感じて前につんのめる。

「人の弟にまで手を出そうとしてんじゃねえぞ、この変態」

耳によく馴染んだ、低く染みわたる声。
鷹矢の声によく似ているけれど、若干こちらの方が低い。

「み、峰兄!」

鷹矢がぱくぱくと金魚のように口を開いたり閉じたりしている。
後ろを振り返ると、長い足で人の背中を足蹴にしている人が、偉そうに俺を見下していた。
玄関の音、聞こえなかったな。

「あれ、先輩、帰ってたんですか?」
「誰の家だ、ここは」
「先輩のです。別に帰って来て悪いなんて言ってないです」

単に玄関が開くが聞こえなかったから、驚いただけだ。
先輩はようやく俺の背中から足をどけて、コートを脱ぐ。
しっかりと顔を見るのは、随分と久しぶりな気がする。
昨日会った時のことは、はっきりと覚えていない。

「おかえりなさい」
「ただいま」

答えてくれながら、先輩は立ったまま俺の顔をちらりと見る。
先輩の方を見て見上げると、皮肉げに笑った。
やっぱり基本のパーツは同じなのに、受ける印象は鷹矢とは正反対だ。

「頭は冷えたみたいだな」
「はい。鷹矢のおかげで」

その言葉に、先輩は鷹矢に視線を送る。
鷹矢は何を言われるのかと緊張して姿勢を正す。

「悪かったな、鷹」
「………」

先輩からそういった言葉をうけることはあまりないのだろう。
鷹矢の顔が一瞬で赤くなって、嬉しそうにはにかみながら俯く。
自分の言葉が鷹矢にどう作用するのか十分に分かっているのであろう先輩は、くっと喉の奥で笑った。
ああ、本当に性格悪いなあ、この人。

「ありがとな」

けれど、そこで鷹矢は顔をあげた。
精一杯怒った顔をして、けれどやや視線を逸らしながら、先輩を見据える。

「こ、こういうのは峰兄がやれよ!守の恋人は峰兄だろ!こういう時に放りだしたりするなよ!そういうの、無責任だ!」
「………」
「………」

声が震えていて、声も若干小さかったが、鷹矢は自分の兄に説教をしている。
まさか鷹矢が先輩に立て付くとは思わず、驚いてしまう。
先輩も自分に逆らう弟が珍しいのか片眉を上げた。

鷹矢が、あんなに大好きな兄に、俺のために怒ってくれている。
無責任なんて今更先輩に言うことでもないけど、頑張ってくれている。
ああ、やっぱり抱きしめてキスしたい。
なんて優しくていい奴なんだろう。

「へえ」
「………っ」

それから先輩は面白がるように、にやりと笑う。
それにびくりと体を震わせる鷹矢。

「悪かった」

けれど先輩は苦笑して、鷹矢に近寄るとその頭を軽く叩く。
兄の行動に、弟は驚いたように目を見開く。
先輩は俺を親指で指して、肩をすくめる。

「こいつは俺の顔見ればセックスしろか作品見せろしか言わないんだよ。ろくに会話も出来やしねえ。俺相手に頭冷やすとか無理。ぶちこんでやれば大人しくはなるだろうけど、問題先送りで何も考えやしない。面倒くせえ」
「………そ、そんな」

鷹矢がもごもごと何か言っている。
俺は言われて、ちょっと考える。

「確かに」

そして心から納得した。
そういえばこの前、先輩に恋を自覚した時も、俺は先輩の前で、考えをまとめられなかった
一回離れて、ゆっくりと整理してから、ようやく答えを出すことが出来たのだ。
先輩の前ではなぜだか感情がごちゃごちゃになって、うまく思考することが出来ない。

「言っておくけど、俺以上にこいつのが本能で生きてるからな。俺の前だと本能剥き出し。下半身でしか物を考えない。人のことを作品を生み出すことも出来るバイブ扱いだ」
「先輩だって俺のこと、好きに突っ込める家政婦扱いじゃないですか」
「その通り。お似合いだろ?」
「………そうですね」

本当にその通りで、思わず笑ってしまった。
人でなしと人でなし。
どちらも最低で、お互いの相性はぴったりだ。

「守」

呼ばれて顔をあげる。
先輩が鷹矢の隣に立って、俺をまっすぐに見ている。

「はい」

自ら光り輝くような強い存在感を持つ人。
惹かれてやまない、唯一の人。

「お前は誰のものだ?」

先輩が軽く笑いながら、聞いてくる。
俺が誰のものか。
それはあの時から決まっている。
俺がこの人の手を与えられた時に、俺は俺が誰の所有物かを決めた。

「………俺は、先輩のものです」
「そうだ」

先輩は当然のこととして頷いた。
それから質問を続ける。

「それでお前の一番大事なものは?」
「先輩と、耕介さん」

大切な大切な、俺の心の奥底に刻み込まれた人達。
穏やかな優しさを耕介さんに貰った。
身を食らうような激しさを先輩から与えられた。
俺の答えに先輩はにやりと偉そうに笑う。

「お前は何に悩んで、とち狂ってんだって?」

先輩に抱いてくれと、酷くしてくれと頼んだ時。
俺は何に、悩んでいたのか。

「………母さんに、もう一度、いらないって言われて」
「その母さんってのは、お前に必要なものか?」
「………」

母さんは俺に、必要なものだろうか。
優しくて、温かかった、柔らかく笑う母さん。
あの頃の母さんは、俺の大切なものだった。

「………必要、でした」
「でした、ね。で、今は?」

今は、どうだろう。
今のあの人はもう俺の家族ではない。
俺はあの人にとって、いらないもの。
でも、そうだ。
考えてみれば、俺もあの人を必要としていない。
あの人がいたからって、何になるのだろう。
そりゃ、分かり合えればよかった。
また、家族になれるならそれがよかった。
だから期待した。
でも、あの人の愛情に縋る理由は、もうないのだ。
俺には先輩が、耕介さんが、他の皆がいるんだから
いらないというなら、もう俺だっていらない。

「………必要、ないです」
「で、他には?」
「和樹が、俺に、嘘ついてて、女々しいとか、しつこいとか、執念深いとか、先輩と出来てるって、オカマとか言われて」
「事実じゃねえか」
「………そうですね」

まあ、確かに俺は小さなことでうじうじと悩みこむ女々しくてしつこくて執念深い性格かもしれない。
先輩と付き合っているのは事実だ。
女性になりたいという願望はないが、別にそのことを否定する気は全くない。

「で、その和樹はお前にとって必要なのか?」
「いえ、全然いらないです」

痛い思いも怖い思いも裏切られる苦しさも、もういらない。
それを与えてくる和樹も、もういらない。

「他には?」
「あの人達、俺のこと忘れてたんです。すっかり、忘れられてたんです。俺、黒幡の家で、家族じゃなかったんだったなって。存在忘れられてて、哀しかった。俺はずっと覚えていたのに。あの人達にとって、俺は覚えている価値もない人間だった」
「哀しいだけか?」
「………」
「お前は、あいつらに何を望んでたんだ?」

俺はあの人達に、何を望んでいたのだろう。
もう一度家族になろうって言われて、どう思ったのだったっけ。

「家族に、なりたかった?」
「知らねえよ」
「妹に、会ってみたかった」
「見てもない妹に、お前は何を望んでんだよ」
「愛が、受け入れてくれるんじゃないかって」
「受け入れられてどうするんだ?俺もコウスケさんも放り出してそいつらと家族ごっこか?」

先輩とコウスケさんを捨てて、あの人達と家族になる。
あの人達が俺の帰るところになる。

「いえ、それはない」

そんなものは望んでいない。
例えあの人達が受けれてくれたとしても、俺はあの人達を受け入れられない。
想像してぞっとした。
無理だ。

「愛が、俺を認めたら、俺の存在も認めてもらえるんじゃ、ないかって。俺にしたこと、後悔してるんじゃないかって。ひどいことをしたって思ってくれてるんじゃないかって。ああ、後悔していてほしかった」

愛が、俺のことを受け入れたら、あの人達も俺を認めるんじゃないかと思った。
そうだ、愛のような、あんな純粋な存在を見ている人達なら俺のしたことのひどさも分かってるんじゃないかと思った。
俺は、愛に会ってみたかった。
けれどそれは多分、愛への愛情からじゃない。
愛を使って、俺を認めさせたかったから。
ああ、俺もひどい兄だな。

「でも、俺は悪者なんです。俺がひどいことされたと思ってたのに、あっちは俺がひどいことしたって思ってたんです。悔しいです」
「悔しいのか」

ああ、そうか、俺は悔しかったのか。
そうだ、後悔していてほしかったんだ。
あの人達に後悔してほしかった。
俺を忘れないでほしかった。
俺を追い詰めたことを後悔していてほしかった。
一生後悔していて欲しかった。

「そっか」

ああ、なんだ、綺麗な御託で隠そうとしていたけれど、簡単なことだった。
謝ってほしかった。
あの人達に謝ってほしかった。
家族としてやり直したいと頭を下げて、謝ってほしかった。

あの人達だけが悪いんじゃない。
俺だって悪いところがある。
でも、あの人達だって悪いんだ。

「悔しいです。ムカつきます。あっちの方が、悪いです。俺の方が、酷い目にあいました。あいつらの方が、悪者です」

こんなエゴイスティックな汚い主張、他の誰にも出来やしない。
俺以上に自分勝手な人にしか、出来やしない。

「だったらそう主張しとけ。建前なんて気にするな。奪われたくないなら戦え。虐げられたらやり返せ。なんでやられっぱなしでいるんだよ。馬鹿かお前。俺には平気で立て付く癖に、他の人間に遠慮してんじゃねえよ。それぐらいなら俺に媚びへつらえ」
「そしたらあんた、俺に飽きるじゃないですか」

偉そうに顎を突き上げる先輩に言い返すと、分かってるじゃねえかと先輩が笑う。
その笑い方が、本当に清々しいほどにふてぶてしくて、安心してしまう。
俺の汚いところも自分勝手なところも、全て笑い飛ばして意に介さないこの人に、安心する。

「で、あいつらに覚えてもらってないことで、なんかお前に不利益あるのか?」
「………悔しいとか哀しいとか寂しいとか、あります。けど、もういいです」
「どうしてだ?」
「俺には、先輩と耕介さんがいます。鷹矢もいます。松戸や大川や工藤がいます。あの人達は、俺には必要ないです」

先輩がつまらなそうに鼻を鳴らす。
そして偉そうに言い放った。

「遅せえよ。それならそれだけ覚えとけ。他のことは考えるな。お前は本能でしか動けない馬鹿なんだから、皺の少ない脳みそでぐだぐだ余計なこと考えるな。優先順位をはっきりさせとけ」
「………」

俺の大切なものは、先輩と、耕介さん。
他にも沢山大事なものはあるけれど、譲れないものはその二つ。
それだけあれば、俺は満ち足りていられるのだ。

「俺のものを粗末に扱うんじゃねえよ。俺の許可なく壊すな。俺以外に壊されるな。俺のものを壊していいのは俺だけだ」

そうだ、俺は先輩のもの。
この人のものを、俺が勝手に壊すなんて許されない。

「俺のこと以外で悩むな。執着するな。迷うな」

本当にどこまでも勝手で、傲岸で、唯我独尊な人。
だから俺は心からこの人に全てを委ねることが出来る。
この人は傷つかない、迷わない、嘘はつかない、強い人。
すぐにも頷きたい気もするが、ちょっと悔しいので笑って聞く。

「耕介さんは?」
「あのおっさんがお前を悩ますのか?」
「………耕介さんの、息子さんのこと、とか」

苦し紛れで答えるが、先輩はそれすら鼻で笑い飛ばす。

「それはコウスケさんがお前を悩ましてる訳じゃないだろ。お前が勝手に、悩んでるだけだ。あいつがお前になんか言ったか?」
「………言って、ない」

耕介さんが、俺を悩ますことなんてあるはずがない。
あの人は俺の全てを受け止め、許し、包んでくれる人なのだから。

「だからお前が悩むのは、俺のことだけでいいんだよ」

そしてこの人は、俺の全てを奪い、押さえつけ、食らい尽くす。

「お前は馬鹿のくせにぐだくだくだらねえことで悩み過ぎなんだよ。どうせ本能でしか動けないんだったら、本能だけになっちまえ。考えたってロクなことにならない上に、結局結論を人に任せるんだったら、いっそ全部考えるな」

決めつけられる言葉が、気持ちがいい。
余計なものを全て削ぎ落されて、必要なものだけが残って行く。
ゾクゾクとする痛みと快感。
ああ、まるで先輩の絵を見ている時のような高揚と興奮。

「お前は俺とセックスすることと、俺の作品のことだけ考えとけ」

先輩が一歩近づいて、俺の髪をつかんで顔を上げさせる。
まっすぐに見つめる先輩の目は、何もかもを支配する強さを持っている。
目を逸らすことが出来ない。

「その空っぽな頭には、それだけ入ってりゃ十分だ」

頷こうとして、一つだけ気になっていたことを思い出す。

「………俺はあんたの迷惑なってないですか?」
「大迷惑。分かってんなら、もっと俺に尽くせ」
「………」

ああ、もう抗えない。
そうだ、どうやっても迷惑はかける。
それは変わらない。
誰と関わっても、どんなにいい子にしていても、駄目な俺は誰にだって迷惑はかけてしまう。
だったら、それ以上に返せばいい。

「はい」

俺はこの人のもの。
大切なものは、全て持っている。
俺はもう、満足しているのだ。

「先輩、手、貸してくれますか?」
「………」

先輩が、俺の頭から手を話して、その手を差し出してくれる。
傷だらけで、タコが出来ていて、堅くてぼこぼこの不格好な手。
けれど何よりも愛しい大切な、他のもの全てと引き換えにしてもいいと思える、俺の手。

「………先輩、ただいま」
「おかえり」

そう、ここが俺の帰る場所。


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