10/02/21 何度失敗してもいい

何度失敗してもいいんだ。
俺がどんな行動しても、大した影響はないんだ。
俺なんてちっぽけな人間なんだから。
でも、泣きついていいところもある。
愚痴っても聞いてくれる人がいる。
平気。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。

今日は朝走った。
それで朝御飯と昼ご飯作った。
フレンチトーストおいしい。
母さんも美味しいって言ってくれた。
体は本当にすぐ鈍る。
毎日朝夕走っていた部活やっていたころとは違う。
でも、俺にはこのペースでいい。
平気。

横井さんに電話した。
いつでもいいから、時間とれないかって聞いた。
今日の夕方平気って言われた。
声が震えてきた気がする。
傷つけてて、本当にごめん。

横井さんの家にいった。
お茶と手作りのお菓子を出してくれた。
相変わらずおいしい。
そういえばまだチョコ食べてない。
帰ったら食べよう。
きっと、おいしい。
いや、間違いなくおいしい。

横井さんに、正直に自分の気持ちを言った。
嫌われてもしょうがないって思った。
でも、正直に言った。
うまいこと言うなんて、俺には無理だから。

告白してくれて、ありがとう。
それと、今まで変な態度とってて、ごめん。
本当にごめん。
俺も横井さんのこと、大好きだ。
だから余計に変な態度になった。
本当にごめん。
でも、恋愛感情じゃないと思う。多分、違う。
俺、多分好きな奴いる。
それが恋愛感情なのかは、もう分からないんだけど。
でも、多分俺、あいつが好きなんだ。
だから、ごめん。
横井さんの気持ちには応えられない。
もう嫌いっていうなら、仕方ない。
でも、俺は横井さんが、とても好きだ。
嫌じゃなかったら、友達でいたい。
煮えきらなくてごめん。
ごめん。

それ以上なんて言ったらいいかわからなくて、言葉に詰まった。
そしたら、横井さんがテーブル越しに手を延ばしてきた。

もう、泣かないでよ。
私がいじめたみたいじゃない。
本当に泣き虫でしょうがないんだから。
私が泣けないじゃない。
最低。
もう、そんな人嫌い。
分かってたよ、好きな人いるって。
でも私も一度はっきりさせたくて聞いたの。
ありがとう、ちゃんと応えてくれて。
ごめんね、困らせて。

それ以上、言葉が出なかった。
しゃくり上げて泣いてしまった。
やっぱり最低だ。

横井さんに、辛い思いをさせるのが悲しくて。
応えられないのが、苦しくて。
俺が情けなくて、馬鹿っぽくて、横井さんが優しくて優しくて嬉しくて。

横井さんは困ったように笑っていた。
帰って食べたチョコは、本当においしかった。


10/02/22 何度も頑張る

横井さんは本当に天使なんだと思う。
俺なんかにはもったいない。
俺がいうのもアレだけど、誰よりも幸せになってほしい。
幸せになる権利のある人だと思う。
本当に大好きだ。

今日も朝、挨拶してくれた。
笑っておはようって言ってくれた。
とびっきりの勇気で、とびっきり強い人。

だから俺も勇気を出す。
深山が俺を嫌いにならない限り、頑張る。
もう本当に好きなんだかなんなんだか分からなくなってきたけど、やっぱり深山といたいと思う。
これは、意地なのかな。
ほんっとうに鈍感で無神経なあいつを振り向かせてやる!って意地なのかもしれない。

昨日、一つだけ聞いた。
俺もみたいな優柔不断でうじうじでどうしようもないヘタレ男、どこがよかったの?
横井さんは笑って答えてくれた。

分からないよ。
最初は体育祭で足が速くてちょっとかっこいいなって思った。
そこから気になった。
陸上部やめてて、ちょっと暗い顔してて、でも雑用とか真面目にこなして、人づきあいが不器用そうで。
で、気が付いたらずっと見てた。
本当に思う。
泣き虫で、無神経で、鈍くて、馬鹿で、どうしようもないへたれ男なのに、どこが好きなんだろうって。
でも、やっぱり好きだったの。
一緒にいたいなって思ったの。
なんでだろうね。分からない。

そう、笑って答えてくれた。
泣きそうな顔で笑って、言ってくれた。
俺もわからない。
深山のどこが好きなのかもう分からない。
最初は変な奴だって思った。
男のくせに男が好きだとか、いきなりの告白だとか、ずれたテンポとか。
でも、俺のこと認めてくれて、一緒にいてくれて、優しくしてくれて。
気が付いたら、すごい好きだった。
一緒にいたいって思った。

本当だ、横井さん。
なんでだろうな、分からない。

でも、好きなんだ。


10/02/23 柴村

柴村に殴られた。
ふざけんなって言われた。
横井の何がいけないんだよって言われた。
いけなくなんてない。
いけないところなんて一つもなかった。
本当は少し心揺れた。
深山なんてどうでもいいから、横井さんと付き合ってしまおうか、なんて思った。
それが幸せなんじゃないかって、思った。

でも、横井さんはいい人だから。
本当に、いい女だから。
だから、出来なかった。
深山を忘れるための道具になんて、出来なかった。
横井さんを利用するなんて、俺に出来るはずがない。
だって、彼女が大好きなんだ。

柴村は聞いてくれなかった。
怒って、いなくなってしまった。
その後、話しかけようとしたけど、無視された。
辛い。

もしかして、柴村、横井さんが好きなのだろうか。
全然、気付かなかった。
そう思えば、なんかわかることがいっぱいある気がする。

でも、それなら俺が横井さんの告白を断ったのは、喜ぶところじゃないのだろうか。
って、考えてから分かった。
それ以上に、横井さんが傷つくのが、横井さんが軽く扱われるのが嫌だったんだ。
柴村は、本当にいい奴だ。
俺がこんなことを言うのは、本当に図々しいけど、二人が、幸せになってくれればいいのに。
俺が言うことじゃないんだけど。

柴村とは、もう楽しく話を出来ないのだろうか。
何をしても、どうしても、人を傷つけて、人の気分を害してしまう。
仕方ないのだろうか。
仕方ないのかもしれない。
でも、柴村は好きだから、もう一回話したい。
当たって砕けろ。
若いんだから、大丈夫。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。

今日は、いくみさんの当番の日だった。
この前はありがとうございました、って言った。
怒った顔でうまくいったの?って聞かれた。

女の子のことは、なんとか俺なりに答えを出しました。
相手がいい人だから、本当にいい人だから、分かってくれました。
深山とは、明日話をしようと思います。

そう、よかったわね、私のアドバイスのおかげよ!って胸を張られた。
で、詳しく話しなさいよ、ねえねえ、相手の女の子ってどんな子?かわいい?なんてあんた言ったの?

すっごいワクワクした顔してた。
こういうところ、苦手。
でも、いくみさん好き。


10/02/24 変な奴

ハンバーグを作った。
種がいっぱい余ったから冷凍した。
明日はピーマンにつめよう。
その後は肉だんごの中華風あんかけもいいかもしれない。
なんかにんじんの飾り切りが芸術的な気がする。
俺って実は器用だったのか。
師匠までとはいかないが、もっともっとうまくなりたい。

今日は柴村と話せなかった。
横井さんにどうしたの?って言われた。
なんでもないよとだけ言った。
明日頑張ろう。
今日は深山と話すから、ちょっとパワー蓄え。
一つ一つ、頑張ろう。
焦るな焦るな。
なんか俺、久々に前向き。
いくみさんのおかげなのかな。
そうなのかも。

そういえば先週のテストがちらほら返ってきた。
思った通り落ちてる。
でもまあ、いいか。
赤点はなし、次頑張ろう。
勉強もしなきゃな。

深山と放課後、俺の家で会った。
相変わらず涼しい顔してた。
嫌な奴。
でもやっぱり顔を見たら、ドキドキした。
なんで好きなんだろ、こんな奴。
俺、おかしい。

なんて言ったらいいか分からなかった。
何を言ったらいいか、分からなかった。
黙り込んでいたら、深山が聞いてきた。

すまない、この前、僕は今度はなんで君を怒らせたんだろう。
なんで分からないんだよ。
………すまない。

困った顔をしていた。
この鈍感がり勉馬鹿野郎。

俺が他の誰かと付き合ってもいいのかよ。
それは、君が決めることだ。

いらっときた。
むかっときた。
泣きそうになったけど、我慢した。
ちょっと冷静になるように数を数えてみた。

俺はいいとして、深山はどう思うんだよ、俺が他の奴と付き合ったら。
嫌だ。
へ。
僕の個人的な感情としては、嫌だと思う。君が僕といてくれる時間が少なくなり、僕より親しい人間が出来るということだろう?それはおそらく寂しく感じて、嫌だと思う。

なんて返したらいいか分からなかった。
嬉しいんだか、悲しいんだか、悔しいんだか、よく分からなかった。

じゃあ、なんでそのこと言ってくれないんだよ。
言っても、最終的に決めるのは君だろう?僕の意思は関係ないだろう?
この馬鹿!アホ!がり勉!頭でっかち!鈍感野郎!

散々罵って、泣いて、それで、許してやった。
深山は不思議そうな顔をしていた。
とりあえず、これだけは伝えた。

お前、俺のコイビトなんだろう?
告白して承諾を得たから、そういうことになると思う。
だったら、俺には本音を言え。お前の気持ちを言え。俺の意思を優先させるんじゃなくて、お前が俺にしてほしいことを言え。

やっぱり不思議そうな顔をしていた。
変な奴。

本当に変な奴。


10/02/25 すごい変な奴

三色かやくご飯のたわら型のおにぎり。
出汁巻き卵焼きとピーマン詰めとレンコンのはさみ揚げとほうれん草の胡麻和え。
うん、美しい。
シリコンカップはやっぱり正解だ。
これだけでお弁当が華やかになる。
そろそろお菓子作りもまたしたいな。

今日は柴村に挨拶した。
少し困ったようにしてはよ、とだけ言ってくれた。
無視はされなかった。
安心した。
また明日頑張ろう。
大丈夫。
柴村なら、平気。
あいつなら、分かってくれるはず。

横井さんが大丈夫?って言ってくれた。
平気って答えた。
どうしてこの人は本当にここまで天使なんだろう。
なんで俺、この人ふっちゃったんだろう。
本当に今更ながらにもったいない。
でも、俺なんかにはもったいない。

深山に会った。
黒い高そうなコートから、ジャンパーに変わってた。
あったかくなったな、って言った。
梅のつぼみが膨らんでるんだ、とか言ってた。
変な奴。
そんなもの、俺は見ない。

千秋ちゃんは好き?
千秋?好きだ。
お兄さんは?
冬兄さんも好きだ。
聡さんは?
聡さんも好きだ。
俺は?
好きだ。
嫌いな人は?
いないと思う。

変な奴。
生きてたら、嫌いな奴なんていっぱいいるだろう。
俺も沢山いる。
古文の吉田嫌いだし、クラスの高橋はずるくてうざくて嫌い。

勉強は?
好き。
外で遊ぶのは?
好き。
嫌いなものは?
レーズンと酢豚に入ったパイナップル。
パイナップルは俺も嫌い。

俺にしてほしいことってない?
特に望むことはない。
望んでよ。
なんで?
望まれると嬉しい。わがまま言ってくれると嬉しい。
わがまま、難しいな。今で満足している。
満足しないで、もっともっと望めよ。俺には何言ってもいいから。

深山は困った顔をしてた。
変な奴。
本当にすっごい変な奴。
俺らの歳で、満足してるなんて、そんなの変だ。

今日は、質問ばっかりだな。
だって、深山のこともっと知りたい。
そうか。なんでも聞いていい。
なんでって聞かないの?
なんでだ?
俺は望むから。満足なんてしないから。もっともっと深山を知りたい。深山に触りたい。深山に好きになってもらいたい。深山の一番になりたい。

深山は、眉を寄せて、考え込んでいた。


10/02/26 言ってやった

豚肉のアスパラ巻き、肉だんごのあんかけ、ブロッコリーにもやしサラダ。
クレイジーソルト、高いけどおいしい。
単に塩かけただけでこんなにおいしいとは。
教えてくれた師匠感謝。

今日の師匠のお弁当は懐かしい竹で出来たお弁当箱に大胆なおにぎり。
漬物と海苔で巻いたまんまるの大きなおにぎり。
玉子焼きにウインナーに浅漬けに筑前煮。
こういうのもいいでしょって。
思わずお弁当の取り換えてもらった。
美味しかった。
最高だ。
なんか泣きそうになった。

こんな風に過ごせるようになって、よかった。
八代さんが少し困ったような顔していた。
知っていたのかな。
優しい二人。
大好きな二人。

今日も柴村と挨拶はした。
向こうも何か言いたげだった。
月曜日は勇気を出して話しかけてみよう。
柴村なら分かってくれる。

バイト先に深山が来た。
交代時だったからいくみさんと店長さんが二人ともいた。
仲直りしたのねって言われた。
あなたは恋愛に振り回されすぎ、もう少し大人になりなさいって店長さんから言われた。
ほんっとうにうじうじしてるんだから。次やったら殴り飛ばすわよっていくみさんに言われた。
でも、二人ともよかったわ、って言ってくれた。
それから、深山に俺といくみさんと店長さんに飲み物奢らせてた。
大変だったんだから!って。
深山は何も言わずに払っていた。
本当に真面目で素直な奴。
後で半額払おう。

店から上がったら聡さんが待ってた。
本当に暇なんだな、このおっさん。
働けよ。

あれ、より戻したの?
何してんですか、こんなところで。
いやー、店には怖いお姉さんがいるしねえ。美晴を迎えに来たんだよ。
深山は俺と帰ります。あなたは一人で帰ってください。
お、強気だね。この前までめそめそしてたのに。
俺は深山のコイビトですから。
でも、美晴のことを一番分かってるのは俺だしね。君みたいな新参者より美晴は俺が好きだしね。

そこまで来て、いい加減頭来た。
なんでこのおっさんに色々言われなきゃいけないんだよ。
言わないで後悔するより、言って後悔する方がいい。
深山は、言わなきゃ分からない。

深山、お前がこのおっさん好きだろうと尊敬していようと、俺この人だいっきらい!でもお前の叔父さんだし、お前に優しいから、そこは認めてやる。だからこのおっさんにもかわいい甥のコイビト認めろって言え。後、おっさん、いい加減甥離れしろ、いい年して痛いんだよ。それと深山、お前はコイビトがいびられてるんだからかばえ、怒れ!お前はマザコン男か!コイビトを守って見せろ!

深山は目を丸くしていた。
聡さんは一瞬沈黙してから、大笑いしていた。
その間に深山の手を引いてさっさと逃げた。

深山、俺のこと好きか。
好きだ。
俺のこと、大事か。
大事だ。
なら、俺を守れ。かばえ。あんなおっさんにいじめられてるの、黙って見てるな。

ちょっと沈黙してから、頷いた。
分かった。守る。
よし。俺もお前を守る。

深山は不思議そうな顔で頷いた。


10/02/27 好き

深山を家に連れ込んだ。
母さんがいなかったから二人きりだった。
一緒にホットプレートでホットケーキ焼いた。
これも師匠に教えてもらった。
ホットプレートで焼いて、色々トッピングして食べるとおいしいよ。
クレープも出来ちゃうよ。

一緒にホイップクリームを交互にかき混ぜて、イチゴとかバナナとか切って、ウインナー焼いて、レタスとかむしって、楽しかった。
横井さんと料理するの楽しかった。
だから、深山とも一緒に料理したら、楽しいと思った。
やっぱり楽しかった。
料理が楽しいのかな。
違うな、好きな人と何かするのが楽しいんだ。

色々トッピングして食べるクレープとホットケーキはおいしかった。
ほとんどクレープになった。
キムチとか納豆とか巻いてみたりした。
なかなか面白かった。
前に出た、名前の話になった。

妹が千秋ちゃんで、お兄さんが冬磁さん。深山は春って字じゃないけど、春生まれだから?
僕は冬生まれだ。冬兄さんと重なるから、じゃあ、春ってことにしてしまえってつけてたらしい。
豪快だな。でもきっと、綺麗な晴れた日だったんだろうな。深山の雰囲気にあってる。綺麗な名前だな。

深山が不思議な顔をした。

そんなことを言われたのは始めてだ。
そうなの?いい名前じゃん、美晴。

初めて名前を言ってしまった。
若干照れた。
誤魔化したけど。

そうしたら、深山がなんかこう、すっごい優しく笑った。

ありがとう、嬉しい。
えっと、そうか。よかった。
もう一回、名前を呼んでくれないか?
え?
してほしいこと、言っても、いいのだろう?

随分ささやかなワガママを言われた。
深山がじっと俺を見ていた。
だから、言ってやった。

美晴、好き。大好き。美晴が好き。

深山が本当に嬉しそうに笑うから、俺も胸がなんかぎゅるぎゅるした。
で、俺も名前を言ってもらった。
なんかすっごい照れた。

他にしてほしいことない?
出来れば、これからも一緒に話してほしい。
勿論。他には?
また、一緒に料理を作ってほしい。
当たり前だろ、もっとないの?
一緒に山に登りたい、一緒に走りたい。
俺もしたい。もっともっと、無茶なぐらいワガママ言えよ。

じゃあ、もっと名前呼んでくれ。好きって言ってほしい。

そんなの簡単だ。
ずっとずっと言い続けた。
深山にもお返ししてもらった。

美晴、好き。





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