09/12/06 音楽

聡さんにライブに連れて行ってもらった。
今日はインディーズのロックバンドだった。
クラシックだったりロックだったりアニメソングにJ-POPにジャズにレゲエ。
聡さんの興味は幅広い。

今日のバンドは少々技術的な面で難があって、ギターが耳障りだった。
歌はよかったのに、もったいない。

美晴は好きな音楽は出来たかと聞かれた。
音楽はどれも好きなので、どれか特別というものはない。
どれも思いを伝えるために、誰かに聞かせるために、人を楽しませるためのものだ。
どれも好ましく、そういったクリエイティブな才能を持った人間を尊敬する。

どれか特別が出来たら言えと言われた。

09/12/07 走る

瀬古は、やはり僕には近づかないようにしているようだ。
そういえば、みんな僕をつまらないといった形容をするが、どの辺が彼らにつまらないと判断されるのだろう。
瀬古なら答えてくれるだろうか。
今度聞いてみることにしよう。

今日も彼の喫茶店に付き合った。
彼は今日も一生懸命働いていた。
珈琲がうまく運べないと残念そうで、その様子が微笑ましかった

日曜日は走ったということだった。
なんだかいつもより楽しそうに見えた。
いつでも強張った堅い表情をしていたが、リラックスしたように緩んでいた。
これからも走ることを続けるということだった。
適度な運動は健康にいいので、応援した。
彼ははにかむように笑っていた。

また、不可解な感触に襲われ、どこか落ち着かなかった。
帰りに肉まんとあんまんをご馳走になった。

09/12/08 瀬古

瀬古に、僕はどうしたら君にとって興味深い人間になれるだろうか、と聞いてみた。
嫌そうな顔をされた。
確かに嫌いな人間に話しかけられれば、不快になるだろう。
ただ、どのあたりが彼の琴線に触れるのかが、知りたかった。
僕は彼を好ましい人間と思っている。
自分にないものを持つ人間は、とても興味深い。
瀬古は答えてくれた。

頭がよくって、育ちがよくって、金持ちで、優等生で、なんか俺らより一段上から見下ろしてる感じが嫌い。
その偉そうに大人ぶっているところが、癪に障る。
馬鹿なところがない人間なんて、つまらない。

瀬古の言う僕と、僕のイメージする僕は、かなりかけ離れている気がした。
僕はクラスメイトを馬鹿にしたこともないし、見下したことも、偉そうにした気もない。
けれど、そう見えるらしい。
なるほど、難しいものだ。
こんなにはっきりと言ってくれた人間は初めてだった。
やっぱり瀬古は、興味深い。
有意義な答えだった。

09/12/09 勉強会

友人と勉強会になった。
来週は期末テストになるから、皆必死だ。
彼に教える約束もしていたので、少し教えるための勉強をしてみた。
いつもより分かりやすいと好評だった。
やはり一番の基礎からやり直すと、ポイントが絞りやすい。
彼にも分かりやすいといいのだが。

瀬古が僕のことを見ていた。
彼は僕のことを嫌っても、他の人間とそのことで盛り上がることはないようだ。
良識を持った人間と思われる。
そこもやはり、好ましいと思う。

09/12/10  真面目

彼と今日も待ち合わせして、僕の家で過ごした。
家に着く前に、彼の中学の頃の同級生という人間にあった。

彼は、中学生の頃とは様子が違うらしい。
昔は真面目でつまらない人間だったと、吐き捨てるように言った。
不真面目な人間になりたいのだと、そう言った。

でも、彼の望みは叶っていない気がする。
彼は無気力に見えるが、何にでも一生懸命に取り組む、生真面目な人間だ。
不真面目には、なれていない。
しかし、そういう生真面目なところが僕には好ましく思えるし、つまらない人間とも思わない。
彼は、とても興味深く面白い人間だ。

そう言うと、彼は少しだけ辛そうだった顔を緩めた。
僕の言葉は、人には届かないことが多いが、彼には届いただろうか。
彼はとても素敵な人物なのだから、自信を持ってほしいと思う。

09/12/11 カミングアウト

聡さんからメールが来ていた。
明日の登山のことだった。
後で、連絡をしなくてはいけない。
山に登るのは楽しみだ。

彼がバイト先で、僕と付き合っていることをカミングアウトした。
僕は別にかまわないのだが、同性同士の付き合いは隠すのが一般的らしい。
彼の支障にならないか、それが少し心配だった。
けれど喫茶店の人達は、困ってはいたが嫌悪感は抱いていなかったようだ。
このまま、何か悪い方向に向かわないといいと思う。

彼は帰り道でも色々話していた。
始めの頃より、ずっと饒舌になった気がする。
表情も、穏やかになっている。
リラックスしてくれているのだろうか。
それなら嬉しい。

手をつないだ。
彼の手は堅くて、温かかった。
こんな風に誰かと手をつなぐのは初めてだったが、悪くない感触だった。

09/12/12 登山

聡さんと山に登った。
晴天でよかった。
雪山はやっぱりまだまだ僕には難しいが、それだけに達成感がある。
山はどこまでも冷たくて、凛としている。
この空気を感じるだけでも、心が洗われるようだ。

聡さんに、美晴は山が好きだよね、と言われた。
山は無心になることが出来て、ただ歩くことだけを、登ることだけを考えられるのが好きだ。
自分が真っ白になっていく気がする。

もっと好きなものが増えるといい、と言われた。
僕は嫌いなものは特になく、好ましいと思うものばかりに囲まれている。
俺のことは好きかと聞かれた。
聡さんのことはとても好きだと答えると、彼氏よりと問われた。
比べるものではなく、どちらも好きだと答えると、俺の方が美晴を好きだと言われた。

本当に過保護な人だと思う。
けれど、僕を気にかけてくれることは、とても有り難いと思う。




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