09/11/29 家

彼を家に招待した。
お前金持ちなんだな、育ちが違うな、坊ちゃんなんだなとしきりに言っていた。
周りと比べて裕福なのは確かだし、坊ちゃんという名称は男児に向けられるものだから間違ってはいないだろう。
彼の言う意味には、甘やかされて育った金持ちの息子と言うニュアンスが含まれるのだろうけど。

お茶とお菓子を出したら沢山食べていた。
甘いものは好きらしいので覚えておこう。

趣味の話になったので、数学の話をした。
つい熱が入ってしまい、気が付いたら一人で話してしまった。
いつもこれで周りの人間に倦厭されている。
分かってはいるのだが、数学の素晴らしさを語るとつい熱が入ってしまう。

けれど彼はじっと聞いていた。
おそらく半分以上は理解はしていなかっただろう。
けれど、彼はただ相槌をうって聞いてくれていた。
そして、そんな風に好きなものがあるのは羨ましい、と言った。
彼の真っ直ぐな視線を受け止めていると、不可解な感触がした。

09/11/30 感触

昨日感じた不可解な感触は、すぐに消えてしまった。
もう一度、あの感触を感じて、解明してみたい気がする。
彼といたら分かるだろうか。

今日も彼のバイト先についていった。
彼はまだ慣れない感じだが、一生懸命頑張っていた。
その姿は中々微笑ましい。
常連客が多い古い店だが、その常連客にも好意的に受け止められているようだ。
やはり無気力に見えるが、マスターの言うことを聞いて生真面目に働いている。
その姿を見ながら珈琲を飲むのは、心地よい時間だった。

帰ったら父がいた。
元気かと言われたので、変わりないと答えた。
そういえば、母以上に父の姿を見ていなかっただろうか。
元気そうでよかった。

09/12/01 買いもの

クラスメイトにノートを貸してくれと言われた。
試験前のこの時期には定常的な習慣となっている。
つまらない奴と蔑んでいる僕に頼るというのは自尊心などが刺激されはしないのだろうか。
普段から勉強していたらそういう状況にもならないが、改善する気はないのだろうか。
どういう心境なのか、それを考えるのは中々興味深い。

参考書を買うのを付き合ってほしいということで、約束通り千秋と出かけた。
千秋は文系は得意だが、理系、特に理科系は苦手のようだ。
レベルに合わせた参考書を選んだ。

千秋に友達は出来たか、彼女は出来たか、聡さん以上に親しい人は出来たかと聞かれた。
人との関係に順位はつけられないが、大切な人間はできたと答えた。
恋人というのは、大切な人間らしいので、間違ってはいないだろう。
彼は、大切な人間だ。

09/12/02 級友

級友と一緒に勉強をした。
僕はだいたい教える立場だが、教えるのは自分の勉強にもなるので有意義な時間だ。
中でも瀬古はユニークな考え方をするので興味深い。
成績には確かムラが激しかったが、僕とは全く違ったアプローチの仕方は気づかされることが多い。
性格もエキセントリックで自由だが、人に愛されている。
僕とは正反対で、中々勉強になる。
瀬古には好かれていないようで話しかけてもすげなく返されるが、僕は興味がある。

夜に彼からメールが入った。
俺に飽きたか、つまらなくないか、そんな問いかけだった。
むしろそれは僕の方が聞きたい気がする。
つまらない奴だと言われる僕と一緒にいて、彼は楽しんでいるのだろうか。
とりあえず聞かれたことに応えた。
彼と一緒にいることは、とてもいい刺激になっている。

明日は彼と遊ぶことになった。

09/12/03  勉強

瀬古に話しかけてみたが、やはり会話が続かなく残念だ。
瀬古は僕のどこが気に入らないないのだろう。
気になるので、今度聞いてみよう。

今日は彼に勉強を教えることになった。
教え方が悪かったのか、彼が癇癪を起してしまった。
僕の言動で感情的になる人間は多いので慣れてはいるが、彼にも嫌われるのは少々さびしい気がする。
僕の態度が原因だということは分かるので謝ると、彼は態度をすぐに改めて謝ってきた。

その必死な謝罪が、とても微笑ましかった。
ぶっきらぼうで感情を出さない子だと思っていたが、実は素直なのだろうか。
とても興味深く、好ましい。

次はもっときちんと教えられるように約束した。
彼の学力レベルはそれほど高くないようなので、合わせるようにしよう。

09/12/04 瀬古

瀬古に、僕のどの辺が君を不機嫌にさせているのだろう、と聞いてみた。
最初は驚いていたようだが、刺々しい感じで返してくれた。
僕がつまらない人間だから、ということだった。
確かに僕は面白みのある人間ではない。
瀬古は成績も悪くなく、僕の所持金にも興味がないようなので利用価値もないのだろう。
一緒にいることのメリットはない。
なるほど、納得してすっきりした。

今日は聡さんのところに顔を出した。
頻繁に来いと言われている。
何をしているのか、何を考えているのか聞きたいとよく言われる。
僕も聡さんと話すのはいい刺激になる。

彼のことを話した。
好ましい人格であるようだということを伝えた。
明日は彼と山に行く約束をしている。
そして瀬古のことを話した。
彼のあのはっきりとしていて、奔放なところは好ましい。

俺の美晴は誰よりも面白くて魅力的な人間だ、と言ってくれた。
聡さんは少々欲目が激しいように思われる。
でも彼の親愛の情は感じるので、有り難く思う。

09/12/05 登山

彼と一緒に登山をした。
僕の趣味だと言ったら、興味をもってくれたようだ。
彼は初心者で、全く登山の経験はないということだった。
けれど運動の経験はあるようなので、途中で根を上げるようなことはなかった。
根気や負けん気などもあるようだ。

いつもよりスローペースで平坦な山登りだったが、誰かと楽しい時間を共有できるのは嬉しい。
聡さんや聡さんの友達以外と山に登るのは初めてだ。
とても楽しかった。

頂上で食べたお弁当に、彼は興奮してずっと賞賛してくれた。
こんなの作れるのすごいな、と何回も言ってくれた。
大した料理ではなかったが、素直な賛辞は心地よかった。

また来たい、と言ってくれたのが嬉しかった。
僕の好きなものを、楽しんでいてくれてよかった。
いつもよりも表情が緩んで、子供のようにはしゃぐ彼がとても微笑ましかった。
また、なんだか変な感触がした。
解明する前に、すぐに消えてしまったが。
不可解だが、悪い気分ではないと思う。




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