カウント5。 「おはよう、友ちゃん」 「おはよう、みのり」 今日もいつもの朝。 いつも通りの挨拶。 小さい頃から、友ちゃんは表情があまり動かない。 楽しい時も悲しい時も、いっつも無表情。 その中から、友ちゃんが何を考えているのか想像するのが、楽しかった。 いつのまに、こんなに優しく笑ってくれるようになったのかな。 「どうした?」 「あ、ううん、今日も好きだよ」 「そっか」 ぽん、と頭を優しく撫でられる。 目が優しく細められる。 叩かれるんじゃなくて、撫でられるようになったのは、いつから? 「んじゃ、いくか」 「うん!」 ゆっくりと歩き出す。 手が自然と、握られる。 大きな、堅い手。 緊張で、私の手はいつでも汗ばんでいる。 ああ、やだな。 もっとさらさらで、細くて白くて、綺麗な手だったらよかったのに。 そうしたら、手をつないでも、こんなに緊張しなかったかな。 「昨日は、結構遅くまで電話しちゃったけど、大丈夫?」 「大丈夫だよ!友ちゃんとならオールでもいけるよ!」 「それは俺が無理だな」 くすくすと、友ちゃんが笑う。 笑うと、大人びた顔が少し幼くなる。 自然と手をつなげるようになったのは、いつからかな。 こんなに無防備に笑ってくれるようになったのは、いつから? 私のことを聞いてくれるようになったのは、いつから? なんでだろう。 ずっとずっと、見ていたはずなのに、分からない。 ストーカーらしく、友ちゃんから一時も目を離さなかったのに、わからない。 いつのまにか、こんなに友ちゃんは、近づいてくれていた。 本当にいつからだろう。 友ちゃんのことは、一つ残さず知りたいって、そう思ってるのに。 結局昔も今も分からない。 ずっと見ていても、わからないことばかり。 こんなに近くなっても。 手をつないでいても、友ちゃんは分からないことばかり。 「ねえ、友ちゃん」 「ん?」 私のこと、うざくなってないですか? 近づいて、私のやなとこ、前より見えてないですか? 飽きてはきていませんか? 欠点ばかりの私は、どんなに努力しても友ちゃんにふさわしくない。 どんなに綺麗になろうとしても、心も体も綺麗になれない。 ねえ、友ちゃん。 私を、嫌いになってないですか? 「あ、えっと、好きだよ」 「なんだよ、さっきから。脈絡ないな」 「だって、好きなんだもん」 「そっか」 友ちゃんが、柔らかく笑う。 胸がキューって熱くなる。 なぜだか、目も熱くなって涙が出そうになる。 だめだめ、友ちゃんの前で泣くなんて、絶対NG。 友ちゃんの前では、最後まで笑っているの。 好きだよ、友ちゃん。 大好きだよ。 「ねえ、友ちゃん、あのね、えっと、今日バイトないでしょ?」 「うん?」 どんどん図々しくなる私。 最後だからと言い訳をして、友ちゃんの時間をもらおうとする。 ずるくて、汚い、私。 「暇なら、でいいんだけど、すっごい暇だったら、でいいんだけど」 「うん、暇。どっか行きたいのか?行こう」 「うわ、あ、えっと、うん、うん、えっと、その」 「言葉になってないぞ」 友ちゃんが笑う。 顔が熱くなる。 心がふつふつと浮き立って、また涙が出そうになる。 何度言っても足りないな。 優しい友ちゃん。 ずっとずっと、優しい友ちゃん。 大好きな友ちゃん。 優しいのは、昔から。 これだけは、分かるよ。 優しいのはね、ずっとずっと昔から。 叫びだしたい。 この心いっぱいになった想いを、伝えたい。 どんなに伝えても、伝えきれない。 好きだよ。 大好きだよ、友ちゃん。 だから、あなたが私を嫌いになるその時を、見たくない。 後、残り4。 |