うるさい朝日に起こされて目を開けると、そこには誰よりも愛おしい彼の姿。
朝は苦手だけれど、隣に彼がいる朝は好き。
愛しく、嬉しくなってしまう。

「おはよう、素敵な貴方」

私はその大好きな手を見ていると、また少し欲情してしまう。
昨日はあんなに激しく抱かれたのに、まだ足りない。
この手が私を乱れさせる。
この手に触れられるだけで、イってしまいそうになる。
長く適度な太さで、堅くて筋張っていてシミ一つない白い手。
完璧な造形をした手。
美しい私に相応しい、美しい手。

「ああ、本当にあなたの手は、私にぴったり」

それと、胸板、肩のライン、ひざ下、そして目の形と唇もいいわ。
美しい私の隣にいても、遜色ない完璧な手。
それを見ているだけで、満足できるわ。

だから彼に告白されて、二つ返事で頷いた。
その言葉を紡ぐ、彼の唇が綺麗だったんだもの。

「でも、おしいわ」

手と肩のラインは綺麗だけど、二の腕はもっと引き締まっていてほしい。
腹筋もそうね、もう少し細くて、引き締まっているほうがいい。
太腿はもう少し太くていい。
彼の体は基本はいいのだが、まだまだ完璧にはほど遠い。

二の腕は、やっぱりもう一人付き合っている年下の彼の方がいい。
腹筋はスポーツジムのインストラクターのものが完璧だったわ。

見ていると、うずうずして来てしまう。
これを切り離して、つなぎ合わせたら、完璧なものが出来るんじゃないかしら。

だって、私はこんなに綺麗で完璧なんだもの。
隣に立つ人も、完璧じゃなければいけないわ。
ああ、作りたいわ。
作ってしまいたい。
彼のこの手を、切り離したい。

ごくりと唾を飲み込む音が、響く。
だめ、我慢できないわ。

そっとベッドを抜け出して、キッチンから出刃包丁を持ってくる。
ちょっと手を切り落とすだけよ。
それで、あの年下の彼の腕をつなぎ合わせるの。
ああ、そうしたらなんて完璧な腕ができるのかしら。
きっとあなたも喜んでくれるわよね。

「ね、ちょっと我慢してね」

包丁を思いっきり振り上げて降ろそうとする。

「ん、もう、朝?」

けれど、その前に彼は目を覚ましてしまった。
しまった。
遅かったか。
今切ったら、暴れられるわよね。
駄目駄目、傷ついたりしたら大変。
完璧なままの彼の手を、切り落とさなきゃ。
焦っちゃったわ。
そうよ、今切り落としても、すぐに縫い合わせられないじゃない。
私ったらちょっと勇み足ね。
つい興奮しちゃったわ。
もっと、用意周到に、傷一つつけないように、美しく造りあげなきゃ。
まだよ、まだ。

「ええ、おはよう。もう朝よ」
「そうか」

彼はむっくりと起き上がって、朝日を見て大きく伸びをする。
そして窓の外を向いたまま、いつものように挨拶をする。

「おはよう、今日も愛してるよ」
「ええ、私も今日も愛しているわ」

待っててね。
もうちょっとだから。
すぐにあなたを完璧にしてあげるわ。

愛しいあなた。





BACK   TOP   NEXT