一兄が運転する車で、今回の仕事先である幼稚園まで赴いた。 うちの管理下だから、家から車で20分もかからなかった。 幼稚園はちょっと派手すぎる黄色でポップな外見をしたこじんまりとした二階建ての建物。 外からも見える窓ガラスには、紙で作った花や、子供が描いたらしい絵が飾られほのぼのとした雰囲気が漂っている。 けれどそんなのどかな建物を前に、俺は強く緊張していた。 「話を聞きに来ることは伝えてある。お前が聞くんだぞ」 隣の一兄の言葉に、更に緊張が増して飛び上がる。 「え、お、俺?」 「当たり前だろう」 長兄は呆れたように目を細めた。 そうだよな。 今回は、俺が、主導なんだから。 でも、仕事で俺が話を聞く、なんて初めてだ。 俺がものすごく強張った顔をしていたからだろう、一兄が苦笑して俺の頭を大きな手で叩く。 「大丈夫だ。フォローする」 「………う、うん」 その幼い頃から変わらず頼もしい手に、少しだけ重かった心が軽くなる。 肩から力が抜けたのを見計らって、一兄は俺の顔を覗き込んでくる。 「何を聞けばいいか分かるか」 これまで天や熊沢さんに同行させてもらった時に、依頼人に話を聞いていたことを思い出す。 とりあえずは、状況把握だ。 「えっと、詳しい概要、いつから起ってるのか、原因に心当たりがないか、被害が出てないか」 「うん」 「えっと、えっと、それくらい?」 確か、そんなものだった。 上目遣いに見上げると、一兄がちらりと笑って俺の額をつつく。 「忘れてはないと思うが、肝心なところだ。どういう現象が起こっているかもな」 「あ、そっか」 「まあ、何が起こってるかと聞けば向こうから話してくれるだろうから、お前は疑問に思ったことを詳しく聞け」 「うん」 「渡した資料は読んであるな」 「うん。それと、違いがないかを確かめながら聞いてく、んだよね」 「ああ」 「わ、分かった」 宮守は、仕事の事前にある程度の調査は行う。 この前の石塚家の依頼の時は、早急にというオーダーが入っていたから事前準備がしっかりしていなかったが余裕がある場合は必ずする。 と言っても今回の場合は幼稚園の概要や、怪異が起こっているという簡単な情報しかなかったが。 「リラックスしろ。甘えるのは駄目だが、俺はお前の補佐だ。お前が手が回らないところは、俺が補う」 「う、うん!」 俺が大きく頷くと、一兄は目を細めて笑い、頷き返してくれた。 端正な男らしい顔は、笑うと途端に優しい印象になって、俺はまた不安が少し薄れるのを感じた。 「すいません、こんな狭いところで」 通されたのは園長室というプレートのかかった部屋だった。 クリーム色の壁と、事務的な仕事机、簡素な応接セットがあるだけの小さな部屋だ。 確かに狭くて、ソファも俺と一兄が座ればいっぱいいっぱいだ。 向かいに座る母さんよりも年上らしい女性に頭を下げられ、俺も慌てて頭を下げる。 「い、いえ。この度は、その、えっと、よろしくお願いいたします」 緊張して声が震えて、考えてきた挨拶をすることが出来なかった。 やっぱり四天のようにはいかない。 恥ずかしくて死にたくなった。 幸い園長先生は皺を刻んだ顔を緩めて、優しく笑う。 きっちりとまとめ上げて後ろでお団子にした髪と眼鏡は、厳しそうなイメージをうけるけれど、きっと優しい先生なんだろうな。 「こちらこそ、わざわざおいでくださってありがとうございます。自治会長さんがご紹介してくださった拝み屋さんですよね?」 「え、えっと」 意外な単語に、思わず隣の一兄を見上げる。 隣に座る兄は、軽く真面目な顔のまま頷いた。 拝み屋さんってことになっているのか。 まあ、でも、何も知らない人に管理者がどーのこーのって言っても通じないだろうしな。 気を取り直して、園長先生に向かい合う。 「はい、宮守三薙と申します。こちらは一矢。この度はこちらで起こっているという怪異の原因を探るためにこちらに伺いました」 「随分お若いのですね。拝み屋さんっていうから、もっと年配の方かと思いました」 園長先生は頬に手を当てて、やや不安そうに首を傾げる。 この台詞は、何度も今まで聞いてきた。 こんな時四天は、ご安心ください、問題ないですって言ってきたよな。 「え、えっと」 でも、とっさに安心してください、なんて言葉が出てこない。 だって、当の俺の方がむしろ不安なんだから。 どうしたらいいのか分からなくて、思わず隣の一兄を見てしまった。 「ご安心ください。ご紹介いただいたからには、その方の顔に泥を塗るような真似はいたしません」 頼もしい兄は、しっかり助け船を出してくれた。 深く低く響く声で、ゆったりと話す。 四天の信頼はおけるけれど人を圧するようなしゃべり方と違い、余裕のある安心させるような言葉だった。 事実、園長先生も不安そうだった顔を緩める。 「………そうですね。失礼しました。自治会長さんからのご紹介ですしね」 「ええ、確かにまだまだ若輩の身ですが経験は浅くはありません。どうか、我々を信じてください」 「ええ」 鮮やかだ。 一兄といい天といい、どうやったらこんなに自信を持つことができるんだろう。 なんて考えていると、一兄がそっと俺の足を叩く。 そうだ、感心している場合じゃなかった。 「あの、それで、今この幼稚園にはどういうことが起こってるんですか?」 聞くと、園長先生はまた顔を曇らせた。 ふうっとため息をついて、疲れたように肩を落とす。 「それが、気味が悪いんことばっかり起こってて」 「気味が悪い?」 「ええ。最初は子供の悪戯かとも思ったんだけど」 「それはどんな?」 「たとえば、園児の皆で植えたチューリップがあったんですが、それが全部掘り返されていたり」 園長さんが語った気味の悪いできことは、本当に気味が悪かった。 チューリップはたまたま朝早くに来た先生が見つけたので園児に見つかる前に全部隠してしまえたらしい。 その時は気味が悪いが、園児の悪戯、もしかしたら規模が大きいので変質者の仕業かもしれないということで警戒しようという話が持ちあがっていた。 けれどその後も全部の教室の黒板に泥が塗りたくられていたり、全ての窓が開け放たれていたり、全員のスモッグが無くなったかと思えば、屋上から全て見つかったり。 「一番気味悪かったのは、虫です」 「虫、ですか?」 「はい、警察にも巡回の強化を頼んだりもしたんですが一向におさまらないから、気の強い先生たちが突き止めてやるってことで、泊まり込んだんですよ。知りあいの男性にも助っ人を頼んで」 「それは………、随分危ない」 「………ええ、止めたんですが、確かに早く解決もしなきゃいけないし。私も一緒に」 園長先生は困ったようにため息をついた。 子供たちに何か起こっても、先生たちに何か起こっても、園長先生の責任問題だし、頭が痛いところだろうな。 「………でも、泊まりこんだ次の日の朝に、死んだコオロギが、園庭に沢山ばらまかれていて」 死んだ虫が、庭にばらまかれる。 想像して、ぞっとした。 しかもコオロギ。 小さい頃は平気だったが、今ではゴキブリにしか見えなくてあまり好きではない。 「………夜には、何も?」 園長先生は勢いこんで頷く。 思いだしてよっぽど怖かったのだろう、ぶるりと大きく一つ震える。 「ええ、私たちはずっと起きて、夜中に三回ほど見回りもしたんです。その時には何も異変はありませんでした。それに泊まったのは、教室だったんです。教室からは庭が見えます」 ここに来る前に見てきた幼稚園の様子を思い出す。 コの字型をした園舎が、遊具が並ぶ庭を囲むように建っていた気がする。 確かに窓があったし、園庭は見える位置にあったと思う。 後で確認しなきゃいけないが、それなら人間という可能性は薄いだろうか。 「誰かが入ってきて園庭で何かをしていれば誰かしら気付くかと思うんです。でも、誰も気づかなくて。それなのに、あんな………。もう先生方も怖がってしまって、これはもう人の仕業じゃないってことになって」 「それは、誰でも、怖いですよね」 「ええ。子供たちも何か気付いているようで、なんだか落ち着きがなくて。早く解決しなきゃって。それで、お祓いでもした方がいいんじゃないかって話になって」 「それで、お、私たちが呼ばれたということですね」 「ええ」 話を聞く限り、確かに変質者の仕業なんかとは考えにくい。 とはいえ、まだまだ結論は出せないが。 先入観は目を曇らせる。 何もかもに可能性を捨てずに挑まなければ。 「それは、いつ頃から起こってるんですか?」 俺の質問に、園長先生はこめかみを指で押すようにして少し首を傾げた。 軽くうーんと呻いて思いだしているようだ。 「………最初に気付いたチューリップが確か夏休みが明けてすぐでしたから、二カ月前ぐらいでしょうか」 「正確な日付なんかは?」 「思えば、物が無くなったり、などの小さなことは続いていたのでいつが始まりかが正確に分からないんです」 とにかく夏休み明けってことかな。 二、三カ月前ぐらいか。 「なるほど。何か原因に心当たりなどはありますか。以前にこう言ったことが起こったこととか」 「いえ、私はここで父から園を引き継いで10年以上経ちますが、こんなの初めてで。原因も、心当たりないですね。何か変なことした、とかないですし。先生方に聞いてもやっぱり同じで」 「………そうですか」 前から合った事象ではないってことは、よそからやってきた何かが荒らしてるのかな。 土地に根差すものも多いが、鬼や妖といったものはどこにでも生じるものだ。 招かざる客が、入り込んだのだろうか。 「園長先生や、先生、子供たちで、ご自宅などでプライベートで変なことが起こったということは聞きませんか?」 一兄が園長先生に質問する。 プライベートで何かってどういうことだろうって考えてすぐに思い至る。 そっか、幼稚園って訳じゃなくて、人に憑いているかもしれないってことか。 その人が入り込んでいるから、幼稚園でも怪異が起こる。 しかし園長先生はちょっと考えてから、頭を横に振った。 「いえ、聞きませんね。あったら、話が出てくるとは思うのですが。この幼稚園以外で変なことがあったとは聞いておりません」 「そうですか。ありがとうございます」 一兄は軽く頷いてから頭を下げた。 ちらりと見上げると、軽く頷かれた。 とりあえずは、こんなところだろうか。 「えっと、他に何か気付いたことは?」 「いえ、これ以上は………」 「そうですか、他に何か後で気付いたことがあったら教えてください」 「はい」 では、後は、何をしたらいいのかな。 今までの仕事のことを思い浮かべる。 現場を見て回るってのと、話を聞く、だよな。 「園内を見て回るのと、先生方にお話しを聞きたいのですがいいでしょうか?」 「ええ、先生方には事情を話してあります。どうかお願いします。休みがちになっている方もいるし、これ以上変な噂が立つと………」 ここは私立だし、悪評判が立つと色々問題なんだろうな。 早く、解決しなきゃ、園長先生も、子供も困るだろう。 俺はなるべく頼もしく見えるように、笑顔で頷いた。 一兄や四天のように、余裕があるように見えるだろうか。 「ええ、子供たちのためにも、早く解決できるよう、尽力いたします」 「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」 園長先生も微笑んで、頭を下げてくれた。 園長室を出た途端、緊張が解かれてどっと疲れが出た。 自然と大きなため息をついてしまう。 「俺、ちゃんと出来てた?」 思わず隣の一兄に聞いてしまう。 一兄は頭をポンと叩いて、頼もしく笑ってくれた。 「ああ、大丈夫だ。ちゃんと話も聞けてたぞ」 「そ、そっか」 「でも、話の度に俺の方を向くのはやめろ。自信がないのが伝わって先方が不安になる」 「あ、ご、ごめんなさい」 つい、これであってるのか確かめたくて一兄の方ばっかり向いてしまった。 そうだよな、そんな態度じゃ依頼人も不安になる。 何かあったら一兄だったらフォローしてくれるんだから、俺は自信を持って聞いていればいいんだ。 「さあ、まだまだ続くぞ。頑張れ」 「うん!」 次は職員室だ、先生方にお話しを聞かなければ。 行く途中に園庭を見るが、どの教室もやっぱり園庭に面していて、そこに泊まり込んでいたのなら、異変があったら気付くのではないかと思った。 庭にはいくつかの遊具が設置されている。 子供がいない園庭はなんだかがらんとしていて、寂しい。 目を引くのは縄梯子みたいなのやてっぺんに屋根がついているような大きな滑り台。 後は小さなブランコに、砂場。 「今時の幼稚園の遊具って、楽しそうだね」 「やらせてもらったらどうだ?」 「やらねえよ!」 そんな下らないことを言ってる間にも、すぐに職員室に辿りついた。 あんまり広くも感じないけど、平均的なのだろうか。 確か年少が一クラス、年中と年長が三クラス、だったっけ。 「あの、失礼します」 「えっと」 声をかけてドアを開くと、中にいた10人ほどの若い女性達が一斉にこちらを見て、怪訝そうな顔をした。 視線が集まって、ちょっとビビる。 「あ、園長先生からお話しがいっていると思うのですが、この幼稚園で起こっていることを解決するために来たものです」 「あ、霊能者さん!?」 今度は霊能者さんって言われた。 いいんだけど、どういう話が通ってるんだろう。 こういうの、よくあることなのかな。 「え、えっと、そんなものです」 「随分お若いんですねえ」 また言われた。 まあ、一般的なイメージとして、俺は確かに若すぎるんだろうな。 今度は俺もなるべく頼もしく見えるようにさっきの一兄のようにゆっくりと頷いた。 「でも、仕事に問題はありませんので、ご安心ください」 「はあ」 やっぱり駄目かな。 いや、自信だ、自信を持て。 はったりを効かせるんだ。 「お話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」 「ええ」 顔を見合わせて、先生方は頷く。 まだ少し不安そうだったが、納得してくれたらしい。 よかった。 「わ」 職員室に入り込むと、ざわりと空気が揺れた。 全員の視線が俺の後ろに視線が集まる。 あ、一兄か。 若い女性ばっかりだもんな。 ちくしょう。 「あ、こ、こちらにどうぞ」 髪を緩く結った一人の先生が立ち上がって、椅子を用意してくれる。 いきなり待遇変わったな、おい。 女性って、本当に、正直だ。 「ありがとうございます」 にこりと一兄が微笑むと、それこそ本当に全員が一斉に顔を赤らめた。 ひそひそと隣の人と内緒話をしている人もいる。 「ありがとうございます、宮守三薙と申します。こちらは一矢。どうぞよろしくお願いいたします」 無理矢理自己紹介をして、一旦意識をこっちに向けてもらう。 嫉妬じゃない、仕事だからだ。 決して嫉妬じゃない。 「園長先生からはだいたい伺ったのですが、変なことが起こると」 とっとと本題を切りだすと、先生方は勢いこんで話し始めた。 落ち着いた園長先生達と違って若い女性ばっかりだから、なんか迫力がある。 「そうそう、そうなんです!もう怖いことばっかり!」 「この前の虫の時とか本当にもう怖かったんです」 「他にもですね」 口々にこの幼稚園であったことを話してくれる先生方。 なんだか怖いアピールを一兄にしている気がしないでもないが気にしない。 話があっちにいったりこっちにいったりするのでちょっと混乱したが、だいたいは園長先生に聞いていたのと同じだ。 「え、えっと、皆さんにも心当たりとかは、ないんですよね」 「ないですねえ。なんかオバケ怒らせるようなことしたとかもないし、ここが昔お墓だったとかもないし」 「誰かなんかに取り憑かれるてんじゃないのー」 「あれじゃない、生霊とか。誰かストーカーとかいないの」 「ないない」 くすくすと笑う先生方。 怖いと言う割には結構余裕があるなあ。 肝が座っているのだろうか。 「あの、皆さん、個人には変なこと起こってないんですよね?家とか」 聞くと、先生方は一旦顔を見合わせて考える。 それから皆、首を横にふった。 「ないですね」 「私もないです。変なこと起こるの、幼稚園だけ」 皆さんの顔は特に隠し事をしている様子はない。 まあ、いても、ここじゃ言えないもしれない。 後で個人的にでも話しやすい状況を作るかな。 「何か気付いたことあったら、後でもいいので教えてください。そういえば、怪我とかした人は?」 「いないよね」 「うん、いない」 あれ、事前の調査では怪我をした人がいるって聞いたんだけどな。 そういえばさっきの園長先生の話しでも出てこなかった。 「あ、でも、そうだそうだ」 「なんですか?」 一人の先生が思いついたらしく、声を上げる。 「子供たちは、怪我が増えたんです」 「怪我が増えた?」 「ええ、子供が怪我するのはまあ、ちょくちょくあることなんですけど、それが増えた気がするんです」 「ああ、そういえば、そうかも」 「私も、手当てすること増えたかも」 それって結構重大なことじゃないか。 怪我をさせられてるってことか。 「何かあって、怪我させられている、とか?」 「いえ、転んだりとか、ぶつけたりとかで、いつものことなんですけどね。でも増えた気がするなあ」 「うん、増えたよね」 先生方は顔を見合わせて、うんうんと頷く。 転んだりすることが増えたって、ことなのかな。 関係あるのかな。 「子供達は大丈夫なんですか?」 「さすがに、変なことが起こるのは分かってるみたいで、ちょっと変な雰囲気ではありますね」 「うん、なんか落ち着かないっていうか」 「でも、別に怖がったりとかはないよね」 「あー、うん。怖がってるのは私たちだけ。子供達は全然そういう様子はないね」 でも、怖がってはいない、のか。 何かに気づいているのか、いないのか。 子供は大人よりも、怪異の気配に敏感だ。 「でも、落ち着かないんですか?」 「ええ、そわそわしているっていうか、なんか起こってるってのを察知して、探ろうとしているというかそんな感じなのかな」 うーん、子供にも話聞きたいかも。 その後、いくつか話を聞いて、俺たちは辞することにした。 「ありがとうございました。また何か気付いたことがあったら教えてもらえますか?」 「ええ、こちらこそよろしくお願いします。本当に最近怖くて怖くて」 「お願いしますね」 先生たちが少し顔を曇らせて、頭を下げてくる。 明るく見えるけど、やっぱり不気味で、怖いんだろう。 当然だ。 だから俺も、何度目かの、はったりをかます。 「はい、分かりました。皆さんが安心して過ごせるように、全力で務めさせていただきます」 そう言って笑うと、先生たちも緊張を緩ませて笑ってくれた。 なんとか、なったかな。 職員室を出ると、一兄が肩を叩いてくれた。 「上出来だ」 「本当?」 「ああ、よくやった」 褒められるのが嬉しくて、顔が自然ににやけてしまう。 まあ、一兄の存在感のおかげってのもありそうだけど。 いいなあ、一兄も天も、外見からして説得力があるから。 筋トレ増やしてるのに、なかなかムキムキにならないし、背も高くならないし、世の中本当に不公平。 「さあ、次はどうする?」 「んー、先生たちもやっぱり変なものが憑いていたりとかはなかったね」 「ああ、そう見えたな」 「えっと」 一応職員室で気配を探ってみたが、先生方に何か変なものが憑いてるってことはなさそうだった。 となるとやっぱり、この土地になにか原因があるのかもしれない。 「とりあえず、幼稚園の中を見て回ろうかな」 「そうだな。手分けするか?」 「一緒に来てもらってもいい?一人だけだと見落とすかもしれないから」 手分けしてって言おうかと思ったが、俺はまだまだ力も経験も足りない。 意地を張る場所じゃない。 確かめながら、慎重にやった方がいいだろう。 「かしこまりました。仰せのままに」 一兄はおどけた様子で頭を下げてみせた。 |