「な、に、言って」

綺麗な笑顔を浮かべた天が、何を言っているのか、理解出来なかった。
ただでさえ飢えで理性を失っている俺は、考えがまとまらない。

「覚えてる?一番効率のいい媒介」

天が俺を見下ろして、どこか馬鹿にするように聞いてくる。
それでようやく、昔交わした会話を思い出す。

『一番効率のいい媒介知ってる?』

供給の方法を変えてくれと言った俺に、天が言った。
あの時も今と同じように、面白がるような意地の悪い笑顔を浮かべていた。
急速に、頭が冷えていく。

「………て、ん」

冗談だろう、と思った。
さすがに、ただ俺をからかおうとしているだけだと思った。
でも、笑い返すことも、出来ない。
ただ、呆然と弟を見上げることしか、出来ない。

「ね、どれくらい効率がいいか、試してみようよ」
「なに、冗談、言って」
「本気だよ?」

天は俺の発言に、ただ穏やかに微笑むだけ。
そして、俺の唇をそっとその白く長い指でなぞる。
ぞわりと、悪寒が背筋に走る。

「うそ、だ」
「嘘じゃないったら」
「や、やだ、嫌だ!嫌だ、天!」

天の体を押しのけようと手を伸ばすが、簡単に両手をまとめられてベッドに縫いつけられる。
足は乗りあげられて関節を固定されているので、すでに動かすことが出来ない。
この前の時とまるで同じシチュエーション。
供給を受けるというのは、こんなにも相手に対して無防備になるものなのだと、初めて思い知った。
相手に全てを曝け出し、任せる。
相手が害意を持っていたら、簡単に危害を加えられてしまう。
防ぐことなんて、出来ない。

「どっちがいい、兄さん?経口摂取?それとも、別の方にする?」

見たことのない嫣然とした笑みを浮かべながら、天がその手で俺の腰をなぞる。
その感触に嫌悪感と、他の何かを感じて、うまく力の入らない体をゆすって天の体の下から抜けだそうとする。

「や、やだ、やめろ!やめろ、天、やめ!」

せめても自由になっている言葉で、必死に弟を制止する。
けれど混乱と飢えで頭が回らなくて、うまい言葉が出てこない。
怖かった。
怖くて、体が震える。
何をされるのか分からないけれど、俺の意志を無視して好き放題に振る舞われようとしているのが、怖かった。
自分が一個の人間として扱われていないと感じて、怖かった。

今までだって、天のことは怖かった。
人間離れした能力を持つ弟が、怖かった。
けれど今俺を組み敷いている男は、よく知っている弟ではないようで恐ろしい。

「しー」

悲鳴じみた声をあげる俺に、天が顔を近づけながら指を一本立てる。
俺の哀れな抵抗を面白がるように、肉食獣のような表情を浮かべている。

「大きな声を出したら、誰か来ちゃうよ?」

それで、俺はこれ以上大声を上げることも出来なくなった。
こんなところ、家の人間に見られたら、おしまいだ。
止めてもらえるかもしれないけれど、弟に抵抗すら出来ずにいいようにされている自分を知られるのは絶対に嫌だ。

「なん、で」
「そんなに嫌?」
「あたり、まえだろ!」

感情が昂ぶって、生理的な涙が目尻に浮かんでしまう。
情けなくて悔しくて涙を拭いたいが、いまだに拘束されている手では、そうすることも敵わない。
天は俺の言葉に、楽しそうに喉を震わせて笑う。

「そうだよね。嫌で当たり前」
「こんなの、おかしいっ、お前おかしい!」
「うん、おかしいんだよ。俺も、ね」

それから、顔を近づけて俺の目尻を冷たい舌で拭う。
涙の味を味わうように自分の唇をなぞる天は、普段の人形じみた様子とは違ってひどく生々しく感じた。

「まあ、準備も何もしてないから、とりあえず口にしようか」
「天っ」

少しだけ、俺の腕を拘束していた天の手から力が抜ける。
咄嗟に手を抜き出して、そのまま天の体を押しのけようと抜き手で首と肩を狙う。
けれどわずかな抵抗はあっさりと再度抑えつけられ、簡単にベッドにうつ伏せに抑えつけられる。

「くっぅ」

柔らかな布団に勢いよく顔を埋めたせいで、呼吸が止まる。
背中で纏められた手が軋んで痛い。
改めて俺の背中に乗り上げて俺を拘束している弟が、笑い交じりに後ろから俺の耳に囁く。

「兄さんが俺に敵う訳ないでしょ?そもそも、力も足りてないんだし。だから定期的にやっておけって言ってるのに」

カチャカチャと音がして、手に何かが巻き付けられている。
縛られているのだと分かって、また暴れる。

「やめろ!やめろ、天!天!どうして!」
「暴れないでね。手足の関節外されたりしたくないでしょ?」

大した抵抗もできないまま縛り付けられて、体が引き寄せられる。
後ろ手に拘束されたまま、天の胸にもたれかかる格好。
不自然な格好で、腕や背中や腰が痛む。
力が入らなくて、眩暈がする。
暴れたせいもあって吐き気が、酷くなってくる。
何よりこの後のことを考えると、ぞっとして体温が下がっていく。

「て、んっ」
「力、欲しいでしょ?今回路を開けてる状態だから、余計に飢えがひどいだろうし」
「んっ」

頭を掴まれ引き寄せられて唇が重なり、ほんの少しだけ力を供給される。
渇きに渇いた体には、そんな僅かな力では足りない。

苦しい。
苦しい苦しい。
痛い、苦しい、嫌だ、怖い、逃げたい、でも苦しい。
力が欲しい。
でも怖い。
嫌だ。

「て、ん」
「苦しいよね。早く楽になろう?」

天がズボンの前をくつろげて、自分のものを取り出す。
人よりも他人と過ごすことが少ない俺は、例え同性のものだろうと、そんなマジマジと見たことはない。
自分のものではないそれが、酷く生々しくグロテスクに思えた。

「や、だ」

首をふって、天の手から逃れようとする。
けれど天は笑いながらも俺の体を自分の足の間に持っていく。

「はい、どうぞ、兄さん」
「や、んんっ」

そして無理矢理頭を押さえこまれて、口を押し付けられる。
それはまだ萎えた状態だけれど、生温かくて、独特の匂いがした。
綺麗な弟についているとは思えない生々しい雄の匂いと、卑猥な形をしたグロテスクなもの。
猛烈な吐き気に襲われて、えづいてしまう。

「やっ、う、ぐっ、ぐえ」
「ほら、大丈夫。苦くないですよ、なんてね」

涙を浮かべて吐き気を堪える俺を、天はふざけながら見下ろしている。
なんで、なんでなんでなんで。
どうして。
ここまでされるほど、憎まれてなんか、なかったはずだ。

「う、ぐ」
「はい、あーん」

顎を無理矢理掴まれて、口の中に無理矢理ねじ込まれる。
口の中一杯に広がる肉の塊に、涙があふれてくる。

「ん、む、く」

天は萎えたままのそれを、軽く腰を揺すって更にねじ込んでくる。
舌にわずかなしょっぱさを感じて、唾液が溢れる。
喉奥を突かれて、胃液がこみ上げてくる。

「んぅ、うっ」
「あ、歯は立てないでね」
「うぅ」

思わず力が入りそうになったところで、顎を掴まれ固定される。
閉じれない口からは、だらだらと涎が溢れてくる。
拘束されてベッドに這いつくばり、涎をたらしながら弟の性器を口にしている自分の酷く惨めな姿を想像して、屈辱と怒りで目の前が真っ赤になる。
自分のこんな理不尽な行為を強いている弟を、涙で滲む目で睨みつける。

「怖い目」

けれど俺の視線を受けて、天は楽しそうに笑うだけ。
ただ、口の中のものが力を持ち、より圧迫感が増す。
いっそ、これを噛みちぎってやろうかと思う。
どんな理由があろうと、こんなことをされる理由はない。
こいつは、そんなに俺が憎いのだろうか。
そんなに、俺が嫌いなんだろうか。
少しだけ歯を立てたのが分かったのだろう。
それでも天は怯まず挑戦的に笑うだけ。

「食いちぎってみる?いいよ、そのまま歯を立てて思い切り噛みついてみたら?まず、肉を噛みちぎる感触がする。調理もされてないから、堅いだろうね。まだ血の通った血管なんかがブチブチと引きちぎれる。それから肉と血の味がする。血が溢れて兄さんの口の中が一杯になる。生臭くて鉄くさいドロドロとした塩臭い液体で喉がつかえるほどに溢れてくる。辺りは血まみれだね。兄さんも血まみれ。ああ、そうしたら供給が出来るよ。どうする?」
「………」

生々しく語られる言葉に、情けなく怯んでしまう。
血の匂いもその味も、痛みも苦しみも、皆嫌いだ。
見るのも感じるのも、相手にそれを与えるのも想像すらしたくない。

「兄さんは、本当に優しいよね」

それは全く褒めている様子はなかった。
俺の躊躇を完全に馬鹿にして鼻を鳴らす。
そしてそれからそっと俺の頭を撫でた。

「噛みちぎれないなら、さっさと終わらせるしかないね。頑張って」
「ん」
「早く俺がイったら、その分早く終わるよ?」

したくない。
こんなことしたくない。
おかしい。
絶対おかしい。
気持ちが悪い。
吐き気がする。
怖い。
苦しい。

「ん。気持ち、いいね。兄さんの口の中、熱い」
「ん………」

結局何も出来ずただ咥えているだけだったが、口の中のモノは徐々に堅さを持ち、圧迫感を増して行く。
そして、僅かな苦みと塩辛さを舌に感じる。
その瞬間、体の中に、白い力が急激に入り込む。

「ん、んっ!」

味を感じている舌が唾液を分泌して、口の中が天のものと自分の唾液で溢れていく。
反射的な行動で、それを飲みこんでしまう。
その瞬間、頭の先から指先までが痺れるような快感が体を駆け巡った。

「はあ、ん、んぅ、ぐ」

渇いていた体に、白い力が隅々まで染み込んでいく。
力が脳内にまで巡っているかのように、頭が真っ白になっていく。
何も考えられなくなっていく。

「ん、んっ」
「う、わ、いきなり積極的に、なったね」
「ん、んむ」
「ああ、トランス状態に、なっちゃった?」
「ん」

こんなことしたくない。
嫌だ。
怖い。
おかしい、こんなこと。

「は、んっ」

それなのに、注がれていく力に、抗うことが出来ない。
飢え切っていた体が、満たされていく。
もっともっと欲しくて、力の源に吸いつく。
口の中に収まりきらないくらい大きくなったそれを必死で咥える。
吸いついて、溢れてくる少ししょっぱくて苦い液体を舌で舐め取る。
一際強く吸いつくと、天の腰がびくりと跳ねあがる。

「は、あ、やっば。気持ちいいもの、なんだね、フェラって」

聞いたことのない上擦った声。
乱れた吐息。
ぼんやりと見上げると天は白い肌を上気させて、荒い呼吸をついていた。
天が、興奮している。

「んん」

そんな天を見たことが初めてで、なんだかおかしくなってくる。
無理矢理強いられた行為。
それなのに、それを強いた偉そうな弟は、俺なんかに興奮している。
その証拠が、俺の口の中を痛いほどに圧迫している存在。
今、弟を興奮させているのは、俺なのだ。

「ふっ」

這いつくばって、一際天が反応を示すところを舐め上げる。
思った通り天は声を上げて、体を震わせた。
少しは意趣返しが出来たような気がして、天を睨みつける。

「うっわ、エロ。AV女優もびっくりなぐらい、エロい顔だよ、兄さん」
「んん、ぐ」

けれどやり返されるように喉奥を突かれて、呻いてしまう。
嘔吐感に涙が溢れてくる。
けれどその痛みや苦しみさえも、快感で。

ああ、もう何がなんだか分からなくなっていく。
気持ちがいい。
満たされていく空っぽの体が、喜びを示している。
気持ちがいい、きもちがいいきもちがいい。

「はは、本当に食われそ」

どこかでこの状況がおかしいってことは分かっていく。
こんなの、おかしい。
狂っている。
なんで、どうして、こんなことに。
僅かに残った理性と、力を求める本能がせめぎ合って分からなくなっていく。

「あ、はっ」

口の中に溢れた液体を飲み込むと、自分の体が震えて思わず口を離してしまう。
もっともっと欲しい。
でも、気持ちがよすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
でもやっぱり、欲しい。
もう一度天の性器を口にするために体を伏せると、布団に擦れた下半身に甘い痺れが走る。

「んっ」

どうやら、自分も勃っているようだ。
性器が擦れるのも気持ちが良くて、天のものを咥えながら、腰を揺すって布団に擦りつける。

「ああ、駄目だよ、兄さん。兄さんがイったら、意味がない」

天が息を乱しながら、一旦体を離して俺のその行動を止める。
供給の快感も、下半身の快感も取り上げられて、思わず不満の声が上がってしまう。

「てんっ」
「大丈夫、すぐ、飲ませてあげる」

天は俺の体をまた抱えあげて、腕の拘束を外してくれる。
それまで不自然な格好をしていた手は痺れて違和感があった。
天はいまだにビリビリと痺れる手を、俺自身の性器に持っていく。

「はい、供給終わるまでイかないように自分で押さえててね」
「え………」
「じゃないと力あげない」
「や、だ」

仕方なく、言われた通りにイかないようにぎゅっと自分のものの根元を握る。
そのまま擦りあげたくなってしまうが、動かそうとした手に制止が入る。

「駄目」
「あ」
「我慢できるでしょ。じゃないとこれ以上力はあげない」

そんなの耐えられない。
満たされるまで、力が欲しい。
こんな中途半端に飢えた体で、我慢が出来るはずがない。

「ん、我慢する。だから、ねえっ」
「うん、はい」

それからまた顔を天のものに導かれる。
与えられたご褒美に俺は夢中で吸いつく。

「ほら、後少しだよ。そうしたら、イっていいから」
「んぅ」
「せっかく手を外してあげたんだから、手も使って」
「ん」

空いている片方の手を導かれて、俺は咥えながら天の性器を擦る。
上手いか下手かなんて分からない。
ただ夢中で、もっと天の先走りが溢れて来るように刺激する。
天を気持ちよくしたら、その分自分も気持ちよくなれるのだと、ようやく気付く。
そう思うと、より行為に熱がこもっていく。

「うん、上手」
「ん」

頭を撫でられて、より一層手と舌を動かす。
もう限界なのだろう、ビクビクと震えている。
俺は一際強く、先を吸い上げた。

「んっ、イく、はっ」

切羽詰まった声と共に、天の手がぎゅっと俺の髪を掴みあげる。
その痛みすら快感で、眩暈がした。
口の中に勢いよくどろりとした液体が叩きつけられる。
目の前が、真っ白にスパークする。

「ん、ぐ、んぅん」

苦みと臭みと認識しているはずなのに、精液は甘く甘く感じる。
美味しくて、一滴たりともこぼしたくなくて、夢中で吸いつき、飲み込む。
粘つく液体は飲み込みづらくて喉に引っかかるけれど、気にならなかった。
天の射精が終わっても、最後の最後まで絞り取るように吸い上げる。

「はあ、すご。あっは、はあ、はあ、はあ、あ」
「あ………、あ」

最後まで飲み込んでしまうと、体中が痺れて、びくびくと震える。
ベッドにそのまま突っ伏して、バラバラになって壊れてしまいそうな快感に耐える。
脳みそが焼き切れてショートしている。
何も考えることが出来ない。

「あ、はは、本当にエロ。射精してないけど、イっちゃったの?俺のを飲んで?」

息を弾ませた天が、汗で濡れている俺の髪を掻きあげる。
何を言われているのか、分からない。
ただ、そのわずかに触れている手にすら刺激を感じて、また体が震える。

「あ、あ………」
「飛んじゃってるみたいだね」
「んっ」

ベッドに横向きに倒れた俺の喉を、天がそっとなぞる。
それと同時に天と繋がっていた回路が、閉じられる。
自分の中から抜きとられる天の力の残滓にまで、ぞくぞくと寒気がした。

「はい、回路閉じたからイっていいよ。辛いでしょ」
「ん」

自分の手が、まだ性器を掴んだままだったことにそれで気付く。
ビクビクと震えてびしょびしょに濡れているそれは、それでもまた堅さを保ち射精はしていなかったということに気付く。
自分でする時の何倍も何十倍も、快感を感じた気がしたのだけれど。

「ん、ん、あ」

天が見ていることなんて気にならなくて、必死でそれをしごく。
それでも先ほどの快感が大きすぎたせいか、それとも指がうまく動かないせいか、中々射精することが出来ない。
もう後少しでイけそうなのにイけないのが苦しくて、思わず縋るように傍らにいた弟の名前を呼んでしまう。

「て、ん」
「どうしたの?」
「あ、イけないっ、天、なんで」

どうしてイけないのか分からなくて、泣きながら訴える。
すると天は苦笑しながら後ろから手を伸ばしてきた。

「仕方ないね」

俺のべたべたのものを握りこんで、快感を与えてくれる。
優しく擦りあげられる快感に、腰が引き攣れる。

「あ、あ、んっ」
「いけそう?」
「んっ」

さっきまで自分でやっていた時は駄目だったのに、簡単に限界が訪れた。
一際強く擦りあげられて、爪を立てられた瞬間に、達していた。

「んーっ、あ」

腰を揺すり上げて、何度かに分けて射精する。
射精しながらも天は性器を擦りあげてくれて、尿道に残った精液すら絞り出される。
閉じられなかった口から、唾液が溢れかえっていて、天のベッドを汚している。
心臓が破れそうなほどに激しく打っている。
呼吸が荒くて、酸素が足りなくて、頭がガンガンする。
いつもなら疲労感で眠くなるところを眠くならない。
違う、眠いのに、疲れきっているのに、興奮した頭が眠ることを許さない。

「気持ちよかった?」
「あ………」

天が額にそっと手をおいて、眠りの呪を唱える。
ひやりとした感触が、気持ちがいい。
その冷たさで興奮が冷えていく。
急激に眠気が全身をつつみこんでいく。

「おやすみ。よく出来ました」

とろとろと優しい睡魔に襲われて、目を閉じる。
暗闇の中、天の声が聞こえる。

「………本当に、結構出来るもんだよね」

どこか呆れたような、困ったような、笑っているような。
聞いたことのないような、途方に暮れたような声。

「ああ、おかしいね。異常だよね。こんな………」

最後に言った言葉を聞きとる前に、俺は眠りに落ちていった。





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