熱が、消えない。
岡野の最後の表情を見た時から、胸に熱を持っている。
どんなに鎮めようとしても、また加熱して、胸を焦がす。
ベッドでごろごろと転がっても、浮かんでくるのは岡野の顔。

「………」

そんなわけない。
そんなことあったらいけない。
期待するだけ、無意味だ。
妄想もいい加減にしろ。
落ち着け落ち着け落ち着け。

何度もそう自分に言い聞かせても、淡い期待を抱いてしまう。
期待、なのだろうか。
それにしては、この感情には痛みが大きい。
嬉しさよりも、恐怖が大きい。
そんなこと、あったらいけない。

俺に女心なんて、分からない。
近くにいる女性なんて、親族だけだった。
誰かに相談したい。
誰かと話したい。
岡野を知っている、誰か。
兄弟たちとは、話しづらい。
栞ちゃんがいいだろうか。
でも栞ちゃんと話したら、きっと四天にも伝わるだろう。
俺が親しい女性は、あとは槇と佐藤だけだ。
ああ、いや、後一人だけいた。

「………雫さん」

最近、家で見かけてない。
彼女だったら、岡野も知ってるし、相談とまではいかなくても話せるかもしれない。
雫さんも、嫌がりは、しないと思う。
面白がってたし。
次は、いつくるんだろう。
雫さんと、話したいな。
まだ時間は平気だ。
思い立って、携帯を取り出して、メールを打ち込む。

『こんばんは。お元気ですか。最近いらっしゃらないけど、今度いつ来るんですか』

兄弟以外とメールすることなんてなかったから、いまだにメールは苦手だ。
佐藤や岡野からはよく堅いって言われる。
でも、絵文字とか砕けた口調とか、難しい。
メールは、すぐに返ってきた。

『なんか大事な行事があるんだって?しばらく相手できないから来るなって言われてるよー。どしたの?なんかあった?』

大事な、行事。
なんだろう、そんなこと俺は聞いてない。
週末の儀式、な訳はないよな。
人払いする必要もない。
俺も家の行事のすべてを把握しているわけではない。
雫さんを断るぐらいだから、かなり手がかかることなのだろうか。

「なんだろ」

今度、誰かに聞いてみよう。
まあ、教えてくれるとは限らないけど。
とりあえず、雫さんとはしばらく会えないのか。
残念だけど、仕方ない。

『では、次来たとき、ちょっとお話がしたいです。声かけてください』

メールは、またすぐに返ってくる。
雫さん、打つの早い。

『りょーかい!でも、別に今電話してもいいよ?』
『そこまでは大丈夫です。ありがとうございます。次会えるのを楽しみしてます』
『はーい、またね。何かあったらいつでも言ってね』
『ありがとうございます。嬉しいです』

次来たとき、雫さんに話を聞いてもらおう。
誰かに、話したい。

そして自分が何を感じているのかを、知りたい。



***




何度目かの寝返りを打って、ため息をつく。
諦めて目を開いて、起き上がる。

「…………眠れない」

羊を数えても、寝方を変えても、眠りの気配は一向に訪れない。
昨日も全然眠れなかったので体は疲れているし眠いのに、いざベッドに横になると目が冴えてしまう。
眠りの呪を自分にかけようとしても、うまくいかない。
元々苦手な呪だし、興奮している状態では無理だ。
嫌な考えばっかり浮かんできて、暗い感情にとらわれる。
振り払っても振り払っても、じんわりと脳裏を支配する。

時計を見ると、ベッドに入ってすでに1時間経っていた。
今日も、このまま眠れそうにない。
横になっているだけでも違うというが、眠れないのは辛い。
何より嫌なことをずっと考えてるのは、疲労が増す。

ベッドを下りて、部屋を出る。
早くに寝たからまだそこまで遅くはないが、家の中は暗くてしんとしている。
馴染んで見慣れた光景なのに、そこかしこから何かが出てきて襲ってきそうで、怖い。
この家は、こんな怖い場所だっただろうか。

「………」

頭を振ってまた浮かんでくる嫌な思いを消し去る。
何も考えないようにして、台所に向かい、お茶を淹れる。
優しいカモミールティーの匂いは、心を少しだけ落ち着かせてくれる。
ふと考えて、お茶を二つ淹れて、部屋に戻る。

途中、一兄の部屋を覗くが、まだ帰っていないようで真っ暗だった。
最近、俺が迷惑かけたし、そのぶん忙しいのだろう。
いつも、一兄には迷惑をかけてしまう。
俺は、皆に迷惑をかけてばっかりだ。

「………」

やっぱり、迷惑だろうか。
でも、来てもいいとは、言っていた。
返事がなかったら、すぐ帰ろう。
そうしよう。

そして今度は天の部屋を軽くノックする。
寝ていたら、さっさと帰ろう。

「………兄さん?」

しかし、部屋の中からは声が返ってきた。
いつものようにノックする前に気づかれることはなかったから寝ていたのかもしれない。
悪いことをしたかな。

「………遅くにごめん。今、平気か?」
「どうぞ」

けれど天は許可をくれる。
悪いと思いつつほっとして、お盆を片手にドアをそっとあける。
部屋の中は明かりが消されていて暗い。
わずかに窓から入る光で照らされた部屋で、天はベッドの上で体を起こしていた。

「………ごめんな、寝てたか」
「そろそろ寝ようと思っていたところ。大丈夫」
「ありがとう」

天がベッドサイドのランプをつける。
オレンジ色の光に、その白い顔が映し出される。
天はいつも通り眠気なんて感じさせない顔で、小さく笑っていた。

「一矢兄さんはまだ帰ってないの?」
「………うん」
「そう。とりあえずこっちにどうぞ」

天が掛布団を持ち上げて、促す。
拒絶はされなくて、ほっとする。
お盆を持ったまま近づき、天が開けてくれたスペースにすべりこむ。

「お茶、持ってきたんだ」
「ありがと」

天にカモミールティーを渡し、そのまま二人並んで、お茶をしばらく啜る。
お茶も明かりも温かくて、隣に誰かいることにほっとして、心がふわりとほぐれていく。
やっぱり、誰かがいるのは、落ち着く。
一兄や天と一緒にいると、頼もしくて、不安が薄れていく。
なんだかんだいって、安心してしまう。
そこでふと、この光景がおかしいことに気づいて苦笑してしまう。

「どうしたの?」

天が不思議そうに首を傾げる。

「なんか、変だよな。俺、お前とか一兄とよく一緒に寝るけど、これって、普通はいい年した兄弟でしないよな」
「何を今更」

天は呆れたように肩をすくめる。
確かに、今更だ。
でも、改めて考えて、やっぱりおかしいだろう。
俺は、二人に甘えすぎている。
どうにか、しないと。
天が顔を近づけてきて、にやりと笑う

「あんなことした仲なのに?」
「なっ」

体が一気に熱くなる。
思い出さないようにしていたあの時のことが、脳裏に浮かびあがる。
天の手の感触、濡れた舌の感触、荒い吐息、汗のにおい、珍しく熱を持った体、体の中に入ってくる熱いもの。

「………っ」

頭を横に強くふってそれを振り払う。
しかし天はくすくすと笑いながら、耳元で囁く。

「運動する?そしたら寝れるかも」
「運動って………」
「ベッドの上でする運動」

その言葉の意味を認識して、更に顔が熱くなる。

「な、ば、馬鹿じゃねーのか!馬鹿!」

隣の体を押しのけると、更に笑いながら天がその手をつかむ。

「はいはい。お茶が零れるからやめて」
「………っ」

なんてことを言うんだ。
本当にこいつはタチが悪い。
ここに来てよかったんだろうか。
安心すると思ってしまったさっきの自分を殴りたい。
こいつには散々な目に遭わされてるのに。
隣の体から離れるために、ベッドの端による。

「別に襲ったりしないよ。強姦魔じゃないんだから」
「お前、前に、あんなこと、したくせに!」
「どんなこと?」
「………っ」

皮肉げに笑う弟に我慢が出来なくなって、ベッドから下りようとする。
しかし寸前に腕つかまれ、それを制される。

「離せよっ」
「ごめんごめん。あれは実験とかまあ、そんなものだったから。今はしないよ」

実験の意味は、今なら分かる。
共番の儀式が、出来るかどうか、の実験だったのだろう。
でも、それだけじゃ説明できないことを、されている。

「あ、そういえば。ねえ、一矢兄さんはさ、あの薬飲んだ?」
「は?」

天は俺の腕をつかみながら、ふと思いついたように首を傾げた。
なんのことか分からず、呆けた声が出てしまう。

「ソノ気になる薬。儀式のときに」
「………っ、な、何言って」

儀式とは、共番の儀式のことだろう。
そして、薬とは、天が持ってきたあの薬だ。
結局飲んでいないから、どんなものか分からないけど。
そもそも、儀式のことを、これ以上思い出すのは嫌だ。
まして、天と、一兄の儀式のことなんて話したくない。

「どうだった?」
「お、お前には、関係ないだろ!」
「ちょっと関係あるんだ。ね、どうだった?」
「し、知らない!」

逃げ出そうとしても、動きを封じる手の力は強くお茶を持ったままでは振り払えない。
天は、しつこく聞いてくる。

「教えてよ。別にからかったりしないから」

確かに今は、にやにやと笑っていたりはしない。
純粋な興味から聞いているようだ。
言わなければ、逃がしてくれなさそうだ。

「………の、飲んでなかった」

仕方なく、白状する。
一兄も、あの時薬は飲んでなかった。
一兄との儀式も思い出しそうになって、俯いて目をつぶる。
考えるな。
忘れろ。

「そっか」

天は言った通り馬鹿にしたりする様子はなく、ひとつ頷いた。
そして、ふっとため息をつく。

「お、お前に、なんの関係があるんだよっ」

こんなこと聞いて、どうするつもりなんだ。
なるべく考えたくもないのに。
天だって、考えたくないだろうに。

「いや、やっぱりうちの一族って狂ってるなあって」

苦笑交じりの言葉に、顔を上げる。
白い顔をオレンジ色のランプで照らされながら、弟は自嘲するように笑っていた。

「俺たちは兄さん相手に欲情できるように出来てるんだ。抵抗はそりゃあるけど、萎えたり気持ち悪いなんてことはない」
「え」

あまりにも直接的な言葉に、一瞬何を言われてるのか認識できない。
天はこちらを見て、俺の頬にそっと触れてくる。
その冷たさに、びくりと体が震えてしまう。

「自己防衛本能みたいなものなのかな」
「な、何が」
「兄さんも、一矢兄さんや俺相手に勃つでしょ?」
「だ、あ、あれはっ、だって、供給だから」

確かに俺も、二人に対して嫌悪感や拒絶を覚えたことなんてない。
変だと、嫌だと思いながら、それでも、受け入れることが出来た。
でも、供給を受けると、何も考えられなくなってしまうのだから仕方ない。
普通の時に、二人に、そんな変なことを考えたことなんてない。

「まあ、兄さんはまた別なんだけど」

天はやっぱり苦笑しながら、すっと手を滑らせる。
頬から喉を通って、胸に触れる。

「こんな、堅くて胸もなくて余計なものはついてる体なのにね」
「あっ」

ぞくりと背筋を走る感覚に、変な声が漏れてしまう。
慌てて口を閉じ、またベッドから降りようとする。

「へ、変なことするなら帰る!」

けれど天はまた俺の肩をつかみ、引き戻す。
手からお茶を取り上げられ、ベッドサイドの棚に置く。

「しないよ。大丈夫。俺だって理由なく兄に変なことするようなケダモノには、なりたくない」

その言葉と表情が、自嘲しているようで、胸がつきんと痛む。
天は、何を言いたいのだろう。
何を考えてるのだろう。

「………天」

何が聞きたいのか自分でもよく分からなくて、ただ、名前を呼ぶ。
天は目を伏せて、ふっと息を吐いた。

「こんな話してたら眠れるものも、眠れないね」
「………」
「何か楽しい話でもしようか」

一瞬でいつもの表情に戻り、皮肉げに笑っていた。
もやもやとした気持ちが、ただ燻る。
何を聞けばいいんだろう。
天は何を考えているのだろう。
やっぱり、分からない。
いつまで経っても分からない。

「岡野さんとはどうなの?」
「なっ」

ぐるぐるとしていたが、天の言葉にまた頭が一瞬で沸騰する。
今日会っていた少女の顔が脳裏に浮かぶ。

「ど、どうって。どうもしねーよ!岡野は、いい友達だよ!」
「どうって聞いて、いい友達って答えが返ってくるって、本当は友達以外の感情の含まれてるってことだよね」
「し、知らねーよ!なんでもないんだよ!」
「何もないんだ」
「ねーよ!」

何もない。
何もなかった。
何もあるはずがない。

「何も、ない」

岡野は、いい友達だ。
大切な、大事な、友達。

「………でも、友達でも、俺が、もしいなくなったら、岡野に悲しい思いって、させるかな」

大切なんだ。
大事なんだ。
だから、悲しい思いなんてさせたくない。
ずっと笑っていてほしい。
でも優しいあの子は、もし、俺に何かあったら胸を痛めるだろうか。
泣いて、怒って、苦しむだろうか。
そんなの、嫌だ。

「哀しい思いをさせるぐらいなら、忘れて、欲しいな」

そんな思いはさせたくないんだ。
ただ、笑っていてほしいんだ。
幸せでいてほしいんだ。
そうだ、だから、怖いんだ。

「本当に?」
「………」

天が真面目な顔で、じっと俺の表情を伺っている。
咄嗟に、頷くことは出来なかった。
忘れてほしい。
笑っていてほしい。

「だって………」

でも、忘れてほしくないと、どこかで思ってしまう。
例え、会えなくなっても、俺のことを覚えていてほしいと、酷いことを思ってしまう。

「もう、悲しませることは決定なの?」
「っ」

悲しませたくない。
ずっと一緒にいたい。
でも、それが俺には、許されてない。

「お前だって、俺が奥宮になればいいと、思ってるんだろ!」

天は俺の言葉に、一瞬黙った。
しばらくして目を伏せて、静かに言った。

「………そうだな。兄さんが奥宮になるしかないんじゃないかと思ってる」
「………っ」

想像していた言葉だったが、胸が抉られたように痛む。
そんなことないって言葉を期待していたのかもしれない。
でも、そんな都合のいい言葉を、天がくれるはずがない。
良くも悪くも、嘘はつかない奴だ。

「でも、兄さんは、嫌だよね」

嫌に決まってる。
嫌だ。
あんな怖いものになりたくない。
怖い思いも痛い思いもしたくない。
逃げたい。

「………」

怖い怖い怖い。
でも、俺しかなれないなら、俺が、出来るのなら。
俺以外の誰かが選ばれるようなことになるなら。
役立たずの俺でも、出来ることがあるなら。
俺の力がようやく、望まれるのなら。

「………俺が、役に立てる、なら、それなら」

それなら、俺が生まれてきた意味も、あるのかもしれない。
天が、じっと俺の顔を見ている。
その視線から逃れるように目をそらして、オレンジ色に照らされているベッドを見る。

「………俺は、自分の欲するところを知って、それを求めるために何もかもが捨てられる人が好き」
「え」

顔を上げると、天はゆるく首を振った。
それからベッドサイドの棚に手を伸ばす。

「やめよう。また話が重くなってる」
「天?」

天が棚から取り出したのは、ワインの瓶だった。
掲げて、笑って見せる。

「お前、それ」
「少し飲もうか。そして楽しい話をしよう」
「未成年のくせに」
「それこそ、今更でしょ」

俺たちは小さいころから、酒を飲んでいる。
確かに、今更でもある。
だからって、飲んでいいわけじゃないけど。

「たまには、ね」

とくとくと音を立ててワインをティーカップに注ぐ。
半分ぐらいまで注がれた赤い液体は、オレンジ色のランプに照らされてまるで血のようだ。
少しだけためらって、けれど受け取ってしまう。

「………うん、そうだな」

酔ったら、嫌なことも忘れられるかもしれない。
ぐっすり眠りたい。
ただ、何も考えずに眠りたい。

「………おいしい」

赤ワインは口当たりがよくて、甘かった。
いつも苦く感じて苦手だったが、これは飲みやすい。
ふわりと胃が熱くなって、体が温まる。

「兄さんは、海に行きたいんだっけ」

天も自分のカップに口を運びながらそんなことを聞いてくる。
そうだ、楽しい話を、しよう。
嫌なことを考えるのは、やめよう。

「うん。行きたいな。この前みたいに、皆で一緒に」
「そうだね、いいね」
「海って、大きくて広くて青いんだろう。見てたら、悩みなんてなくなるぐらい、大きいんだろう」
「綺麗な海ならそうかもね。近場だとちょっと汚くて狭いし」
「なら、綺麗な海見たいな。どこにいけばいいんだろう。やっぱり南?」
「南の島とかじゃなくても、綺麗な海はあるよ」
「そっか、みたいな」

天の口調も表情も、柔らかくて優しいものに変わってる。
こんな風に、いつも話せたらいいのに。
天と、傷つけあいたいわけじゃない。

「兄さんは、海が本当に好きだね」

海に憧れるようになったのは、いつだっただろう。
そうだ、昔、幼い声に言われたのだ。

「お前が教えてくれたんだろ。海を見てれば、嫌なこと忘れちゃうって」
「………そうだっけ」

力がなくて落ち込む俺を、励ましてくれた小さな手と、あどけない声。
あれは、幼い弟の、声だった。

「そうだよ。あの頃のお前は、可愛かったな」
「申し訳ないね。可愛くなくなっちゃって」
「本当だよ」

いつから、俺を嫌うようになった。
俺も、天を嫌うようになったけど、天から先に、俺を避けるようになったはずだ。
よそよそしく、冷たく、皮肉を言うようになった。
小さい頃は、仲が良かったはずなのに。

「………俺によそよそしくなったのって、俺が、奥宮になるって知ったからか?」
「そうだね。それも原因だ」
「俺が、汚い、化け物になるから?」
「………」

だから、俺を嫌ったのか。
俺を、忌んだのか。
俺の存在を認めたくなかったのか。

「また、暗い話なるね。仕方ないか」

天が苦笑して、肩を竦める。
そして、また俺の手からカップを取り上げる。

「横になって、兄さん。目をつぶって」
「え」

肩を押されて、されるがままにベッドに寝っころがる。
かすかにアルコールの回った体は温かくて、頭はぼんやりと霞がかっている。
目を覆われて、瞼を閉じると、体の疲れが認識出来て、手足が重くなってくる。

「んっ」

そっと唇がふさがれて、生ぬるいワインが注ぎ込まれる。

「ん」

飲み込むと、またじわりと体が熱くなる。
ランプが消された気配がして、瞼の向こうが暗くなる。

「眠ろう。嫌なことを忘れて」

体が引き寄せられて、頭を抱え込まれる。
額に冷たい感触がして、天の力が伝わってくる。
これは眠りの呪か。
興奮していると効きがよくないけれど、アルコールのせいか、じんわりと睡魔が襲ってくる。

「おやすみ、兄さん。いい夢を」
「………天」

うとうとと眠くなってきて、体から力が抜けてくる。
頭が優しく撫でられている。
その感触が気持ちがいい。

「綺麗な海が見えるといいね」





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