今日も、藤吉が離れまで迎えにきた。 布団に横たわったままの俺の顔を見て、眉に皺を寄せる。 「また、ひどい顔色だ。寝てないのか?」 「………」 考え事をしていたら、眠れなくなった。 そうじゃなくても最近あまり眠れないのだけれど。 昨日の夜は飽きて膿むほどに考え込んで、ほとんど睡眠をとることは出来なかった。 「………岡野と槇が、心配する」 「………っ」 働かない頭でぼうっと藤吉の顔を見ていると、眼鏡の男は小さな声でそう言った。 あの二人の名前を出されて瞬時に苛立ちを感じる。 俺の枷とするために利用したあの二人の気持ちを、語るな。 これ以上、利用するな。 歯を噛みしめて睨みつけると、藤吉が目をそらした。 「ごめん」 そして静かにそう言った。 そうすると今度は途端に気まずさが生まれる。 藤吉に八つ当たりしても、どうにもならない。 これは、俺の家の事情、なのだから。 藤吉だって巻き込まれただけかもしれない。 でも、あの二人をこれ以上引き合いに出されるのは、嫌だ。 これ以上利用してほしくない。 「今日は学校へ、行ける?」 「………」 藤吉がわずかに視線をそらしたまま、恐る恐る聞いてくる。 少しだけ考えてから、頷いた。 たとえあの二人は俺を御するためにあてがわれているのだとしても、それでも会いたい。 どうせ逃げられないのなら、せめて、一緒にいたい。 一時の安らぎを得たい。 ああ、俺も所詮、あの二人を、利用しているのか。 「じゃあ、用意してくれ。待ってるから」 藤吉がわずかに笑って、外に出ていく。 利用しているのかもしれない。 俺も、皆と一緒だ。 でも、会いたい。 本当に最低だ。 そう思っていても、あの二人の顔を思い浮かべると、外に出たくなる。 のろのろと準備をして、部屋の中とは違う明るい世界へと出る。 「行こう」 出てきた俺を見て、藤吉がほっとした顔をする。 俺を連れ出せと、言われているのだろうか。 ご苦労なことだ。 俺のためになんか、こんな骨を折って。 家のためとはいえ、相当な労力だろう。 そういえば、藤吉は、どれくらい、宮守と親しいのだろう。 宮守のことを、知っているのだろうか。 「藤吉は」 「え、な、何?」 話しかけた俺に、藤吉が驚いて一瞬肩を跳ねる。 目を丸くして俺を見る藤吉の目を真っ直ぐに見つめる。 「藤吉は、宮守のこと、詳しいの?」 「え」 宮守の家のことを、俺は知らない。 ずっとそこにいたのに、何も、知らなかった。 全て、隠されていた。 そして俺も、知ろうともしなかった。 「奥宮と先宮の関係とか、知ってるの?」 「………」 それが、昨日考え込んでしまったこと。 奥宮と、先宮はどういう関係、なのだろう。 先宮の強大な力。 身の内に闇を飼う奥宮。 繋がっている先宮と奥宮。 もう、答えは、見えているのかもしれないけれど。 「俺は」 藤吉がゆるりと首を横に振る。 「俺は、よく知らない。遠縁だから。ただ、言われたことをするだけ、だから。理由とか、詳しい内容とか、聞かされないんだ」 「………そう」 「ごめん、な」 俺の顔を見て、顔を曇らせる。 その表情は本当に申し訳なさそうで、心底悪く思っているように見える。 これまで、嘘を突き通してきた藤吉の表情なんて、どうせ俺には何も分からないのだろうけど。 まあ、知ってても言ってくれるとは、思ってなかったけど。 「遠縁なのに、宗家の言うことは、やっぱり聞かなきゃいけないの?」 「三薙?」 「こんな、言いつけで、俺みたいなのに張り付いてるなんて、大変だろ。ずっと。自由なんてない。楽しく、ないだろ」 なんの面白みのない男とずっと一緒にいて、面倒見て、友達ごっこして、さぞかし骨が折れたことだろう。 中学からずっと俺の監視をしてきたのだと思うと、いっそ申し訳なくなってくる。 「俺みたいって………」 藤吉が苦しげに、唇を噛みしめる。 でもすぐに苦笑して、ゆるりと首を横にふった。 「宗家には、恩があるから」 「恩?」 「そう、力を少しでも持ってる人間は、どこかの庇護下に入るのが、生きやすいから」 確かに、俺みたいな力を持って、でも普通の家に生まれたら大変だろう。 志藤さんもそんなことを言っていた。 お母さんに理解されなくて辛い思いをした、と。 それなら確かに、宮守家のような家とつながりがあった方が楽なのかもしれない。 でも、それだけで、こんなに苦労するのは、見合っているのだろうか。 「それに、うちは、お金の援助、結構してもらってるんだ。だから、宗家には恩がある」 藤吉がその後、自嘲するように唇を歪めそう続けた。 「お金、か」 それもあるのなら、分からないでもないかもいれない。 藤吉の労力に見合うだけのリターンが、あるのかもしれない。 それなら、いいか。 藤吉に、益はあるのだ。 「軽蔑した?」 「え」 黙った俺に、藤吉が苦笑したまま聞いてくる。 「お金で、友達を売るなんて」 少しだけ考えて、首を横にふった。 「俺は、お金に困ったことがない。生活に不自由したことがない。お金を稼ぐようなバイトとか、したことない。だから、お金ぐらいで、とか言えない。俺には、言えない。お金の大事さとか、知らないから」 「………」 理由はどうあれ何不自由なく、庇護されて育ってきた。 傲慢かもしれにけど、だからこそ、お金なんて、言えない。 俺は、それを知らない。 「それに、俺もずっと力を欲してきた。力が得られるというなら、なんでもしたかもしれない」 むしろ、明確な理由があって、少しだけ安心した。 それなら仕方ないかもしれないと、思うことが出来る。 自分を納得させることが出来る。 藤吉の境遇に、同情をしないで済む。 「三薙は、そこで人を罵って、殴って、憎めれば、まだ楽なんだろうな」 藤吉が目を伏せて、苦く笑いながら言った。 罵って、殴って、憎んで。 ああ、本当にそうできれば、どんなにいいんだろう。 でも、出来ない。 憎み切れない。 それをするには、思い出が温かすぎる。 本当にずるい。 苦しい。 「三薙は………」 「何?」 「いや、なんでもない。遅刻する。行こう」 藤吉が優しく笑いながら、歩き始めた。 学校へ行くと、岡野がいつものように不機嫌双に顔を顰めた。 「なんかあんた、本当に顔色悪くない?」 怒っているような口調は、けれど俺を心配しているのだと今なら分かる。 だから胸がじんわりと温かくなっていく。 冷え切っていた体に、血に、熱が戻っていく。 「あはは、ちょっと寝不足で。ゲームしすぎちゃってさ」 「ばーか。子供かよ。うちの弟みたいなことしてんじゃねーよ」 「ごめん」 こんな風に小突かれても、ただ嬉しいだけ。 泣いて叫びだしたくなるぐらい、嬉しいだけ。 最後の日常。 最後の友人。 最後の本当。 何より温かく優しい愛しい鎖。 「本当に、具合悪くなったら帰れよ」 「うん、ありがと。でも大丈夫。それに、帰りたくない。岡野達と一緒にいたい」 「な」 岡野が一気に耳まで真っ赤にする。 それから眉を吊り上げて、頭を一発殴られる。 「本当にあんた、馬鹿」 顔を赤くする君を見ていると、世界が優しく感じる。 怒りながら、冷たい言葉を言いながら、それでも優しい君に、希望を感じる。 もう、これだけでいい。 これが、あるだけでいいんだ。 「あ、宮守君、ちょっといいかな」 「槇?」 その時槇が、後ろからひょこひょことやってきて、俺の腕を小さくひいて促す。 何か分からず首を傾げると、槇はにっこりと柔らかく笑った。 その笑顔にもふわりと心が軽くなる。 岡野と槇と、そして志藤さんがいれば、いい。 まだ、俺は温かいものを持っている。 「こっち来てもらっていい?」 「え、うん」 やや強引にひっぱられ、よくわからないがついていく。 岡野が後ろから不機嫌そうに聞いてきた。 、 「何する気だよ」 「ちょっと宮守君借りるね。ごめんね、彩」 「別に私のじゃねーし」 「うん、だよね。じゃ、あとでね」 「な!」 言葉を失った岡野を尻目に、槇はにこにこと笑いながら俺の腕を引っ張りながら、教室の外に出てしまう。 相変わらず柔らかく優しく穏やかに、けれど実は強引で有無を言わさないところがある。 「槇、どこいくの?」 「着いてからのお楽しみ」 そんなこといっても、そう広くない学校だ。 行けるところにも限りがある。 でも槇は迷うようにあちらこちらをうろうろしながら、やがてしっかりした足取りで目的を決めたように歩き始めた。 「屋上?」 そうこうしているうちに、連れてこられたのは、屋上だった。 階段を上がった先の開いていたドアから出ると、眩しさに目がくらむ。 春の温かな日差しの下、外で昼食をとるにはちょうどいい時期だ。 昼食をとる人たち、とった後の会話を楽しむ人たち、そんな人たちがまばらにいる。 「うん」 槇はきょろきょろとあたりを見渡すと、ややスペースの開いた隅の一画まで歩いて行った。 俺もその後をついていく。 そこでようやく、槇が立ち止まる。 「どうしたの?」 振り返るとにっこりと笑って、ブレザーのポケットに入っていたものを取り出した。 何か膨らんでると思っいてたら、手のひらほどのセロファンの袋だった。 「はい、これ」 「え」 「彩がね、作ったの。宮守君のためにね。プリン嬉しかったって、言ったでしょ」 手に乗せられるままに受け取り見ると、それはセロファンの袋に入ってリボンをかけられたクッキーだった。 やや形は歪つで、ところどころ焦げてもいる。 「ちょっと形悪いでしょ?だからあげられないって彩隠しちゃうんだもん。でも内緒であげちゃう。味は悪くないよ」 「………」 小首を傾げて見上げてくる槇に、言葉が詰まる。 胸が、じくじくと痛くなってくる。 「嬉しい?」 「………うん」 絞り出すように、それだけ言った。 嬉しい。 胸が痛い。 お菓子を作ってくれたことが、槇がそれを俺に渡そうとしてくれたことが。 そのすべてが、嬉しい。 胸が、苦しい。 目頭が熱い。 言葉が、出ない。 「彩は普段はお菓子作りはあまりしないからね。頑張ったんだよ。ちゃんと感謝してね」 「う、ん」 「見栄っ張りなのが玉に瑕だけどね」 お菓子を作ろうとしてくれたこと、でも形が悪いからと隠してしまったこと、その流れが、脳裏にまざまざと浮かぶ。 岡野の照れたような怒ったようなふてくされた顔が浮かぶ。 優しくて強くて、俺に温かいものをいつだってくれる、女の子。 「ありが、とう、槇」 「うん」 槇がにっこりと笑う。 優しい槇。 優しい岡野。 駄目だ。 たとえ二人を利用しているのだとしても、それでも、やっぱり、二人といたい。 「いい天気だね。このままサボっちゃいたい」 槇が空を見上げて、大きく伸びをする。 あえぐようにして何度か呼吸を繰り返して、泣きそうになるのどを堪える。 泣いたら、駄目だ。 嬉しいんだから、笑わなきゃ。 泣くのなんて、哀しいときで、十分だ。 「優等生のくせに、そんなこと言って」 「別に優等生じゃないし。バレなきゃしたいよ。そういえば、宮守君、そういうのは出来ないの?」 「え」 槇が悪戯っぽく笑って振り返る。 「宮守君たちが使う、えっと、あの超能力みたいなの?」 「そんな大層なものじゃないけど」 「使えない人間からしたら十分すごいよ」 「う、ん」 確かに、不思議な力が使えるのは、確かだろう。 物理的な影響力はないものが多いから、一般的な超能力といったものではないけれど。 「色々出来るんでしょ?お化けやっつけたり、人の記憶いじったりとかもしてたっけ?後は、なんか、お化け操ったり」 槇は考えるように、指折り数える。 退魔、暗示、使役。 それは、確かに、俺たちに成せる技だ。 記憶をいじるって、なんだか嫌な言葉、だけど。 「………えっと、うん、そういうのは、出来るかな」 「じゃあ、消えたりとか、影武者作ったりとか」 「出来る、かな」 隠形や、使鬼を使えば変わり身を作ることもできるだろう。 記憶や話し方までそのままそっくり作れるという訳じゃないから、親しい人と接したり、長期間そのままでいるということは難しいけれど。 槇は手を叩いて顔を輝かせる。 「出来るんだ!すごい!」 「影武者は、ちょっと難しいかもだけど。外見似てても触ったり、話したりすると、やっぱり違うし」 「そっかあ。でもそれならバレずにサボれるね」 そんなこと考えたこともなかったから、面白い発想につい笑ってしまう。 「確かに。一兄に見つかったら怒られそうだけど」 「あはは、そうだね」 「………」 一兄の名前が自然に出てきて、ずきりと胸が痛んだ。 こんな風に楽しく話せていた記憶は、そう遠いものじゃないのに。 兄の名を出すのは、とても嬉しくて楽しいことだったのに。 なぜ、こんな痛みを感じるんだ。 どうして、こんな風になってしまったんだろう。 「他にはどんなこと出来るの?見つからないようにすることは出来るなら、見つけたりするのは?遠くにいてもどこにいるか分かるとか、話が分かるとか、発信器や盗聴器みたいなの」 「発信器は、できるよ」 発信器のほうは、そもそも俺にもうついている。 俺はどこにいても見つけられてしまう。 逃げられない。 「………」 「宮守君?」 「あ、ううん。盗聴器も出来る、かな。やり方によっては」 盗聴器も使鬼を使えば、出来ると思う。 俺はやったことはないけれど、兄弟たちはやっていたことがあったかもしれない。 「そっかあ。それを防ぐことは出来るの?」 「………術の種類にもよるけど、結界を張れば、たぶん、見えなくなるようにするのは、出来るかな。声も聞こえなくなると思う」 「結界!なんか本当にそれっぽいね」 槇が目を丸くして楽しそうに笑う。 こんな風に俺の事情につっこんでくることなんてあまりなかったのに、どうしたんだろう。 「宮守君にはその結界って、出来るの?」 「………一応」 習ったし、最近はよく使っていたので、うまくなっているとおもう。 力も満ちているし、そこそこのものなら作れるだろう。 頷くと槇が期待に満ちた目で見上げてくる。 「そうなんだ!ね、一回やってみて」 「え?だ、だめだよ」 「なんで?人を攻撃する訳じゃないでしょ。ね、一回だけ」 小首を傾げて強請ってくる槇は、かわいい。 かわいくておねだり上手で、頷いてしまいそうになる。 でも、濫りに術を使ってはいけないとされている。 こんな理由で、使うなんていけないことだろう。 「ね、お願い?」 それは、家の言いつけ。 俺の中で、絶対だったもの。 でも、そんなの、何になるのだろう。 言いつけを破ったら叱られる。 そんなの今更だ。 それなら、いいか。 槇の言うとおり、人を攻撃するものではない。 ただ、自分を守るためのものだ。 「一回だけ!」 「………分かった。宮守の血において………」 周りに人がいるから、聞こえないように小声で呪を唱える。 聞こえたら変な人に見られるだろう。 それに、少し感じる人がいれば結界を張ったことがバレるかもしれない。 まあ、いいか。 もう、それくらい、いいか。 どうでも、いい。 「我らを守り包む、繭とならん」 呪を唱え終え、力を発動させ結界を作り上げる。 俺と槇をすっぽり包みあげるほどの球体の力は、中々綺麗にできたと思う。 結び目もそこそこしっかりしてるし、強度も中々だ。 「出来た?」 槇は呪を唱え終わった俺を見て、不思議そうにあたりを見渡す。 「うん」 「そっか。やっぱり私には何も分からないや。そういう霊能力?とかってまったくないなあ」 そして困ったようにぐるりとまわりを見渡して、手を振り回したりもしてみせる。 それでも何も感じないのだろう、ふっとため息をついて苦笑して肩を竦める。 「これで一応、その術とかで、見えたり聞こえたりとかはなくなったの?」 「うん、少なくとも、使鬼とかを飛ばしている場合は、近づけなくなる」 害意や干渉を防ぐ結界は、ある程度力のある人には痛みを感じる。 何も感じない人には、意識しなくなり、近づかなくなる。 触れてしまえば、気分を悪くすることもある。 「よくわからないけど、わかった。じゃあさ、ね」 「何?」 槇が納得したように一つ頷く。 そして、にっこりと柔らかく笑う。 「宮守君、家で何かあった?」 「え」 「それと、藤吉君と千津と、何かあった?」 投げられた言葉に、頭が真っ白になる。 心臓が一つ、跳ね上がる。 「あ、そんな深刻な顔しないで宮守君。千津とか藤吉君が来たら、変に思われちゃう。まだ来ないみたいけど」 槇が視線の先の入り口をもう一度確かめる。 屋上の入り口は、あそこだけだから、誰かが来たらすぐに分かる。 屋上だから、急に後ろから、近づかれることはない。 人ならざる者でなければ。 「聞いても、何もできないかもしれないけど、様子おかしいから」 「藤吉とか、が?」 「ううん、あの二人はいつも通り。すごくいつも通り」 なんとか言葉を絞り出すが、槇が苦笑しながら首を振る。 困ったように、どこか申し訳なさそうに、俺を見上げる。 「おかしいのは宮守君。あの二人と目を合わせない。挙動不審。でも喧嘩したならあっちも変な態度になるよね」 「………」 「喧嘩した場合は、宮守君なら私や彩に相談もするんじゃないかな。だから喧嘩じゃない。でも、宮守君はおかしい。じゃあ、何があったんだろう」 「………」 自分に問いかけるように、指を頬にあてて首を傾げる。 そんな仕草はどこか茶目っ気があってとてもかわいい。 いつものように悪戯っぽく柔らかく優しく穏やかで、楽しい話をしているようだ。 「………でも、まあ、たぶん、私が聞いても、どうにもならないことな、気もするんだよね」 そこで少しだけ哀しそうに目を伏せた。 じわりと、背中に嫌な汗を掻く。 大事な日常。 壊れて、欲しくないんだ。 最後の最後まで、この日常を、たとえ偽りでも、続けたいんだ。 「………二人には、聞いたの?」 「聞かないよ」 槇はきっぱりと言って首を横に振った。 何を知っている。 何を気付いている。 知らないでいて。 気付かないでいて。 「私ね、知ってるかもしれないけど、すごく性格悪いんだ」 「え」 「昔いじめられてたって言ってたでしょ?それもあって人間不信。まあ、その前からだけど、性格がものすっごいひねくれてるの」 槇は言っていることとは裏腹にあっけらかんと笑ってみせる。 「陰険で疑り深くて執念深いの」 「そんな風に、見えない」 「だって見えないようにしてるから。性格悪いってアピールしてもいいことないもん」 槇はやっぱり柔らかく笑いながら、穏やかに言う。 優しく穏やかで柔らかくてふわふわしてて、でも意思が固くしっかりしている、芯の強い子。 「だからね、おかしいなって思ったんだよね。と言っても、思ったのはつい最近なんだけど」 槇はそこで、笑顔を消して、思案するように口元に手をあてる。 「私はなんで、あの二人に気を許したんだろう」 |