「しゅーんくん、あーそぼ」

勝手知ったる他人の家で、返事がないのに上がりこむ。
今日は街の方まで買い物に出ていた。
夕方になって、駿君も部活から帰ってきているだろうからやってきたのだ。
やっぱり、1人より2人の方がいい。
………もっと言えば、駿君と一緒がいい。

駿君の家を歩き回っていると、縁側に面した部屋に明るい緑のものがみえた。
興味を引かれて、近づいてみる。
開け放たれた縁側からは、風鈴の涼しげな音がした。
……うわ。
思わず顔がにやけてしまう。

そこには、駿君が、寝ていた。

ジャージのまま、疲れているのだろう。
私が入ってきたのにも気づかず、ぐっすりと寝ている。
仰向けになって、お腹のところに明るい緑のタオルケットをかけている。
小さく寝息をたてて、あどけなく寝ているその姿は、いつもよりずっと幼く見える。
ていうより年相応?
いつも大人っぽくてしっかりしてて怖くて乱暴だし。
私はそっと駿君のそばに近づき、傍らに座り込む。
やっぱり駿君が目覚める様子はない。
おかげで、珍しい姿がじっくり見える。
やっぱり駿君て美少年だよなあ。
睫ばしばし。マスカラしたら映えるだろうなあ。
少し焼けたけど、やっぱり肌綺麗だし。
一重だけど、切れ長で形のいい目。
うーん、いいなあ。
白い半そでのシャツからは、細い腕が伸びている。
細いなあ。
ちょっとタオルケットをめくってみる。
ウェストもほっそいよー!
………なんかちょっとむかつく。
……………何cmぐらいなんだろ。
…………………………はかってみようかな。

なんていうか、出来心。
うっかりその部屋でメジャーが見つかってしまったし。
うん、しょうがないよね。
二の腕二の腕………うわ!細!
思わず自分の腕をはかってしまう。
………やらなきゃよかった。
う、うう。
き、気を取り直してウェストウェスト。
ぺらりと駿君のシャツをはだけさせる。
あ、お腹はやっぱり真っ白だ。
腕とかは焼けてるんだけどな。
あー、でも筋肉ついてるなー。
綺麗なお腹。
思わずお腹を撫でてしまう。
すべすべー。

…………は。

こ、これは、なんか、やっぱり、へ、変態さん?
やばいよね。この行動はかなり微妙だよね!?
で、でも、私達す、好き同士なわけだし。
こ、これくらいは、い、いい。
………わけないよね。

と、とりあえずサイズだけ測っちゃおう。
あ、……やらなきゃよかった。
何この細さ。
ずるい。
うー、くそ。
ていていてい。
悔しさまぎれにお腹をつつく。

「う、ん」

気だるげに身をよじる。
う、わ。
なんか、こう、色気あるなあ、駿君。
なんだかいけない気分になってしまう。
慌ててシャツとタオルケットを元に戻す。
ていうかやっぱり私変態?
やっぱさ、駿君に言いくるめられちゃったけど、4つも年下だし。
中学生だし。
…………変態?
ていうか年下の少年を弄ぶ悪女?
うわー………。
またぐっすり眠っている駿君に目を落とす。
幼い顔で眠っている、怖くて、だけど優しい男の子。

でも、やっぱり好きなんだよなあ。

いくら変態でも、悪女でも。

駿君が、好きなのだ。

自分で自分の考えに赤面してしまう。
あー、なんかかなりダメ人間な気分。
それもこれも。

「駿君のせいだし。駿君のばーか!」

小さな声で毒づいた。

「ん、鈴鹿……?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!なんにも言ってません!ほんの出来心です!」

それに反応したのかうっすらと目を開ける駿君に、反射的に謝ってしまう私。
こ、根性なしだ。
けれど駿君には聞こえてなかったらしい。
眠たげに目をしばたかせると、私の腕を引く。
「う、わわわ?」
その勢いで倒れこむ。
幸い、畳だからそんなに痛くないけど。
「しゅ、駿君?」
「お前も寝ろよ……」
ね、寝ぼけてるのかな。
すでに駿君の声はもう寝ている。
まぶたも閉じてしまった。
私は倒れこんだまま、突然のことに反応できないでいた。
そのうち規則正しい寝息が聞こえてくる。
意外と、寝起き、悪いのかな……?
仰向けになって、大きくゆっくりと胸を上下させている。
長い睫が時折震える。
本当に、珍しく、幼い。
その様子を見ていると、なんだか私まで眠くなってきてしまった。
駿君にあわせるように、ゆっくりと呼吸をする。
まぶたが重くなってくる。


風鈴の音がした。
駿君の体温が、伝わって少し熱かった。





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