10/01/10 不明

昨日は彼の調子が悪そうだったので、心配だ。
メールで大丈夫かと聞いてみたけれど、大丈夫だと返事が来た。
大丈夫なんだろうか。
彼は笑ったり怒ったり泣いたりと、感情の起伏が激しい。
どこで何を感じるのか、僕には予測がつかないことばかりだ。
そこが面白いと思うのだが、こんな風に調子が悪そうな時何も分からないのは不便だ。
彼の感情がもっと分かればいいのに。

聡さんに彼の感想と、僕の感情はなんなのかを聞いてみた。
もう少し保留にしてくれと言われた。
俺の大事な美晴を託していいのか、もう少し見定めたいとのことだった。
僕にふさわしいかどうかは僕が決めることであって、聡さんが決めることではないのだが、本当にこの人は過保護だ。
聡さんは彼に対して少し冗談が過ぎるような気がするので、どうかもう少し穏やかに接してくれと頼んだ。

彼のことが好きなんだね、と聞かれた。
とても好きだと答えた。

10/01/11 精進

今日は思い切って運営しているニュースサイトのリニューアルをした。
聡さんに借りた元手も返せたし、トレードやサイト運営も順調だ。
溜まっていた本を読んで、部屋の掃除をして、エルデス・シュトラウスの予想に挑戦してみた。
多くの人をひきつける問題というのは、本当に魅力的だ。
充実した休暇を過ごすことが出来た。

まだ大学が休みのためか、父と母が家にいた。
何かと気を使って話しかけてくれる。
僕が小学校の頃に一人で病院になんか行ってしまったことが、彼らにはいまだに忘れられないらしい。
非常識なことをして、悪いことをしてしまった。
世間体などもあるし、あの時は大人にまず相談するべきだった。
けれどそろそろもう常識もある程度身についているし、高校生にもなって一人で出来ることも増えたのだから、心配しなくてもいいと思う。
もう家に変な評判が立つような真似はしないのだと、なかなか信じてもらえない。
もっと精進してもう二人に迷惑をかけることはないと分かってもらわなければいけない。

10/01/12 始業式

今日は始業式だった。
休みの間もペースを崩すような生活はしていなかったが、やはり久々に長時間拘束されるのは疲れるものだ。
早く元の生活リズムを取り戻せるように、体を整えていこう。

今日は瀬古とその友人たちに遊びに誘われた。
本当に瀬古は不可解だ。
僕を嫌いながらも、なぜ誘ってくるのだろう。
聞いてみたら、俺にもよくわからないが、なんかお前に興味が出てきた、と言われた。
僕も瀬古には興味があるから問題ないのだが、僕なんかに興味を持つなんて不思議な人間だ。

駅前のカラオケに移動する際に、彼に会った。
挨拶をしたのだけど、彼はなんだか暗い顔をしていた。
ここ最近、彼の笑顔を見ていない気がする。
心配だし、寂しく感じる。
僕は彼が笑顔でいるのが好きだ。

瀬古に、彼は誰だと聞かれた。
恋人だと答えた。
驚いて無言になって固まっていた。
やはり同性の恋人がいるというのは倦厭されるものなのだろうか。
瀬古なら別に言いふらすこともないだろうし、今更嫌われるでもないので話してみたが、反応に興味がある。

そうか、と言ってその後無言になってしまった。
余計に嫌われたかと思ったがそうでもないらしい。
呆然としている、という形容詞があっているかもしれない。

10/01/13 奇妙

瀬古が朝から話しかけてきた。
一日考えたが、なんか色々通りこして、楽しくなってきた。
何のことかと問うと、お前がのこと、と言われた。
僕が楽しい人間なのかと問うと、そうだと言われた。
楽しい人間だと言われたのは初めてだったので、少し嬉しい。
もしかしたら馬鹿にされてるのかもしれないが、つまらない人間よりは嘲りでも楽しい人間と言われる方がいいだろう。

男が好きなのかと聞かれた。
どうだろう、男や女で区別したことがないので分からない。
他に好きになった人はと聞かれて分かった。

僕はおそらく恋愛感情というものを今まで持ったことがない。
彼が恋人だというなら、彼に向ける感情が恋愛感情なのだろう。
ということは、これが僕の初恋だという答えが導きだされた。
そうか、これが恋か。

それを告げると、やっぱりお前は変だと言われた。
その後に、でもやっぱりなんか面白いと付け加えられた。
それならよかった。

今日も彼が家に来たのだが、勉強を教えたり、彼のために買ったゲームをしたりしていても、彼はどこか浮かない顔だった。
笑って楽しそうにしてはいるのだが、何かを僕に訴えかけるような目をしていた気がする。
気のせいかもしれないが。
彼が何を考えているのか、とても気になる。
でも、彼が何も言わないということは、言いたくないのだろうか。

なんでも本人に聞いてしまう僕だが、なぜか彼からは聞き出そうとは思わなかった。
面倒くさいと思われるのが嫌なのだろうか。
そうなのかもしれない。
これも、恋の影響なのか。

10/01/14  恋

そういえばずっと感じていた不可解な感触は、恋なのだろうか。
彼を見ていると落ち着かないざわざわとした気持ちを抱いたり、けれど穏やかな気分になったり、嬉しくなったり、不安になったりと忙しない感情の動き。
聡さんの保留している答えは、これだろうか。

瀬古に聞いてみた。
恋人を見ているとなんだか胸のあたりがざわざわとして落ち着かない、彼が笑っていると嬉しくなる、けれど彼が暗い顔をしている不安になる、彼が僕にどういう感情を向けているのか気になる。
僕はこれがもしかしたら恋なのではないかと思うのだが、これは恋なのだろうか。

瀬古は呆れた顔をしていた。
なんで恋人がいるのに、後から恋心に気づくのか、と聞かれた。
それは、好きになろうと決めてから恋人になったからだと答えた。
お前はものすごい馬鹿だと言われた。
この馬鹿、は勉強面のことではないだろう。
何かおかしかったのだろうか。
瀬古の言うことがよくわからなかったが、おそらくそれは恋なのではないかと言われた。
やはり、これが恋なのだろうか。

彼は今日も僕の家に来た。
やっぱり暗い顔をしている。
どうしたのか、とても気になり落ち着かない。
僕が席をはずしている間に、聡さんが何かを彼に言っていた。
彼はもっと暗い顔になっていて、それを見ているとなんだか僕まで苦しい気分になってくる。
聡さんが何かを言ったのかと聞いても、彼は何もなかったと言う。
本当なのだろうか。
聡さんを疑う訳ではないが、あの人は少し言葉が過ぎるところがある。
気にしないでほしいと告げたが、彼は浮かない顔のままだった。

心配だ。

10/01/15 変化

聡さんが、彼と話したいことがあると言ったので、バイト先を教えた。
あの店は珈琲も美味しいし、雰囲気もいい。
きっと聡さんも気に入るはずだ。
気に入ってくれるといいと思う。
そして二人が少しでも仲良くなってくれればいいのだが。

今日もクラスメイトに誘われ、出かけることになった。
前よりも誘われる頻度が増えた気がする。
森本に、深山って実は馬鹿だよな、と言われた。
昨日瀬古にも言われたことだ。
僕は馬鹿なのだろうかと聞いたら、頭の良さとは関係なく馬鹿だと言われた。
でも、思ったよりずっと楽しい奴だった、と言われた。

馬鹿にされているのだろうか。
嘲られているのだろうか。
けれど、あまり悪い気分ではない。

前よりもクラスメイトが親しみを持って接している気がする。
僕は前と全く何も変わっていないのだが、どういう変化なのだろう。
僕の利用価値は相変わらず勉強とお金。
それ以外に変わることはないし、その利用価値が更に上がった訳でもない。
クラスメイトの性格に変化があったのだろうか。
興味深い。

10/01/16 罪悪感

彼を泣かしてしまった。
とても傷ついた顔をしていた。
その顔を見た瞬間に思考が停止した。
どうして、彼が傷ついたのかが分からない。
でも、彼が傷ついた理由は、おそらく僕だ。

今日は聡さんが来ていて、後から彼も来る予定だった。
聡さんが、彼と出会った時のことや、彼を好きになった経緯などを聞いてきた。
今から思えば、最初は彼のことが好きではなかったのだと思う。
今のこの不可解な感情を恋と定義するのだとしたら、あの時点では彼にこんな想いを抱いてなかった。
一目見て好きになることを一目惚れ言うのなら、あれは一目惚れではなかった。
今のこの僕を駆り立てる感情は、あの時とは比べ物にならないほどの熱量と質量を持っている。
これが恋だというのなら、あの時点では僕は恋をしていなかった。

彼はドアの前で、僕たちの会話を聞いていた。
そしてとても傷ついた顔をしていた。
涙が、一つ零れて頬を伝った。
その表情に、胸が掻きむしられるような痛みを覚えた。
これは、罪悪感だろうか。
彼を、傷つけてしまった。

何も考えられずにいたら、彼は帰ってしまった。
彼はなぜ、あんなショックをうけていたのだろう。
聡さんに聞いたら、おかしな子だね、何が気に食わなかったんだろう。俺のことが好きじゃないからかなと言った。
それは違う気がした。
何か今の僕と聡さんの会話で、彼は傷ついたのだ。
聡さんは、あんなことで逃げ出して、美晴に物をたかって、ワガママを言う。美晴が付き合う価値もない子だよ、と言った。

それは違うと思った。
聡さんの言動対して、初めて不快感を覚えた。
僕の説明が足りなかったのがいけないのだが、聡さんは誤解している。

とりあえず物をあげたのは僕の意思で、彼は怒っていたことだけを告げていた。
聡さんは僕が友人に金銭を供給することをひどく嫌う。
その点だけは、正しておいた。

彼には、メールを送った。
何が君を傷つけたのだろう。すまない。悪かった。君に会いたい。
何通も送った。

返事は来なかった。




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