10/01/17 寝不足

彼からのメールをずっと待っていたが、返事は来なかった。
睡眠不足で、頭が痛い。
彼のあの表情が頭から離れない。
どうしたらいいのだろう。

聡さんには気にしなくていい、これまでも美晴は誰に嫌われても気にしなかっただろう、俺がいるから大丈夫、と言われた。
でも、彼はこれまでの人間とは違う。
彼は、僕を好きだと言ってくれた。
僕も、彼を好きだと思う。
今までの人間とは、違うのだ。
彼は、僕の恋人なのだから。
もう一度、彼に笑ってほしいと思う。
彼から何がいけなかったか理由を聞きたい。
傷つけたくない。

彼に会いたい。

10/01/18 失敗

数学の時間に、現国の教科書を出しておいたままだった。
問題を当てられて、答えることが出来なかった。
先生の言葉が耳に入ってこない。
何度も躓いて、二度ほど転んだ。
注意力が散漫になっている。
思考がうまくまとまらない。
彼の傷ついた顔が、頭から離れない。

聡さんに相談した方がいいだろうが。
けれど聡さんは彼によい感情を持っていないようだ。
どうしたらいいのだろうか。
分からない。

メールが返ってこない。

10/01/19 痛み

科学の実験の際に、薬液をこぼしてしまい先生に注意された。
周りの人間もどうしたのだと聞いてくる。
分からない。
自分がコントロールできないことなんて、初めてだ。

瀬古がどうしたのかと聞いてきた。
思わず相談してしまった。
聡さんと僕との会話、彼の傷ついた顔、いまだに連絡が取れないこと。
どうしたらいいか分からず、思考がまとまらないこと。

お前は馬鹿だとまた言われた。
最初は好きじゃなかったってことは、お前は彼に嘘をついたんだと言われた。
好意があるふりをされるのは、傷つく。
お前にどんな思いがあったにせよ、お前は彼に嘘をついたんだと言われた。

それはそうなのかもしれない。
僕は彼に好意があるふりをしたのだ。
好きになろうと決めて、実際に好きになったのだが、確かに最初は僕は嘘をついていた。
そんなつもりはなかったのだが彼が怒るのも、無理はない。
やはり瀬古は思考法が僕と違って、とてもためになる。

彼はメールにも電話にも出てくれないのだが、どうしたらいいのだろうかと聞いてみた。
何でも聞くなと怒られた。
けれど親切に、連絡がとれないなら会いにいけ大馬鹿野郎と言われた。
そうだ、僕は彼の家もバイト先も知っている。
なぜか直接会うことを避けていた気がする。
なぜだろう。

瀬古に感謝した。
お前は本当に大馬鹿野郎だと言われた。
その通りだと思う。

彼のバイトが終わるまで、喫茶店の前で待っていた。
彼はどんな顔をするだろうか、嫌がるだろうか、怒るだろうか、泣くだろうか。
ずっと考えていた。
不安でとても落ち着かなかった。
彼のことになると、僕はとても不安定になるらしい。
これもまた、初めてで不思議な気持ちだ。

彼は僕の顔を見て、逃げ出した。
その瞬間、全身を掻きむしりたくなるほど不快感に襲われた。
彼に対してのものではない。
おそらくこれは、自分自身に向けたものだと思う。
彼の怯えたような顔が、肩に重くのしかかる。

彼の友人が、困ったように僕を見ていた。
とりあえず、その友人に、彼を傷つけたこと、僕が悪かったこと、もう一度話したいことを伝えて欲しいとお願いした。
彼は戸惑っているようだった。

どうか彼が伝えてくれるといい。
もう一度追いかけるのは、嫌だと思った。

10/01/20 空虚

瀬古にどうなったかと聞かれた。
彼に逃げられたということを伝えた。
嫌い、死ねと言われるまで何度でも追いかけろ、と言われた。
やろうと思ったのだが、なぜか出来なかったと答えた。

怖がるな、責任を取れ、と言われた。
そう言われて、分かった。
彼と会うのを避けていた理由、今、足が動かない理由。

怖いのだ。
きっと、怖いのだと思う、彼に嫌われるのが。
これも、初めての気持ちだ。

少し時間がほしい、と言った。
俺は別にいいけれど、時間をおくほど逆効果だと言われた。
何かをしようと思うのに先延ばしにする。
こういうことも初めてだ。

思考の混乱。
思考の停滞。
行動の停止。

僕がやらないようにと心がけていたものばかりだ。
ふがいない自分に、怒りを感じる。

10/01/21  恐怖

何も手に付かない日々が続く。
そんな状況に苛立ちを感じる。
メールに返事は来ない。
足が動かない。

誰かに嫌われようと、なんと思われようと怖いと思ったことはなかった。
僕はつまらない人間だし、人から倦厭される要素を沢山持っている。
嫌われるのは当然だと思っていたし、問題なかったので事実を受け止めていた。

けれど、初めて誰かに嫌われるのを怖いと思った。
彼に嫌われるのが、怖いと思った。
もう、嫌われているかもしれないが、その事実を受け止めたくないと思った。
僕は彼に依存しているのだろうか。

家でも思考の混乱は続き、夕食時に皿を割ってしまった。
千秋と祖母にどうしたのかと心配された。
家族に心配をかける自分が情けなかった。
家族にはもう迷惑をかけたくないのに。

食事に来ていた聡さんが、美晴は何も気にすることないよって言った。
また聡さんの言動に少しだけ不快感を覚えた。
聡さんが変なことを言わなければ、彼も傷つくことはなかったのにと不当に思った。
これは八つ当たりだ。
僕が彼に嘘をついて、そして誤魔化し続けたのが全ての元凶だ。
僕は本当に人間が出来ていない。

千秋が、そういえばよく来ていたお友達が来ないね、聡叔父さんまた何かしたの、と言った。
聡さんは俺は何もしてないよと笑っていた。

そう、聡さんは何もしていない。
悪いのは僕だ。

10/01/22 瀬古

瀬古にどうでもいいから、早く追いかけろ、暗くて鬱陶しいと言われた。
僕は失敗は多くなっているが、態度はいつも通りのつもりだったが、どうやら沈み込んでいたらしい。
周りに迷惑をかけていたのなら、申し訳ない。

今日はもう一度バイト先に行ってみようと思った。
彼に嫌われたとしても、ちゃんと謝らなければいけない。

瀬古は、嫌っている僕にも親切ないい奴だ。
皆から慕われているのもよく分かる。
そう告げると、とても嫌そうな顔をされた。
お前は大馬鹿だ、史上稀に見る、大馬鹿野郎だと言われた。
確かにここ最近の僕の行動を顧みるにそう言われても仕方がない。
そうだな、と答えた。

瀬古はもっと嫌そうな顔をしていた。
不快にさせたなら申し訳ない。
そういえば瀬古にこれ以上嫌われたらと思っても、特になんとも思わない。
残念だと思うだけだ。
でも、彼に嫌われると思うと怖い。
なぜなのだろう。

瀬古には最初から嫌われていて、彼は僕を好きだと言ってくれたからだろうか。
分からない。
分からないことばかりだ。
世界は、分からないことで満ち溢れている。

喫茶店まできて、外から覗いてみた。
彼はいなかった。
休憩かとも思ったが、どうやら不在のようだった。

どうしたのだろう、心配だ。
メールをしてみたが、やはり返ってこない。

胸が、痛い。

10/01/23 惰性

何も手に付かず、家で惰性で過ごしてしまった。
本の内容も頭に入らない。
落ち着かない。
とりあえず部屋の片づけをしたが、色々落としたりして物を壊してしまった。

音がうるさかったのだろう。
千秋が部屋まで様子を覗きに来た。
大丈夫なのかと心配された。
迷惑をかけてすまないと謝った。

迷惑なんて思ってないけど、心配だと言われた。
家族に心配をかけるなんて、本当にふがいない。
せめて家ではしっかりとしていよう。
これ以上、誰にも迷惑をかけたくない。




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