10/01/24 気晴らし |
調子が悪そうだ、と千秋に言われた。 祖母と珍しくいた父親にも疲れてるのではないかと言われた。 家族に心配をかける自分が苛立たしくて仕方ない。 そして、大丈夫かと聞いてくる家族に少しだけ不快感を覚えた。 わずらわしいと、そう思ってしまった。 どうして、僕に興味なんてないのに気遣うふりをするのだろう。 完全に八つ当たりだ。 父も祖母も僕を心配してくれているのだ。 忙しいのに気遣ってくれる優しい人達だ。 礼をいって、寝不足なのだと伝えた。 僕が寝不足になるのは珍しいことではないので納得してくれたようだ。 食事が終わったら千秋が買物に行こうと言ってきた。 気分転換になると言ってくれた。 少しだけ面倒だったが、確かに気分転換になりそうだったので一緒に行くことにした。 お兄ちゃんは自分の中にため込みすぎるから、聡さんでも私でも誰でもいいから少しは吐き出してね、と言われた。 ため込んでいるつもりはないが、妹の気遣いは有り難く受け取ることにした。 いつのまにか、とても大きくなっていた。 自分の妹ながら人を気遣える人間になっていることが誇らしい。 | 10/01/25 平常心 |
とりあえず自分のペースを取り戻す努力をしようかと思った。 軽いランニングをして、筋トレをして、読書をする。 学校へ行って、決められたノルマをこなし、級友と交流する。 帰りには級友と遊びに行くか、図書館に行くか、聡さんのところに行くか、買物に行くか。 今日はとりあえず図書館に行くことにした。 いくらでもやることはある。 やりたいことはありすぎて困るほどだ。 でもやはり、彼がそこにいたら楽しいのに、と思ってしまう。 いつのまに、彼は僕の生活にここまで組み込まれていたのだろう。 | 10/01/26 返信 |
彼から返信が来た。 携帯がメールの受信を伝えるたびに反応していたから、すぐに気付いた。 携帯を操作する手が震えていた。 僕は、彼に恐怖している。 彼の存在に恐怖を覚えている。 誰かを怖いと思うなんて、初めてだ。 彼の存在は喜びにも恐怖にもなる。 返事は、明日会えるか、会いたい、ということだった。 すぐに承諾の返信をした。 彼は、何を話すのだろう。 それは僕にとって何をもたらすのだろうか。 出来れば許してほしいが、でも、彼がまた笑ってくれるならなんでもいい。 彼が納得できる結末であれば、いい。 | 10/01/27 落胆 |
彼に会えると思うと、不安と希望で心が揺れた。 瀬古になんか変な顔しているがどうしたのかと聞かれた。 彼と会うんだ、と言った。 まだ会ってなかったのかと驚かれた。 そういえばもう彼とは1週間以上会っていないのだ。 とても長い時間だった。 彼に会いたい。 瀬古が、せいぜいふられないように足掻けよと言った。 激励の言葉として受け止めて礼を言った。 嫌そうな顔をされて、うざいと言われた。 難しい人間だ。 放課後、彼の家に行こうとしたところで、メールが入った。 今日は無理だということだった。 これは彼の拒絶だろうか。 遠まわしにもうこれ以上僕とは会いたくないと言っているのだろうか。 胸のあたりがズキズキとして、息が苦しかった。 ただ、都合が悪くなったら教えてくれとだけ返した。 彼にもう会えないとしたら、僕はどうしたらいいのだろう。 僕はどうしたいのだろう。 | 10/01/28 望み |
僕はどうしたらいいのかだろうか。 これ以上彼につきまとったら迷惑かもしれない。 会いたくないというのが、彼の意思表示かもしれない。 人間の感情は本当に難しい。 答えは一つではなく、公式にはあてはめられない。 だからこそ面白いと思うが、難解すぎて頭が痛くなる。 聡さんに相談しようと思ったが、聡さんには諦めろと言われるだけだろう。 今までだったらそれを受け入れたかもしれない。 それが最良の道かもしれない。 けれど、今はそれを受け入れたくなかった。 現実を見ないようにしているだけかもしれない。 また瀬古に相談してみた。 考えてみれば、僕は瀬古に一番彼のことを相談しているかもしれない。 僕を嫌う人間に一番頼っているなんて不思議な話だ。 これは、彼の拒絶だろうか、と聞いてみた。 わからねーよ、俺そいつのことしらねーもん、と乱暴に言われた。 それはそうだ。 では一般論で構わない、瀬古はどう思うのかを聞いてみた。 女性だったら、ストーカー扱いかもしれないと言われた。 やはりそうなのだろうか。 でも、まだ嫌いとも会いたくないとも言われてないなら、もう一度だけはっきり聞けばいいと言われた。 言われたら諦めろと。 でも、迷惑ではないかと聞いたら、向こうの迷惑なんて気にするな、お前がどうしたいのかを考えろと言われた。 乱暴な意見だ。 だが、僕には答えが見いだせない今の状況なので、瀬古の意見に従うことにした。 少しだけ胸が軽くなった。 | 10/01/29 勇気 |
一人の人間のことをこんなに考えるのは初めてだった。 彼が怖いとも思うし、好きだとも思う。 不思議な感情だ。 これは恋なのだろうか。 物語などで読む恋という感情は、もっと穏やかな印象を受けていた。 こんなに追いつめられるような焦燥感を抱くものなのだろうか。 メールをしようと思ったら、彼からメールが先に来た。 驚いて携帯電話を取り落としそうになった。 日曜日に会いたいということだった。 一昨日のことは本当に用事だったのだろうか。 彼は僕に会いたくないと言う訳ではないのだろうか。 分からない。 彼のことは何一つとして予想がつかない。 つかなくて面白い。 つかなくて怖い。 これが恋なのかは分からない。 ただ一つ分かるのは、僕が彼に執着しているということだ。 こんな風に誰かに振り回されるのは初めてだ。 自分がコントロールできないことを不快と感じる。 少し、気持ちが悪い。 彼のことが、怖い。 | 10/01/30 保護 |
明日までの時間が長い。 休日がひどく長く感じる。 せめて学校があったら、暇をつぶすことぐらいは出来たのに。 いや、やることは沢山ある。 けれど、一つとして手に付かない。 彼と山に行ったのは一月近く前になるのか。 あの時は、ただ彼といることが楽しかった。 彼の思考に興味があって、彼の笑顔に心が浮き立つ気がした。 随分と昔のように感じる。 聡さんが遊びにきた。 もう彼とは手を切ったかと聞かれた。 切らない、もう一度一緒にいられるように努力している最中だと答えた。 俺は彼とは離れることをお勧めするよ、と言われた。 聡さんの言うことに今まで間違いはなかったから聞きたいけれど、これは僕が決めることだから申し訳ないが言うことは聞けないと言った。 聡さんは驚いた。 気分を害しただろうか。 聡さんは僕のことをいつも最優先に考えてくれている。 両親にそう頼まれているからだ。 その気遣いを有り難いと思う。 けれどそろそろ僕も、聡さんに頼ってばかりいるこの状況から抜け出さないといけない。 彼には、自分の思いと力で、向き合わなければいけない。 |