10/01/31 許容

彼が作った弁当を食べた。
彼が作ったお菓子を食べた。
彼に許しをもらった。
彼とまた一緒にいられることになった。
彼の側に、これからもいることができる。

胸の中の不可解な感情が、溢れそうだ。
熱くて、苦しい。
苦しい。

10/02/01 喫茶店

瀬古に彼と和解できたことを告げた。
つまらないと言われた。
この前の男だよな、真面目な奴なんだっけ、と聞かれたのでいかに彼は前向きで優しく真っ直ぐな人間であることを伝えた。
嫌そうな顔をされた。
お前、そいつにべた惚れなんだな、と言われた。

僕は彼に惚れているのだろうか。
これは恋愛感情なのだろうか。
いまだに分からない。
けれど、聡さんや千秋に向ける感情とは違う気がした。
肉親への愛情ではないのだろうか。
検討してみよう。

久しぶりに喫茶店に顔を出した。
マスターや常連客が久しぶりだといって歓迎してくれた。
彼は意外にオープンだから、僕たちのことは知られている。
仲違いしていたことも知られているようだ。
あんまり泣かさないでね、とそっとマスターに言われ、コーヒーをご馳走になった。

彼はこの店の人に愛されているようだ。
聞き上手で素直な彼は、本当ならもっと多くの人に愛されるのだと思う。
そんな彼が側にいてくれることが嬉しい。

泣かしたくない。
笑っていてほしい。

10/02/02 瀬古

テストが近いので、級友に誘われてファミレスで勉強会となった。
人に教えるのは勉強になるのでこちらとしても問題はない。
いい加減ノートは自分でとったほうがためになるとは思うのだが。

瀬古に、たかられたりノートを貸したりするのは嫌じゃないのかと聞かれた。
確かにファミレスに行くときに僕は少し大目に出したりする。
お小遣いももらっているし、自分でも少し収入があるので懐が痛む訳じゃない。
僕で役に立てるなら、それは嬉しいことだと思う。

瀬古が、僕のそういうところが大嫌いだと言った。
具体的にどのようなところか聞いてみた。
自己犠牲精神みたいなのが不快だ、と言った。
それが本音でも偽善であっても、どちらにしろ気に障る、と。
そういうつもりではなかったのだが、そういう風に見えるのだろうか。
やはり人の感情というのは難しい。

今日の支払いは瀬古がしきって完全に割り勘になった。
瀬古の言うことは皆大人しく聞く。
とても頼もしい人物であると思う。

10/02/03 節分

森本が僕と瀬古が仲がいいのかと聞いてきた。
僕は彼に嫌われていると伝えた。
変なの、と言われた。
よく考えれば学校で一番話しているのは瀬古だ。
僕も変だと思う。

放課後、彼が恵方巻きを食べたいと言い出した。
恵方巻きの存在をいつも話に出てくる横井さんという人から聞いたらしい。
にこにこと笑いながら、ちゃんと願い事言うんだぞ、と言われた。
特に神様といったものに祈ることはないのだが、せっかくなので彼がずっと笑っていられますように、と祈った。
彼がもくもくと黙って太巻きを食べている姿は微笑ましかった。
不謹慎にも少しだけその姿に、性的な興奮を覚えた。

思わず触れそうになったところで千秋がやってきた。
辞書を借りに来たらしい。
豆を見て私も食べたいと言い出したので一緒に食べた。
彼も聡さんとは違って、千秋に対しては好意的なようだった。
二人で親しげに話していて、嬉しいと思った。

助かった。

10/02/04  理解

彼と一緒に参考書を買いに行った。
彼は今までの勉強方があまりよくなかったらしく基礎が出来ていないので、基礎を固められる参考書を選んだ。
けれど努力家だし素直なので、教えれば飲み込みは早いから教えがいがある。

勉強したり、沢山の話をした。
彼の話にはよく横井さんと言う同級生の名前が出てくる。
とてもその子が好きなようだ。
満面の笑みで横井さんの話をする彼は、とても楽しそうだ。
また胸やけのような不可解な感情が生まれる。

帰ったら聡さんが来ていた。
彼とは別れてないのか、と聞かれた。
別れていない、と答えた。
俺は別れて欲しいな、と言われた。
聡さんの言うことに間違いはなかったし、僕のことを何より考えてくれているのは分かっている。
参考にはするし、気持ちは有り難くもらうが、僕のすることは僕が決めるのでそれは聞けない。
僕の選択を、信じて欲しい、といった内容のことを伝えた。

今まで僕に心を砕いてくれた恩人に対して失礼だったかもしれない。
でも、深いため息をついていたが、聡さんなら分かってくれると思う。
僕を誰よりも見ていてくれた人なのだから。

10/02/05 森本

今日も級友と一緒に勉強会をした。
ノートを貸せと言う人間が減った。
僕のノートは役に立たなくなったのだろうか。
皆が自分でノートをとっているのならそれに越したことはないが、少し寂しい気がする。
僕の利用価値がなくなれば、こういう風に誘われることはなくなるだろうか。
まだ、皆に勉強を教えるという役割があるので誘われるだろうか。
だが誘われなくなったら彼と一緒にいれる時間が増えるだろうか。
それはそれでいいかもしれない。

僕と瀬古と話していると、森本がやってきて瀬古は僕が嫌いなのかと聞いた。
僕が言うことではないが、随分ストレートな聞き方だ。
大嫌いと瀬古が答えていた。
感想を聞かれたので、残念だ、とだけ答えた。
最初から嫌われているのは分かっていたので特に驚きなどはない。

森本が、深山って馬鹿だよ、と瀬古に言っていた。
瀬古は嫌そうな顔をしていた。
最近よく馬鹿と言われる気がする。
僕は馬鹿なのだろうか。

10/02/06 休日

彼と一緒にランニングをした。
僕も定期的に運動はしているのでそれほど辛くはないが、陸上をやっていて現在も毎朝走っているという彼にはやはり敵わない。
背筋の伸びたフォームで風を切る彼の姿は、とても綺麗だ。
随分走ったが、彼はまだまだ走れそうだった。
僕ももっと精進しよう。

彼が中心になって、一緒に料理をした。
もう僕なんかよりもずっとうまくなっている。
手際良く材料を切り分ける姿は様になっている。
少し失敗してしまったようで、いつもはもっとうまく出来るんだと口をとがらせている様子は微笑ましかった。
失敗したと言っていたが、とてもおいしかった。
彼のお母さんも一緒に食べた。
初めてお会いしたが、目元が彼に似て清潔感のある人だった。
息子と仲良くしてね、と言われた。

彼と一緒に何かをするのはとても楽しい時間だと思う。
心が浮き立つような気がする。
彼と一緒いることが出来て、よかった。
彼が僕を許してくれてよかった。

不可解な感情は今にも溢れそうなほどだ。
もう少しで、これが何か分かる気がする。

今日はいい休日だった。




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