俺のこの手に力があれば、こんな気持ちを抱かなかった?
俺の心が弱くなければ、あなたに不快な思いをさせずにすんだ?
俺があの子だったなら、俺の想いは許された?



***




強くて、優しくて、頼もしくて、大らかで。
まるで太陽のようだった。
省吾兄さんは、俺の憧れで俺の理想で、俺の全て。

男のくせに家にいるのが好きな俺を引っ張り出して、色々な世界を見せてくれた。
意地っ張りで人に弱みを見せたくなくて、隠れて泣く俺の傍に、ただいてくれた。
姉の影に隠れる俺を、ただ一人認めてくれた。

大好きな大好きな兄さん。
ずっとずっと一緒にいられると、信じてた。
兄さんの右腕は緑のものだけれど、左腕は俺のものだと、そう信じていた。
兄さんは俺達のものだと、そう思っていた。
俺と緑も、ずっと一緒のものだと、そう思っていた。

けれど、成長するにつれ、俺は緑とは別のものとなる。
緑は柔らかな曲線を帯び始め、高い声と、甘い仕草を持ち始める。
俺は、骨が太くなり、声が低くなり、筋肉が付き始める。

緑が兄さんに抱きつく。
俺も続いて、その腕に抱きつこうとする。
すると俺より心の成長が早かった緑に振り払われた。

「男が男に抱きつくなんておかしいんだから!変なんだから!睦月は抱きついちゃだめ!」

緑が兄さんのほっぺたにキスをする。
俺達と兄さんの両親が微笑ましそうに笑う。
兄さんは照れたように、笑う。

「まあ、緑ちゃんみたいなかわいい女の子にキスされて。あんた幸せものね」

緑が兄さんのベッドにもぐりこむ。
俺はそれをただ眺める。

「男のくせに、いつまでも省吾に甘えないでよ!本当に鬱陶しいんだから!」

男の俺には、大きくなってしまった俺には、それは許されない。
緑に似て中途半端な女のような顔。
けれど、俺は間違いなく男で、兄さんに触れるのはおかしいこと。

緑が羨ましくて仕方がなかった。
それを許される緑が、妬ましかった。
当然のものとして見せ付ける緑が、大嫌いだった。

緑と少ししか違わないのに。
同じ顔。
同じ血。
同じ体格。

違う性格。
違う性別。
違う権利。

いっそ何もかも、もっと男らしかったらよかったのに。
そうしたら、こんな想い抱かなかったかもしれない。
しょうがないと諦められたのかもしれない。

中途半端な体。
中途半端な成長
中途半端な心。

別に女になりたいとは、思わなかった。
ただ、兄さんに触れて許される権利が欲しかった。

俺は、緑になりたかった。



***




中学生に上がった頃には、俺たちの違いははっきりとしてきていた。
緑は明るく華やかで、皆に愛された。
俺は、陰気でつまらなく、いつも一人だった。

いつでも皆の中心にいる緑。
そして、兄さんの隣にいる緑。

兄さんは俺にも笑ってくれる。
俺にも触れてくれる。
俺とも一緒にいてくれる。

けれど、それはいつまでだろう。

兄さんの腕をとる緑。
当然のように隣に立ち、手を背中にまわす。
二人の将来を夢見る両親達。

あぶれた、俺はどうすればいい。
俺はいつまで兄さんといられるのだろう。
いつかはあの大きな手を、放さなければいけない。
今でも、緑は俺が兄さんといるのをいい顔をしない。

俺は、兄さんと一緒にいてはいけない。
分かっている。
そんなこと分かっている。

俺は、緑じゃないのだから。
緑が羨ましくて妬ましくて。
俺は緑に、なりたかった。

その日、俺は家に一人だった。
緑は部活で遅くなり、両親は二人で出かけていた。

それは魔がさしたとしか言えない。
偶然、緑の部屋の扉が開いていて、隙間から見える床には、片付けの苦手な部屋の主が服を散らかしていた。
その中に、見慣れたベージュのワンピースがあった。
緑のお気に入りの服だ。
ふわふわに広がった裾は元気に動くたびに翻って、ひらひらと飛ぶ紋白蝶のようだった。
そんな緑を、兄さんもかわいいとすごく褒めていた。

その時の兄さんの優しく笑う顔が、脳裏に蘇る。
気付くと俺は緑の部屋に入っていた。
ベージュのワンピースをとり、自分の貧相な体に当てる。
明かりのついていない暗い部屋で、一人そのワンピースを抱きしめる。

そして、以前緑と歩いていた時に女性と間違われてもらったものを思い出す。
試供品の、ピンクの色のついたリップ。
必要なかったけれど、同じものをもらった緑もいらないと言ったから、なんとなく取っておいたはずだ。
ワンピースを持ったまま自室に急いで、引き出しの中から袋に入ったままのリップを見つけ出す。
化粧の仕方なんて分からない、ただ乱暴に唇にそれを塗りつける。
ワンピースをもう一度体にあて、クローゼットの扉についた鏡に体を向ける。

ふわふわと舞う、紋白蝶のような緑。
兄さんに愛される緑。

かわいい緑。
綺麗な緑。

けれど、そこにいたのは、やっぱり睦月。
白いふわふわのワンピースは緑より太い首を持つ俺には似合わなくて。
ピンクのリップは、短い髪の男の顔にはただただ滑稽なだけ。

どこまでも男の、睦月でしかない。
俺は、緑にはなれない。
分かっていたのに。
それでも絶望がもう一度心に染み渡っていく。

俺は、緑にはなれない。

ガタン、と音がした。
急いで音の方向へ振り返る。
頭が真っ白になった。

「何、してるの」
「み、どり…」
「何してるのよ!」

いつの間にか扉の向こうにいた緑は、驚きから徐々に怒りへと顔を赤くさせる。
俺の部屋に入り込んできて、俺の手からワンピースを取り上げた。
汚いものをみるような目つきで、嫌悪感をいっぱいにしている。

「緑のワンピースに触らないで!」
「あ……」
「汚い!気持ち悪い!何それ、化粧!?やだ、汚い汚い!緑のワンピースが汚れちゃう!」

ぎゅっと白いワンピースを抱きしめて、泣きそうな声を出す。
侮蔑の視線で、俺を罵る言葉をぶつける。
俺は何も言い返せない。
緑の言うことは、真実だったから。

「なんなの!変態!気持ち悪い!やだ、男のくせに!やだ、やだ!」
「ご、めん……、ごめん……」

視線を合わせられず、俺はただフローリングの床を見つめていた。
緑の言葉の一つ一つが、身に突き刺さる。

分かってる、俺は変だ。
気持ち悪い。
汚い。

ただ謝って、緑の怒りを受けていたが、次の言葉に恐怖が身を支配する。

「省吾に言ってやる!あんたが変態だって、省吾に言いつけてやる!」
「…………あ」

省吾兄さんに、知られる。
俺が汚いって、俺が変だって、俺が気持ち悪いって。

俺のことを軽蔑の目で見る兄さん。
俺のことを罵る兄さん。
俺を、見捨てる兄さん。

全身の毛が逆立つような気がした。
そんなのは、考えるだけでも耐えられない。

「やめろ!やめろよ!兄さんにだけは言わないでくれ!」
「いやよ!省吾にあんたみたいのを構わないように言わなきゃ!ああ、やだ!」
「やめて!お願いやめて!お願いだから、お願いだ緑!それだけは、兄さんにだけは…」

俺はその場に崩れ落ちて、緑の足元にひざまづく。
頭をふせて、すがりつくように服に手をかける。

「触らないで!」

緑に顔を蹴りつけられ、俺は床に倒れこむ。
土下座のようになりながらも、俺は必死で許しを請う。
みっともなくて、みすぼらしくて、汚い、俺。

「何でもする、何でもするから、お願いだから、緑…、兄さんにだけは、言わないで…」
「…………」
「頼む…お願いだから…」

自分でも分かるくらい、いやらしいほど弱弱しい声。
顔を伏せているから、緑の顔は見えない。
その沈黙が、何よりも怖かった。
直情的で短気な緑。
怒りのまま、兄さんの下に駆け込むこともたやすく想像できた。
どんなに惨めだろうと、兄さんにだけは、知られたくない。
俺は何度も何度も緑にすがりつく。

どれくらいたっただろう。
緑の声が、上から聞こえる。

「……分かった。言わないでおいてあげる」
「…え」
「だから、もう省吾に近づかないで」

思わず顔を見上げると、やはり緑は冷たく俺を見下ろしていた。
一瞬、言われたことを認識できない。

緑は、今、何を言った。
省吾に、近づかないで。
それは、今ほんのわずか持っている、兄さんとの時間を手放すということ。

「そ、れは…」
「約束しないなら、省吾に言う」
「それは駄目だ!」

それだけは駄目だ。
そんなことされたら、俺は兄さんを完全に失う。
ただ少しだけ持ってる、兄さんとのつながりをなくしてしまう。
綺麗だった、楽しかった過去まで、失ってしまう。

「じゃあ、省吾に近づかないで」

見上げる緑はやっぱり綺麗で、俺なんかとは全然違った。
同じ顔。
同じ血。
同じ体格。
それなのに、汚い俺と違って、緑はどこまでも真っ直ぐで綺麗。

どちらにせよ、兄さんは緑のもので、俺は兄さんとはいられない。
今はなれるか、いずれはなれるかの、それだけの違い。
なら、ずっと軽蔑の目で見られるなんて耐えられない。
汚い俺を知られるのは、耐えられない。
せめて綺麗な過去を覚えていて欲しい。

だったら。

「……分かった、約束する」
「省吾に近づかない?」
「……兄さんには、もう近づかない…」

緑は疑うように俺の顔を覗き込む。
俺はもう一度その目を真っ直ぐに見て、繰り返す。

「兄さんには、近づかない」
「電話しないで、家にも行かないで、うちにきても、二人きりにはならないで」
「……分かった」

そうするとようやく緑はしぶしぶ納得したのか、鼻を鳴らした。
忌々しく俺をにらみつけると、もう一度蹴り上げられる。
しっかりと自分のワンピースを抱えると、座り込む俺をもう振り返らずに部屋から出て行く。

一人取り残された俺はぼんやりと顔をあげる。
鏡に、座り込んだみすぼらしく貧相な姿が映る。
倒れた時にでもすれたリップが唇からはみ出ていた。
髪はぼさぼさで、蹴られた頬は赤くて、惨めで醜くて、汚かった。



***




それから俺は兄さんに近づかないように努めた。
元々俺のことが嫌いな緑は、一層俺を嫌悪するようになった。
俺は兄さんと緑の両方を失った。
両親も明るい姉と違って、大人しく話さない俺を持て余している。
俺はどこにも居場所がなくなったかのような空虚感に絶えず襲われる。

兄さんの顔が見たかった。
笑いかけて欲しかった。
頭を撫でてほしかった。

そんな自分が汚くて、醜くて大嫌いだった。
ようやく、自分の兄さんに向けていた気持ちが理解出来てきていた。
幼い憧れや尊敬だけじゃない。
俺が兄さんに向けていたのは、もっともっと薄汚い想い。
俺なんかが持ってはいけない、想い。
緑が俺を嫌ったのも、よく分かる。
兄さんから遠ざけようとしたのも、無理もない。

緑は、正しい。
緑はいつも綺麗で正しくて、間違えない。

俺は、ただ汚い。



***




久しぶりに兄さんに、あった。
変わらず笑いかけてくれた。
家に来いと言ってくれた。

変わらないその態度で、緑が約束を守ってくれていると分かった。
一度した約束は守る緑だから信じてはいたけど、やっぱり不安だった。
でも、兄さんの笑顔を見て、俺は緑に心から感謝した。

だから緑が兄さんの前で俺を邪険に扱おうと、全然構わなかった。
緑が約束を守るなら、俺も約束を守るのは当然だったから。
胸はいつまでも痛んで、苦しくて悲しくて寂しかったけれど、でもいつか緑と兄さんを笑って祝福できるようになるから。

だから、兄さんが俺と一緒にいてくれなくても、いい。
ただ、優しい過去を覚えていてくれれば、それでいい。

それなのに。
そう決意したのに。

「俺は、睦月が傍にいることが迷惑だなんて思っていない」
「…………」
「睦月もお前もかわいいと思っている。二人とも大事だ。だからそんなこと言わないでくれ」

兄さんは、緑に向かって諭すようにそんなことを言う。
胸に熱いものが溢れてきた。
今にも泣いてしまいそうだった。

たとえそれが昔から世話をしていた手間のかかる従弟に向けるものだったとしても、十分だった。
こんな汚い俺なのに、綺麗な緑とは全く違うのに、それなのに、緑と同じぐらい大事だと言ってくれるのか。
嬉しくて、嬉しくて、苦しかった。
それなら、大丈夫、俺は耐えられる。

あなたを諦めて、みせる。

「そんなこと言うのは、省吾が知らないからよ。省吾だって、知ったら睦月なんて大嫌いになるわ」
「何が…」
「あのね、省吾、睦月はね…」
「やめてくれ!やめて、緑!やめてくれ!」

分かってる、兄さんは俺の汚さなんて知らない。
俺が兄さんに向ける薄汚い想いを知らない。
だから、大事だといってくれる。
そんな俺と一緒にされた緑の怒りと苛立ちもよくわかる。

でも、俺は約束を守るから。
今の言葉だけを宝物に、俺はもう何もいらないから。

「あんたが約束を破るからいけないのよ」
「おい、緑!」
「いいから!兄さん、いいから、俺のことは放っておいてくれ…頼むから…」
「……睦月」

だから、これ以上俺に優しくしないで。



***




緑との争いを見せてしまった夜、俺は部屋に篭もった。
緑の怒りは収まらなかったし、俺も今日は兄さんの顔を見てられなかった。
両親には具合が悪いといって、食事もとらなかった。

布団に入り込んで、体を丸める。
ただ兄さんの言葉を何回も反芻する。

約束は守る、緑。
もう、これ以上兄さんに近づかないから。
ただ、あの言葉だけは、大事にさせてくれ。

知らず、涙が出てきてみっともなく情けなく泣いてしまう。
声を押し殺すために布団に顔を埋める。
どこまでも惨めで、情けない俺。
うじうじして、暗くて、鬱陶しくて、本当に緑の言うとおりだ。
なんで、緑と双子に生まれてしまったのだろう。
緑だけで、よかったのに。
緑だけなら、よかったのに。

止まらなくて泣き続けていると、ドアの向こうから誰よりも大好きな人の声が聞こえた。
声がみっともなく震えるから、答えられないでいると、もう一度声をかけられた。
仕方なく、入ってこないようにだけ告げる。

けれど、ノブがまわる音がした。
鍵を、かけていなかった。
ああ、そうだ、兄さんは俺が泣いているといつもこうやって無理矢理にでも慰めにきてくれた。
俺はそれにいつまでも甘えていた。
兄さんが追いかけてきてくれるのを、待っていた。
鍵をかけていなかったのは、忘れていたからなのか。
兄さんを待っていたんじゃないのか。
緑をおいて、俺に会いに来てくれるのを、期待していたんじゃないのか。

汚い汚い汚い。
吐き気がする。

足音が徐々に近づいてくる。
嬉しさよりも、恐怖に襲われる。
汚い俺に気付かれてしまう。

「睦月?」
「……触るな」

触らないでくれ、触ったら、気付かれてしまう。
俺の汚さが、兄さんに移ってしまう。

「なあに、生意気なこと言ってやがる、このガキンチョは」

けれど兄さんは昔から変わらず冗談めかして、俺の布団を引き剥がす。
泣いていた俺はみっともない顔をしているだろう。
醜く、情けない顔をしているはずだ。

けれど優しい兄さんは、心配そうな顔で俺の頬を撫でる。
変わらない頼もしい大きな手が、温かくて、更に涙がこぼれる。

「どうしたんだ?お前ら、ケンカでもしてるのか?」
「違う…そんなじゃない。ただ、俺が、俺が悪いんだ。俺が変なだけで、緑は何も悪くない」
「………何があったんだ、睦月」

言えない。
言える筈がない。
兄さんは俺たちを大事にしていてくれた。
だから、俺たちの不和を気にするのは分かる。
けれど、もうどうにもできない。
もう、元には戻らない。

俺は兄さんに近づけないし、緑は俺を嫌悪し続けるだろう。

「睦月」
「兄さんには関係ない!放っておけよ!俺はガキじゃない!兄さんにずっと守られてなきゃいけないわけじゃない!」

だから、俺はそう叫んだ。
もう、俺を見捨てて欲しい。
本当に生意気なガキだと、呆れてほしい。

俺の汚さが、兄さんに気付かれる前に。
この薄汚くていやらしい想いが、零れ落ちる前に。
優しい思い出だけを、覚えていて。

「そうか…分かった」

そう思うのに、冷たい声で俺から離れていくのを感じて、声が漏れた。
心が引き裂かれそうなほど、痛い。
行かないでと、叫びそうになる。
どうして、俺はこんなにも弱くてみっともない。
布団を噛み締め、声を必死に押さえる。
それでもそれは、兄さんの耳に届いてしまったようで、優しい人はもう一度ベッドに座りなおす。
そして、俺をその大きな手で起こすと抱きしめた。

頼もしい、力強い腕。
昔からずっと手を引いて、どこにでも連れて行ってくれた。
怖いものから、守ってくれた。
優しく、頭を撫でてくれた。
懐かしい、腕。
兄さんの匂い。

もう涙は、止まらない。
好きだ。
好きだ。
この人が、好きなんだ。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
汚くて卑怯な俺は、緑との約束を破っている。
あなたの優しさを、本当は受ける権利のないそれを享受している。

「こら、お前はまたすぐ泣く。男だろ」
「くっ、う、ごめんっ、兄さん。ごめん、なさい」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
俺なんかが触ってごめんなさい。

兄さんの腕。
兄さんが抱きしめてくれた。
緑のための手で、俺を抱きしめてくれている。

あの言葉以上いらないと思ったのに。
ああ、本当に、なんて汚い。

汚い俺に触れてはいけないと思うのに。
叫びだしたくなるほど、嬉しい。

だから、俺は兄さんの首に腕を回す。
確かめるように抱きついた。
懐かしい匂い。
頼もしい腕。
この最後の抱擁を覚えていよう。
ずっとずっと、覚えていよう。
兄さんが羽織っていたシャツが脱げるぐらい、俺は強く抱きしめる。

嬉しかった。
大好きだった。
あなたがとても、好きだった。

あなたとずっと、一緒にいたかった。

でも、それは、許されないから。
この手を、ようやく、放す。

「兄さん、ありがとう。今まで、ありがとう」

恩知らずな俺だけど、これが唯一の恩返し。
ごめんなさい。
ようやく、あなたを諦める。

「俺にはもう構わなくていいから」

俺の手には、脱げてしまった兄さんが羽織っていたシャツ。
ただ、それを握り締めた。






BACK   TOP   NEXT