どうしたら私はあなたにこの感謝の気持ちを伝えることができるのかな。 どうしたらあなたは楽になれるのかな。 どうしたらあなたは一緒にいてくれるのかな。 どうしたらあなたは笑ってくれるのかな。 咳き込むと、背中と肺が何か突き刺さっているんじゃないかというぐらい痛む。 喉がひりついて、息ができない。 立っていることは辛いのに、寝ていることすらできない。 疲れていて眠りたいのに、襲ってくる咳の衝動はそれを許してくれない。 ただ座ってうずくまり、この嵐が過ぎ去るのを待つだけ。 「千津さん千津さん、大丈夫。大丈夫ですからね」 「ゼッ、ゲホ、ゲホゲホ」 優しく背を撫でて、私を抱え込むお母さん。 私はお母さんのかける言葉にも、満足に答えることができない。 苦しい。 もう、こんな体なくなっちゃえばいいのに。 なんで私だけ、こんな体なんだろう。 ちょっと動いただけで、すぐに壊れてしまうポンコツな体。 満足に走ることなんてできない。 皆に置いていかれる。 何もできない。 私は何もできない。 「大丈夫よ、千津さん、大丈夫。お母さんが守ってあげる。お母さんがずっとついてるからね」 「はあっ、は、はあ」 「大丈夫よ、千津さん、大丈夫よ。千津さんは何も心配しないで」 温かくてふっくらした手が気持ちいい。 お母さんの手は、いつも優しく私を守ろうとする。 それに身をゆだねるのはとても安心して、苦しさも和らぐ気がする。 「千津さんは、何もしなくて、いいんだから」 けれど、お母さんのこの言葉はいやだ。 この言葉を聞くたびに、お母さんに守られるたびに、私は自分が壊れていることを思い知らされる。 私は決して1人で生きていけないのだ。 私は、何もしなくていい。 私は、何かをしてはいけない。 私は何もできない。 私はポンコツだ。 「お姉ちゃんは?」 「お姉ちゃんは勉強があるからお祖父様のところよ」 「…そっか」 「この前の試験でも、1番だったのよ」 いいな、お姉ちゃんはいいな。 元気な体を持って、自由に動けて、学校へ行けて。 お祖父ちゃんからも、お父さんからも、お母さんからも信頼されて。 「芙美さんは、勉強を頑張ってもらわないとね。千津さんは体が弱くて何もできないんだから」 そうだ、私は何もできない。 一度発作が起きれば、ただ周りの人に助けてもらうことしかできない。 お母さんの力を借りないと、ご飯を食べるどころか息をすることすら覚束ない。 1人で立てない、1人で寝れない、1人で生きれない。 それでも、うずうずとどこかからか、叫ぶ私の声が聞こえる。 私だってできる。 1人だってできる。 1人でだって立てる。 「…私も、そろそろ学校行きたいな」 「とんでもないわ!この前も学校へ行って熱を出したばかりでしょう!」 いつも穏やかなお母さんがヒステリックに叫ぶ。 私が倒れるたびに、いつもいつも心配をかけている。 そんなお母さんが私の言葉にこんな反応をするのは、当たり前のことだ。 「いいのよ、千津さんは何もしなくていいの。難しいことは考えなくていいのよ。お父さんもそういってたでしょ」 「…うん」 柔らかくていい匂いのする腕に包まれると、これ以上何かを言う気がなくなっていく。 私の中で燻っている熱い何かが、急に冷めて消えていく。 ただ、この温かい手にすべてを委ねてしまえと、訴える。 そう、そうしていれば生きていけるんだから。 「今度いい家庭教師の先生つけてもらいましょうね。家でも勉強できるように。千津さんの欲しがってた本も今度来るときにお父さんが買ってきてくださるそうよ」 「…うん」 何も考えない。 すべて与えられる。 私は何もしなくていい。 そうすれば私は生きていける。 でも、それって、生きてるってことなのかな。 私は、生きているのかな。 |