「ねえねえ、近藤君!」
「なに?」
「私にはどれが似合うかしら!」

暇を持て余し、ブラブラと近藤と鈴木は街を彷徨っていた。
金もないのに雑貨屋に入り、ただ中身を物色していく。
そんな中、ナイトウェアコーナーで鈴木がとったのは色取り取りのネグリジェだった。
一瞬目を細めて言葉をなくした近藤だが、心底どうでもよさそうに一番手前を指差した。

「ピンクのがいいんじゃないか」
「あらそう、じゃあこれにしようかしら、うふふ初夜は楽しみにしててねダーリン」
「誰だか知らないがダーリンが喜ぶといいな」

あくまで冷たく切り返す近藤に鈴木は口を尖らせた。
わざわざ口で効果音を出してブーイングをしてみせる。

「ち、つまんねえ男だな、橋本とか菊池辺りなら乗ってくれるぞ」
「悪いな、俺はつまらない男だ」
「でも、あなたのそんなところがす・き」
「ありがとう」
「だからヤろ?」
「やらない」

ドサクサに紛れて近頃繰り返しているお誘いを混ぜる鈴木。
しかし最初は少しは焦っていた近藤も、今ではさらりと簡単に返す。

「くっそー、本当にお前堅いよなあ」
「身持ちが堅い柔らかいの問題じゃないだろ。残念ながら男相手に欲情する趣味はない」
「いやいや、これが結構イケるんだって!若いんだし、目をつむって大人しくしてれば気持ちよくなってすぐ済むすぐ済む」
「お前、それで楽しいのか」
「…そう言われれば楽しくないかも」

近藤の言葉に、上を向いた少し考え込む鈴木。
優等生然とした眼鏡とあいまって、考え込む鈴木は賢そうに見える。
しかし考えているのはどこまでも低俗かつ重大なことだった。
近藤は目覚まし時計を手にとって、小さくため息をつく。

「何も俺じゃなくても、お前だったら相手になってくれそうな奴いるんじゃないのか?」
「でもほら、俺いい男じゃん、本気になられたら困っちゃうしー」
「お前ならそれでも楽しめるんじゃないのか?」

更にどうでもよさそうに相手をする近藤に、鈴木は一瞬口を閉じる。
そしてその後、ぽんと手をうった。

「そっか」
「うん?」
「そうだよな、それもまた楽しそうだね。ドキ!男だらけの泥沼合戦、刃傷沙汰もあるよ、みたいな」
「だろ」
「そっかー、そしたらあの辺とかお願いしたらいいかなー」

なにやら本気で考え始めた鈴木を尻目に、近藤は再度ため息をついた。
そのまま鈴木を見ずに、シャワーラジオを物色しはじめる。

「病気持ちとか、やばい趣味の奴はやめとけよ。安全な奴な」
「あら、心配、心配?」
「お前なら悪ふざけで虐げられる女の気持ちになってみたい!とか言い出しそうだからな」
「それは心配ね!そして心配するってことは情があるってこと!情イコール愛!近藤君俺のこと愛しちゃってるのよ!」

最後の言葉とともに目の前の男に後ろから抱きつき、勢いで近藤は商品棚に頭をぶつけそうになる。
周りの客が何事かとじろじろ見ていくが、鈴木は気にすることもなく更に力をこめる。
むしろ気付いているからこそ、より熱烈な抱擁をささげた。

「俺も近藤君を愛してるわ!だからヤロ!」
「やらない」
「えー、やっぱり俺、処女は近藤に捧げたいわ。守り通した男の操、どうぞ受け取ってーん」
「ごめん、俺には受け止める自信がない」
「私に恥をかかす気!据え膳食わぬは男の恥よ!」
「武士は喰わねど高楊枝だ」
「いいじゃない、一回くらい」

近藤も特に周りの目を気にすることも無く、淡々とすげなく返す。
ぎゅうぎゅうと抱きつく鈴木を振り払うでもなく、疲れ果てた声で問う。

「…なんでそんな俺ばっかりに言うんだ」
「そりゃー」

そして鈴木はにっこり笑う。

「近藤君のえっちが一番興味があるからでしょ」

近藤は深く深くため息をついた。





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