登校日は午前中まで。 終わると同時に速攻で、橋本は菊池に家に引きずり込まれた。 腹が減ったとか、シャワー浴びたいとかそう言った言葉は綺麗に無視され、無言で部屋に引っ張られる。 そのままベッドに押し倒されそうになって、橋本は必死にその場にふんばった。 「あのね、だからね、菊池君」 「ヤろう」 「だから落ち着けつってんだろ、この馬鹿!」 とうとう我慢できなくなり橋本は、顔を近づけてくる菊池の頭に手加減なしにヘッドバッドを喰らわせた。 そして体を離すと、人差し指をたてて命令した。 「あーもう、待て!ハウス!」 「なんで」 菊池はおでこを押さえながら不満そうににらみ返す。 「なんでじゃねえよ、なんで俺が悪いみたいなんだよ!落ちつけよ!腹減った!シャワー浴びたい!」 「いいよ」 「よくねーよ!」 「どうして」 「馬鹿だろ、お前、絶対馬鹿だろ。いいか、ヤるのはいい。ヤるのはいいんだ。いいな。ただ俺が望むことは2つだけだ。メシをくいたい。シャワーを浴びたい。それから落ち着いてヤろう」 未だ不満そうに眉を顰める菊池に、橋本は何も言わせない勢いでまくしたてる。 そのまま二人は無言のまま睨みあう。 一歩も譲らない戦い。 けれど、先に目をそらしたのは菊池だった。 「ち」 「ちじゃねえよ、舌うちしてんじゃねーよ!ていうか何回やってんだよ、このやりとり!」 「お前がいい加減ジタバタしなけりゃいいんだろ」 「だからなんで俺が悪いんだよ!おかしいだろ!?そうじゃねーよ!問題はそこじゃねーだろ!考えなきゃいけないのはそこじゃないだろ!?よく考えろ!お前のがっつきぶりだろ!?問題は!?」 あんまりな言葉に、橋本が喰いつく。 わめく声に不快そうに菊池が眉を顰める。 「うるさい、叫ぶな」 「だからなんで俺が悪いんだよ!」 ようやく落ち着いてきたのか、菊池は頭を乱暴に掻く。 そしてようやく、橋本から背を向けた。 開きっぱなしのドアから部屋を出て、後ろ向きで手招きする。 「とりあえず、メシ作ってやるよ。あと風呂の用意する」 「よし」 まだまだ言い足りなそうだったが、橋本はその言葉に大人しく頷いた。 そうしないと先に進まなそうだったから。 性欲の前に、まず食欲。 橋本ははずむ足取りで菊池の後を追った。 そしてものの15分ほどで、菊池は手早く野菜のコンソメスープとペペロンチーニを作りあげた。 野菜のスープは細切れの人参と玉ねぎの触感がおいしい。 ペペロンチーニはにんにく多めで、唐辛子の辛みと塩加減がほどよく、パスタも見事なアルデンテ。 何度かご相伴にあずかったことがある菊池の手料理に、料理はインスタントラーメンぐらいしか作れない橋本は感歎の声を上げる。 「お前料理うまいよな」 「そうか?簡単なものしかできねーけど」 「ううん、うまい」 「そっか」 嬉しそうに菊池が目を細める。 その笑顔に、なんだかさっき押し倒された時よりも、心臓がせわしなく動く。 なんだか落ち着かなくなって、目をそらしてパスタを食べることに専念する。 「にしても、これニンニク多くね?」 「ああ、増量した」 「なんで?まあ、うまいからいいけど」 「スタミナつくから」 「……………」 綺麗なフォークの使い方で、菊池はパスタを絡めて食べる。 橋本はそんな菊池の姿をじっと見つめる。 しばらくして、大きく溜息をついた。 「もう、いいです」 「うん」 そして二人は無言で大量のパスタを片づけはじめた。 昼食をたいらげ、交代でシャワーを浴びた。 バスローブのまま、橋本はベッドに腰かけて菊池が来るのをまっていた。 部屋に入ってきた菊池へ歯を見せて笑う。 「よし、腹もいっぱいだし、綺麗にもした。準備万端、さあ、来い菊池!」 「萎えるからやめろ、それ」 「気合十分、受けて立つ!」 ビシっと指をさす橋本。 食事前とは打って変わってやる気十分さに、今度は菊池が大きくため息をつく。 今にも準備体操でもはじめそうな橋本に、けれど何も言わずにまだ濡れている髪をかきあげた。 そして、ベッドに腰かけて、当然のようにキスをした。 ちゅっと音を立てて離れると、菊池は少し笑う。 「なんだよ」 「ミントの味がする」 「俺は歯ブラシ常備だからな!」 その懐かしいやり取りに、菊池がくすくすと笑う。 橋本も、つられて笑い始める。 「放課後にコクられて、そのままキスに突入して、にんにく臭がしたら、まずいから?」 「そ、当然。キスミントもいつでも持ってる!」 「夢見てんなよ、ドーテー」 「いってろ」 そして、橋本から、もう一度キスをする。 軽く開いた口から、舌を忍ばせ、熱く濡れた菊池の舌をくすぐる。 菊池が喉で笑って、より深く絡め取る。 交わす吐息は、爽やかなミントの味だった。 |