激しい運動に疲れ果て、少し眠ってしまったようだ。 ピピピ、と腕時計のアラームがなって、橋本がうっすと目をあける。 真夏の明るい日差しで白く反射していた菊池の部屋は、すでに夕日で赤く染まっている。 時間を確かめると、そう時間は経っていないようだ。 寝ぼけた頭を軽くふって隣を見ると、菊池はまだ気持ち良さそうに眠っている。 色素の薄い髪の色、自分より白い肌、女にモテそうな甘い顔立ち。 涎をたらして、くーくーと寝息を立てている。 思わず苦笑してしまう。 満足しきった子供のような寝顔。 「エロガキだけどな」 ピン、と軽く頬を指で跳ねると、むずがるように開いていた口が閉じた。 笑って、体を起こす。 そろそろ着替えないと、菊池の親が帰ってくる。 いや、着替えるよりなにより、このべたべたのシーツとかをなんとか片付けないといけない。 乾燥機にかけても間に合うかどうか、な時間だ。 「っつうう!」 体を起こした途端、関節の節々が軋む。 そして散々突っ込まれて出したり入れたりされた部分に、鈍痛が走った。 未だに何かが入っているかのような、違和感を感じる。 「くっそ」 しばらく歩くのも辛そうな痛みに、健やかに眠る菊池が腹立たしくなってくる。 腹立ちまぎれに橋本は、菊池の頭を手加減なしに殴った。 「った!?」 菊池は痛みというより驚いて、がばっと体を起こした。 しばらくキョロキョロと辺りを見回して、何が起こったのか把握しようとする。 「な、なに!?」 「何じゃねーよ!いてーよ、ズコバコ手加減なしにやりやがってこの野郎!」 「あれ、橋本?」 「寝ぼけてんじゃねー……て」 そこで、橋本は言葉を失った。 「……え、な、菊池」 橋本を見つけた途端、菊池がとろけるような笑顔を見せたからだ。 映画なんかで見せる、主人公が心底愛しい恋人を見るような。 そんな、嬉しそうな優しい笑顔。 「う、だ、ば」 「おはよ、橋本」 驚きとか焦りとか色々な感情で何も言えなくなった橋本に、構わず菊池は首にしがみつくように抱きついてくる。 それはまるで子供が甘えるような仕草。 「お、おい」 予想外の出来事に、橋本が顔を真っ赤にして固まる。 菊池は猫のように気持ち良さそうに頬を擦り寄せる。 「………」 「まだねむいー」 聞いたこともないような寝ぼけ声に、橋本の背筋にぞわぞわと寒気が走り鳥肌が立った。 気持ち悪いと言うか、座りどころが悪いと言うか、恥ずかしいと言うか。 焦って菊池を手で押し返そうとする。 「離れろ!おい離れろ!」 「やだ」 「ふにゃふにゃすんな!きもい!」 それでも菊池はしがみついて離れない。 あんなことやこんなこともして、もう知らないところなんてないと思っていた男だが、まるで初めて会った人間のような気分がしてくる。 甘える男は、しがみつきながらもその手は橋本の背や、腰や、そのもっと下まで撫でまわす。 「ちょ、触るな!お前、散々ヤって、まだ足りないのか!初心者相手に3発とか鬼か、お前!」 「だって気持ちよかったんだもん」 「だもんじゃない!だからキモい!」 「超気持ちよかったー。お前も気持ちよかっただろ?」 橋本がイって、直後に、菊池が橋本の中で果てた。 ブツが抜かれた後、甘いピロートークでもしてだらだらするのかと思った橋本の予想に反して、即座に二回戦は始まった。 初めての重労働の後の再戦に、橋本は息も絶え絶え。 やめろといっても、動物のようにサカリのついた男子高校生は止まることはなかった。 まだ熱のくすぶる体は、あっと言う間に火がついて、最後には自分で体をゆすっていた。 その上。 「それに三回目ねだったのお前じゃん」 「うっぎゃー!!!!」 「やめて、許して、とか最後には泣き入ってて超萌えた」 「やめてくださいー!!!!」 確かに3回目は、自分から菊池の首に手を巻きつけて、もっとと強請った気がする。 そして最後にはもう頭が真っ白になって、散々恥ずかしいことを言った気がする。 違う。 あれは違う。 あれは俺じゃない。 「黙れ、このヤリチ○が!」 行き場のない怒りを、とりあえず目の前の男に押し付けることにして、いまだひっついている菊池を橋本は力いっぱいはがした。 菊池はそれでもめげずに再度橋本に抱きついてくる。 頬を擦り寄せ、その手は怪しげに動く。 「もう、できねーぞ、俺は!」 「やんねーよ。俺だって腰壊れる。もう最後とかお前超かわいくて……」 「だからやめろー!!!!!」 悶える橋本に菊池は一回顔を離すと、真面目な顔で様子をうかがってくる。 急にテンションが下がって、橋本は面喰って言葉を失う。 「大丈夫?体辛いだろ?」 「………う」 それは茶化す様子もなく、真摯な響きを含んでいる。 だから、橋本も赤くなって黙り込み、俯いた。 シーツを握りしめ、皺になった白い布をただ見ている。 二人とも未だマッパのまま。 「後片付け俺がするから、お前シャワー浴びろよ。無理なら体だけ拭いて寝てろ。シーツだけ取り換える」 ちょっと笑って、橋本の前髪をかきあげ額にキスを落とす。 そして立ち上がるとバスローブを羽織った。 「そ、その恥ずかしいモードも頼むからやめてください」 「いい加減慣れてください」 「無理です。本当に無理です。ごめんなさい」 ベッドに座り込んだまま、橋本は突っ伏した。 シーツは汗やら菊池の匂いやらアレな匂いやらがしみ込んでいる。 それにまた頭に血がのぼった。 うううー、とシーツに向ってうなる。 「なんだよ」 「………だめだ、恥じ死ぬ」 「なんだ、それ。ほら、シーツも洗うぞ」 シーツを引っ張られ、橋本は観念して体を起こす。 恥ずかしい。 とても恥ずかしい。 嬉々として自分の世話を焼く菊池がとんでもなく恥ずかしい。 なんで菊池は恥ずかしくないのか。 むしろ恥ずかしくない、菊池の存在が恥ずかしい。 照れてる自分も恥ずかしい。 橋本と菊池で、こんなシチュエーション。 すでにギャグだ。 この状況が恥ずかしい。 まるで自分が頼りない女の子にでもなってしまったかのようだ。 そこで、橋本はひとつ思い出した。 がばっと顔をあげて、菊池をまっすぐに見つめる。 「あ、そうだ!菊池!」 「何?」 「次は、俺だからな」 菊池はきょとんとして、不思議そうに首を傾げる。 「何が?」 「男役」 そして、二人の(異)情事はこれからも続く。 |