カウント10。



神様、ごめんなさい。
許してください。
私はずるいです。
私は卑怯です。
罰を与えられてもしょうがないです。
バチがあたってもいいです。
でもお願いです。
お願い。
一生のお願いだから。
もう、何度目か分からない一生のお願いだけど。
でも、これで最後の最後だから。

カウントは、残り10。
三週間と三日、一緒に過ごせた。
残り10だったら、本当はもう、今日中に使いきっちゃうけど。
でも、許してください。
ズルをすることを許してください。
ごめんなさい。
すいません。
申し訳ありません。
もう、残りの人生のいいことを使い切ってもいいから。
だからお願い、許してください。

一日一回のカウントにすることを、許してください。
後十日。
十日だけ、あと十日だけ、一緒にいさせてください。

お願いします。
お願いします。
お願いします。

大それた望みです。
付き合えたことだけで、もういいことなんて使い果たしちゃったけど。
想いを受け取ってくれただけでも、もう本当は十分なんだけど。
これ以上望むなんて、ほんと身の程知らずなんだけど。
でも、でもお願い。
後、十日だけ、許してください。

そうしたら諦めるから。
そうしたら、今度こそ、手を離すから。
笑って、さよならを言えるから。
だから、神様お願いします。

後10回だけ、一緒にいさせてください。

だから。

私はズルをします。



***




残り10。

「おはよう、友ちゃん」
「おはよう、みのり」

今日も、友ちゃんはちょっと笑ってくれた。
あまり表情が動かないクールな友ちゃんが、この3週間と3日、ずっと笑ってくれる。
嬉しいな。
本当に嬉しいな。
今日も笑ってくれた。
本当だったらここで、マイナス1。
でも、ズルをする。
今日は、カウントはしない。
だから、いっぱいいっぱい、嬉しいことがあるといいな。
今日は嬉しいことに、びくびくしないの。
カウントを使いきっちゃうんじゃないかって、怯えなくていい。

私、これまで頑張ってきたよね。
努力、したよね。
だから、ご褒美。
ご褒美、だめかな。
自分が勝手に、したことだけど。
自分が友ちゃんに振り向いてほしくてやったことだけど。
友ちゃんに振り向いてもらった時点で、そんなちっぽけな努力なんて報われたけど。
でも。
でも。
とても、ずるいことだけど、お願い、見逃して。
ここで私の運、使い切ってもいいから。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

どうしたって罪悪感は消えないけれど。
でも、ダメ。
今日でカウント使い果たしちゃうなんて、できない。
まだ、心の準備が、出来てない。

私はずるいです。
分かってるんです。
本当にごめんなさい。
本当に本当に、ずるいです。

ズルをする。
後10回、友ちゃんと一緒にいれる。
嬉しいな。
本当に嬉しいな。
残り10日間は、もうカウントしない。
怯えない。

だから、いっぱいいっぱい、友ちゃんを好きになろう。
嬉しいことに、素直に喜ぶよ。
嬉しいけど、悲しい、なんて感じないように。
精一杯、友ちゃんといることを楽しむよ。
心に、沢山沢山ためこむよ。
それで、私は頑張れる。

「どうした?」
「え!?」
「具合でも悪いのか?なんか様子がおかしいから」

嬉しい。
嬉しい。
嬉しさで胸がいっぱいになる。
胸が熱くなる。
涙が出そうになる。

友ちゃんが私を見ていてくれる。
友ちゃんが私の様子に気付いてくれる。
1か月前までは考えられなかったこと。

嬉しいな。
なんて嬉しいんだろう。

改めて、受け止める。
友ちゃんを好きでいていい権利。
友ちゃんの隣にいれる時間。

こんなにも、温かさと嬉しさでいっぱい。
忘れないよ。
絶対に忘れないよ。

「大丈夫だよ。昨日、ちょっと寝不足だったの。ありがとね、友ちゃん」
「ああ、もうすぐ期末も近いしな」
「うん、もう物理なんてこの世からなくなればいいのに」
「ばーか、そんなこと言ってる間に公式の一つでも覚えろ」
「あれ、もう日本語じゃないんだもん」
「そりゃそうだ」

嬉しいな。
こんな他愛のない会話が、嬉しい。
これからも、こういう会話、できるかな。
これくらいは、許されるかな。
だめだめ、大それたことは考えない。
今でさえ、いっぱいいっぱい嬉しいんだから。

「じゃ、今日は俺んち寄ってくか?」
「え?」
「教えてやるよ、物理と化学」
「ほんと!?」
「ああ、お前が補習なんてなって遊びに行けなくなったら最悪だからな」

あ、だめ。
涙でそう。
もう、友ちゃん不意うちだ。
本当に最近、嬉しいことばっかり言うんだから。
だから、三週間と三日しか一緒にいれなかったんだよ。
もっと、冷たくてよかったのに。
こんなに優しくなくてよかったのに。
ちょっとだけ友ちゃんが憎らしい。
もっともっと冷たかったら、もっと一緒にいれたのに。

「ほら、手」
「………うん」

嘘。
優しくされて嬉しい。
友ちゃんが優しくて、よかった。
いっぱいいっぱ嬉しいこともらえて、よかった。

おっきくてあったかい手。
筋が通った、きれいな手。
綺麗な爪のかたち。

最後まで、慣れなかったな。
友ちゃんと手をつなぐこと、慣れることができなかった。
やっぱり違和感。

でも嬉しい。
本当に嬉しい。

「えへへ、友ちゃん、大好きです」
「ああ」

後、残り9。








TOP   9