カウント10。 神様、ごめんなさい。 許してください。 私はずるいです。 私は卑怯です。 罰を与えられてもしょうがないです。 バチがあたってもいいです。 でもお願いです。 お願い。 一生のお願いだから。 もう、何度目か分からない一生のお願いだけど。 でも、これで最後の最後だから。 カウントは、残り10。 三週間と三日、一緒に過ごせた。 残り10だったら、本当はもう、今日中に使いきっちゃうけど。 でも、許してください。 ズルをすることを許してください。 ごめんなさい。 すいません。 申し訳ありません。 もう、残りの人生のいいことを使い切ってもいいから。 だからお願い、許してください。 一日一回のカウントにすることを、許してください。 後十日。 十日だけ、あと十日だけ、一緒にいさせてください。 お願いします。 お願いします。 お願いします。 大それた望みです。 付き合えたことだけで、もういいことなんて使い果たしちゃったけど。 想いを受け取ってくれただけでも、もう本当は十分なんだけど。 これ以上望むなんて、ほんと身の程知らずなんだけど。 でも、でもお願い。 後、十日だけ、許してください。 そうしたら諦めるから。 そうしたら、今度こそ、手を離すから。 笑って、さよならを言えるから。 だから、神様お願いします。 後10回だけ、一緒にいさせてください。 だから。 私はズルをします。 残り10。 「おはよう、友ちゃん」 「おはよう、みのり」 今日も、友ちゃんはちょっと笑ってくれた。 あまり表情が動かないクールな友ちゃんが、この3週間と3日、ずっと笑ってくれる。 嬉しいな。 本当に嬉しいな。 今日も笑ってくれた。 本当だったらここで、マイナス1。 でも、ズルをする。 今日は、カウントはしない。 だから、いっぱいいっぱい、嬉しいことがあるといいな。 今日は嬉しいことに、びくびくしないの。 カウントを使いきっちゃうんじゃないかって、怯えなくていい。 私、これまで頑張ってきたよね。 努力、したよね。 だから、ご褒美。 ご褒美、だめかな。 自分が勝手に、したことだけど。 自分が友ちゃんに振り向いてほしくてやったことだけど。 友ちゃんに振り向いてもらった時点で、そんなちっぽけな努力なんて報われたけど。 でも。 でも。 とても、ずるいことだけど、お願い、見逃して。 ここで私の運、使い切ってもいいから。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 どうしたって罪悪感は消えないけれど。 でも、ダメ。 今日でカウント使い果たしちゃうなんて、できない。 まだ、心の準備が、出来てない。 私はずるいです。 分かってるんです。 本当にごめんなさい。 本当に本当に、ずるいです。 ズルをする。 後10回、友ちゃんと一緒にいれる。 嬉しいな。 本当に嬉しいな。 残り10日間は、もうカウントしない。 怯えない。 だから、いっぱいいっぱい、友ちゃんを好きになろう。 嬉しいことに、素直に喜ぶよ。 嬉しいけど、悲しい、なんて感じないように。 精一杯、友ちゃんといることを楽しむよ。 心に、沢山沢山ためこむよ。 それで、私は頑張れる。 「どうした?」 「え!?」 「具合でも悪いのか?なんか様子がおかしいから」 嬉しい。 嬉しい。 嬉しさで胸がいっぱいになる。 胸が熱くなる。 涙が出そうになる。 友ちゃんが私を見ていてくれる。 友ちゃんが私の様子に気付いてくれる。 1か月前までは考えられなかったこと。 嬉しいな。 なんて嬉しいんだろう。 改めて、受け止める。 友ちゃんを好きでいていい権利。 友ちゃんの隣にいれる時間。 こんなにも、温かさと嬉しさでいっぱい。 忘れないよ。 絶対に忘れないよ。 「大丈夫だよ。昨日、ちょっと寝不足だったの。ありがとね、友ちゃん」 「ああ、もうすぐ期末も近いしな」 「うん、もう物理なんてこの世からなくなればいいのに」 「ばーか、そんなこと言ってる間に公式の一つでも覚えろ」 「あれ、もう日本語じゃないんだもん」 「そりゃそうだ」 嬉しいな。 こんな他愛のない会話が、嬉しい。 これからも、こういう会話、できるかな。 これくらいは、許されるかな。 だめだめ、大それたことは考えない。 今でさえ、いっぱいいっぱい嬉しいんだから。 「じゃ、今日は俺んち寄ってくか?」 「え?」 「教えてやるよ、物理と化学」 「ほんと!?」 「ああ、お前が補習なんてなって遊びに行けなくなったら最悪だからな」 あ、だめ。 涙でそう。 もう、友ちゃん不意うちだ。 本当に最近、嬉しいことばっかり言うんだから。 だから、三週間と三日しか一緒にいれなかったんだよ。 もっと、冷たくてよかったのに。 こんなに優しくなくてよかったのに。 ちょっとだけ友ちゃんが憎らしい。 もっともっと冷たかったら、もっと一緒にいれたのに。 「ほら、手」 「………うん」 嘘。 優しくされて嬉しい。 友ちゃんが優しくて、よかった。 いっぱいいっぱ嬉しいこともらえて、よかった。 おっきくてあったかい手。 筋が通った、きれいな手。 綺麗な爪のかたち。 最後まで、慣れなかったな。 友ちゃんと手をつなぐこと、慣れることができなかった。 やっぱり違和感。 でも嬉しい。 本当に嬉しい。 「えへへ、友ちゃん、大好きです」 「ああ」 後、残り9。 |