「由紀はいいなあ」

美香は何度ともなく、その言葉を口にする。
その言葉を聞く度に、私は胸が締め付けられる。
そして、暗い優越感に浸る。

羨ましいでしょう、美香。
羨ましいよね、美香。

「あはは」

だから私は笑って誤魔化す。
こんな暗い感情を大好きな親友に見えないように。
大好きな大好きな美香。
本当だよ。
大好きだよ、美香。

優しくてかわいくて綺麗で、友達思いの美香。
本当にその心まで綺麗なあなたが、大嫌い。

ううん、大好きだよ。
でも、大嫌い。

「私も彼氏作ろうかなあ」
「美香ならすぐできるでしょ」
「なんでかなあ、私できないんだよねえ」

私とは違う理由で、彼氏ができないんだよね。
あんたは高値の花。
競争率高すぎて、手を出すのもためらわれる血統書つき。

あんたの周りではあんたを狙っている男どもがいっぱいいるのに、それに気付かない鈍さもムカつく。
本当に何から何まで、鈍さもドジなところも計算しつくされたようにかわいい女の子。
完璧な女の子。
隣で見ている私の薄暗い感情なんて、気づきもしないだろうね。

大好きだよ、美香。
でも、大嫌い。

それで、こんな風に思っている自分が大嫌い。
あんたの隣にいると、自分がどんどん薄汚くなっていっていくの、本当にいや。
うんざりする。

「よし、私も藤原君みたいに、優しい彼氏作る!」
「………藤原君みたいのがタイプなの?」

だから意地悪く聞いてしまう。
あんたも藤原君も嘘つきだから。
私と一緒で笑いながら嘘をつく。

それなのに。

「うーん、藤原君ね、最初はまったくなんも思ってなかったんだけど」
「………うん?」
「由紀をね、好きになった人だからね。由紀の魅力に、気づいた人だから。それで、由紀の好きな人だから。由紀、どんどんかわいくなる」

綺麗に笑って、そんなことを言う。
なんていい子ちゃん。
どこまでも優等生。
どこまでもどこまでも綺麗な、美香。

「だからね、なんていうかな。そういう、ちゃんとしたところを見える人がいいな、って。なんか、難しいな、言い方が」

ちょっと照れたように頬を赤くして、私から目を逸らす。
そんな仕草すらかわいくて。

私は、唇をかみしめる。
手を握りしめて、力を込める。
涙が、こぼれないように。
感情が、溢れないように。

「そっか」
「うん」

私は、本当になんて卑屈で汚い。
今の言葉が嬉しくて嬉しくて仕方ないのに。
それでもどこからで思ってしまう。

なに、それ、ブスだった私に気付くのがいい人ってこと?
そんなに綺麗なこと言って、自分をいい子にしたい?

でもね、嬉しいの。
あんたに、そう言ってもらえて、うれしいの。

どうしたらいい。
苦しいよ、美香。

あんたを、純粋に好きになりたい。
なりたいよ。





BACK   TOP  NEXT