「ねえ、藤原君」

皆と別れて二人きり。
私は藤原君の背中を見ながら歩く。
声をかけると、藤原君は振り返ってくれる。

「ん、何?」
「その、さ」

聞きたいことがある。
言いたいことがある。

聞きたくないことがある。
言いたくないことがある。

それらはすべて、どれも同じことなのだけれど。

口ごもる私に、藤原君は首をかしげて立ち止まる。
そして優しく笑って、一歩距離を縮める。
飛び上がるほど、嬉しい距離のなのに。
距離だったのに。

「どうかしたの?」

言いたいよ。
聞きたいよ。
言いたくないよ。
聞きたくないよ。

どうしたらいい。
どうしたらいいの。
あなたを手放したくない。
でもこのままでいたくない。

「藤原君さ」
「うん?」

あなたは優しく笑っている。
何も隠すことがないように。
あなたの汚さも、私の汚さも見えないように。

「どうしたの?具合悪い?」

私はきっと、変な顔をしているのだろう。
顔が、強張っている。
ああ、きっと泣きそうだ。
でも泣かない。
泣いてたまるか。

藤原君は真っ直ぐに私を見ている。
私は、負けて目を伏せた。
ああ、悔しいな。
私はもっともっと、強い人間だと思っていた。
誰にも負けないと、思っていた。

「その」
「うん」
「………手、つないで、いい?」

言いたかったのは、こんなことじゃない。
聞きたかったのは、こんなことじゃない。

それでも消極的に、私は確信に少しだけ触れる。
でも、弱い。
今にも逃げ出したい。
怖い。
彼の言葉が、怖い。

藤原君が息をのんだ気配がした。
一瞬沈黙が流れる。

「三田」

言ってくれる、だろうか。
今度こそ、言ってくれるだろうか。

けれど、俯いた視線の先に、彼の大きな手が見えた。
一瞬ためらうように、動きが止まる。

「………」

私は顔をあげず、その手の行き先を見ている。
どちらを期待しているのか。
その手がどう動くのを、望んでいるのか。

そしてその大きな手は。
大きな手が、私の手を取る。

「…………」
「さ、帰ろう」

ああ。
そっか、分かった。

安心もした。
ほっとした。
嬉しかった。

でも何より私は、がっかりした。
私は、そう望んでいたのだ。

私は彼に失望した。

「………うん、帰ろっか」
「ああ」

顔を上げると、彼はにっこりと笑っている。

嘘つきだね、藤原君。
あなたは、笑って嘘をつく。
優しくて、優柔不断。

ねえ、藤原君、私は聞きたかったの。
言いたかったの。

あなたは、一体誰が好き?





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