白い、世界。 白い白い世界。 いや、乳白色? 温かみのある、真っ白な世界。 いつもの全ての生きるものを否定するような赤い世界とは、違う。 ただ白いその場所に、俺はいた。 「………ここ、は?」 上も下も分からない、自分が立っているのかも座っているのかもわからない。 どこまでも果てしなく続く乳白色。 けれど、怖いという気持ちは全くない。 なぜだか不思議と落ち着く、懐かしい場所。 「………なんだ、ろう」 「こんにちは、はじめまして、三薙」 辺りを見回していると、後ろからいきなり透き通った綺麗な声がした。 さすがに驚いて飛び上がって後ろを振り向く。 そこには優しく笑っている髪の長い女性がいた。 随分背が高い。 俺より高くて、170センチは軽く越えてそうだ。 華奢で長い手足を持って、袖のないシンプルな白いワンピースを着ている。 繊細な顔立ちをした、綺麗な人。 「え、あ」 けれど思わず後ずさってしまう。 害意は、感じない。 けれど、ここは夢の中。 何が起こるか、分からない。 この人が敵か味方かも、分からない。 「会えて嬉しい。ずっと会いたかったの」 けれど高く透き通った声を持つ人は、本当に嬉しそうに目を細めて笑う。 あ、れ、なんか、覚えがあるよう、な。 どこかで、あったこと、あったっけ。 「えっと、あな、たは?」 とりあえずすぐに襲ってくることはなさそうだ。 俺の警戒している態度に、気分を害する様子もなく女性はすぐに応えてくれる。 「この世界のナビゲーターってところかしらね」 「この世界?ここは、どこ?」 「ここはワークステーションみたいなものね。準備室?基地?」 「えっと」 どうしよう、何を言っているのか分からない。 基地って、なんだろう。 ここはいつもの赤い世界とは違うのか。 俺の戸惑いに気付いたように、女性はちょっと考え込む。 「えっとね、ここは双馬の世界。双馬の中よ。夢の中、でもいいかな。今、双馬は三薙の夢とこの夢をつなげているの。ちょっと待っててね」 「あ、はい」 「ふふ」 気押されて頷くと、それがおかしかったのか小さく笑う。 幼い子を見るような慈愛に満ちた様子に、なんだか恥ずかしくなる。 「………あ、あの」 「本当に、会えて嬉しい。思ったより背が小さいのね」 ぐさっと、言葉が心に突き刺さる。 確かに、彼女の方が3〜5センチ大きいと思う。 結構ストレートにひどい人だ。 「………えっと、あなたは、大きいですね」 「そうなのよねえ。小さい可愛い子になりたかったわ」 「あ、ごめんなさい!」 「いいのよ」 大きいって、女性には失礼なことなのかな。 モデルみたいでかっこいいと思うけど、やっぱり気にするのかな。 こんなこと言っていたら、また岡野とかに女心が分かってないとか言われそうだ。 「あの………」 女性は特に気にした様子もなく、にこにこと俺を見ている。 なんでそんなじっと見ているんだろう。 なんだか居心地が悪い。 とりあえず、名前でも聞いておこう。 「なあに?」 「俺、私は三薙って言います。あなたのお名前聞いてもいいですか?」 「ああ、そうね。礼儀正しいわね」 「は、はあ」 急ににゅっと手を伸ばされて、ちょっと体をひいてしまう。 でも失礼かと思って、ぐっとずり下がろうとする足をひきとめた。 女性の華奢な手は、いい子いい子と俺の頭を掻きまわす。 は、恥ずかしい。 「………あ、あの」 「私は双馬よ」 「は?」 「私も双馬」 双馬って、双兄のことか。 この人も、双兄? 「あなたの兄の双馬と同じ。私も双馬」 えっと、どういうことなんだろう。 ここは双兄の世界で、この人は双兄の世界のナビゲーター。 夢の中の人格ってことだろうか。 この姿は、双兄の願望とか。 好みの女性のタイプの反映? または双兄は、女性になりたかったとか。 双兄の中の女性の人格とか。 そういえば、そうだ。 この人、双兄に似ている。 笑った顔とか、そっくりだ。 それって、この人はおかまさんってことになるのかな。 「なんか今失礼なこと考えたでしょ」 「い、いえ、何も!!」 じと目で、俺を眇めてくる。 鋭い。 慌てて両手をふって、否定する。 「敬語なんて使わなくていいわ。双馬と同じように話して」 「えっと、でも………」 「いいのよ。だってあなたの姉だもの」 えっと、それは双兄の別人格だから、とかなのかな。 だから姉になるってことなのかな。 双馬、姉さん?は、小さく笑って、またくしゃくしゃと俺の頭を撫でた。 「ね、なんで一矢兄さんが、一、三薙が三、四天が四、で、双馬だけ二って、棒が二本の方じゃない漢字か、不思議に思ったことはない?」 あ、それは気になっていたのだ。 父さんの兄弟はちゃんと、一、二、三なのに、なんで双兄だけ、双、なのか。 「あ、前に、双兄に聞きました。そしたら、俺は一人で二人分かっこいいから双つの方なんだ!って言われました」 「敬語」 「あ、ごめんなさい!じゃない、えっと、ごめん」 「はい、よろしい。全く双馬も馬鹿ねえ」 びしっと言われて、思わず謝ってしまう。 双馬姉さんは、軽く肩をすくめた。 「私たちね、本当は双子だったの」 「え?」 「でも、私は生まれることが出来なかったの。なぜか双馬の中にいるけどね。だから、双馬の漢字は、双、なのよ。同じものが双つの、双」 「………あ」 ようやく、納得がいった。 だから、双兄は、双、なのか。 それと、夢の中に入る前の、双兄の言葉にも合点がいった。 俺によろしくって、双馬姉さんのことだったのか。 この人は、俺の、姉さん。 姉さんになるはずだった人。 一緒に育って、一緒に遊んで、沢山の思い出を一緒に共有する予定だった、人。 「ああ、そんな顔しないで。結構快適なのよ、ここも」 「………」 でも、俺は姉さんと話せなかった。 一緒にいれなかった。 姉さんは、ここでずっと一人でいたのだろうか。 「三薙は優しい子ね」 姉さんが困ったように笑って、また頭を撫でてくる。 少し恥ずかしかったが、我慢することにした。 「双馬がね、ここにいることを許してくれたの。だから共生しているの。本来は生まれることのなかった私が、双馬と一緒に、色々なものを見れて、感じられる。楽しいし、嬉しいわ」 姉さんは優しく笑っている。 でも、一人だ。 一緒にご飯を食べることも、一緒に出かけることも、できない。 けれど、そう言ってしまうのは、この人の全てを否定することだろうか。 どうしたら、いいか分からない。 なんて言ったら、いいのだろう。 突然すぎる出来事に、何を言ったらいいのか、どうしたらいいのか全く分からない。 本当に唐突すぎる、事実。 こんなの全然、知らなかった。 「………一兄や、四天は、双馬………、姉さんのことは知ってるんだよね?」 「姉さん!」 「え!?」 いきなり姉さんは目を大きく見開いて、高い声をあげた。 びびって、ちょっとだけ身を引いてしまう。 「やだ、嬉しい!ありがとう!姉さんって言われたのは初めてよ!嬉しい!きゃー、何これ、すごい嬉しい!」 「え、えっと」 「もっかい言って、もっかい言って!」 「ね、姉さん」 「やー、嬉しい!超嬉しい!」 姉さんは握りこぶしを作って飛び跳ねている。 ものすごい大人の女性って感じなのに、子供みたいだ。 そんなところは、確かに双兄と双子なのかもしれない。 「えっと、四天は」 「あの子は全然呼んでくれやしないわ。あなた、とか他人行儀。全くかわいくない」 口を尖らせて、不満を漏らす。 ちょっとかわいい、拗ねた仕草。 それにしてもあいつは姉さんにもいつもの態度なのか。 「………四天は、知ってるんだよね?」 「ええ、兄さんも。仕事で何回か会ってるしね」 「………」 俺だけ、知らなかったのか。 俺には、知らせない方がいいと、思われたのだろうか。 仕事もできないから、知る必要はない、とか。 「ああ、仲間外れにしてた訳じゃないの。双馬がね、やっぱりちょっと嫌がるのよ。自分の中に女性の人格がいるとか、恥ずかしいじゃない。え、そういう趣味!?って感じじゃない」 「………」 俺だけ、姉さんの存在を知らなかった。 俺だって、家族なのに。 姉さんが困ったように、眉を下げる。 「あのね、そのうち、話すつもりだったのよ。本当に本当よ。そんな顔しないで」 「………」 「………ごめんなさい」 別に、謝ってほしい訳じゃない。 姉さんを困らせたい訳じゃない。 ただ。 「………俺、姉さんがいるなら、もっと早く、知りたかった」 「………」 姉さんの白くて細い腕が、俺の背中に絡みつく。 綺麗な長い髪が、顔にかかる。 夢の中なのに、甘い匂いがした気がした。 「ありがとう、三薙。大好きよ。大好き。私はずっと双馬の中からあなたを見ていたわ。ずっとあなたと会いたかった。話したかったの」 「………じゃあ、もっと早く、会ってくれればよかったのに」 「心のね、準備が出来なかったの」 そこで姉さんがぱっと体を離す。 そして乳白色の世界で、上を見上げる。 「ああ、色々話したいことがいっぱいあるのに、準備が完了したみたい。そろそろ行きましょ」 「え?」 「三薙の世界へよ。早く片付けて、ゆっくりお茶でもしながらお話しましょう。ね?」 本当はもっと、色々なことを聞きたかった。 話したかった。 仲間外れにされた恨み事も、言いたかった。 でも、確かに先に問題を片付ける方が先だ。 「………お茶、できるの?」 「できるわ、ここは夢だもの。なんだって出来るのよ。ここは私の世界だもの」 姉さんは悪戯が成功した子供のように片目をつむって笑う。 そして、俺の手を取った。 「さ、いくわよ」 「え、あ」 いつのまにか、そこには扉が出来ていた。 重厚な、綺麗な細工の施された、木の扉。 乳白色の世界に、ただその扉だけがある。 「………あ」 これは、と聞く暇もなく、姉さんがノブを回す。 ゆっくりと重みを感じさせながら、扉は開いた。 物理的に言えば扉の先にも乳白色の世界が広がっているはずなのに、そこは真っ赤な世界だった。 「さ、行くわよ」 恐怖に身が竦むが、躊躇う間もなく姉さんに腕をひかれて扉の中に入り込む。 炎の中に飛び込むような、嫌な気分。 「ここね。嫌な空気。それに趣味の悪いマンション。私こんなところには住みたくないわ」 そこはいつものオレンジ色に染まったマンション。 いつの間にか木の扉はなくなっている。 スタートの、階段の踊り場。 ああ、嫌だ。 不快感で、胸がいっぱいになる。 けれど、今は一人じゃない。 ただそれだけで、こんなにも心強い。 だから、軽口だって叩ける。 「俺も、住みたくないな」 「そうね。私はもっとこう贅沢な億ションとかに住みたいわ」 言いながら、姉さんはスタスタと踊り場を出て行く。 怖い、とかないのだろうか。 辺りを見回すが、やはり手すりには鉄格子がはまっている。 あれから変わった様子はない。 階段室を出たすぐ正面には階数を示すプレートが壁に張り付いていた。 七階。 「………っ」 「七階ね。さっき双馬から事情は聞いたけど、一階づつ上ってるのよね」 「………うん。姉さんは、ここが何か、分かる」 「………っ」 姉さんはそこで顔を抑えて、しゃがみこむ。 なんだ。 何かあったのか。 「ね、姉さん!?」 「………」 慌てて近づくと、双馬姉さんは小さく震えていた。 泣いて、いるのか。 「どうしたの!?」 「………た」 「姉さん!?」 「………たまらないわ」 「は?」 そして顔をあげて、ぼんやりとした顔で遠くを見る。 「………姉さんって、いいわね」 「………」 どうしよう。 この人どうしよう。 「あ、それで、ここが何か、ね」 「………うん」 姉さんは今までの流れがなかったかのようにさくっと立ちあがって、きりきりと話し始める。 なんていうか。 いや、やめておこう。 会ったばかりの姉に、そんなことを言うのは悪いだろう。 まだ、全然姉さんのことを知らないんだから。 「呪詛、だと思うわ。でもとても弱い」 「じゅ、そ」 「そう、三薙をじわじわ弱らせて、自分で八階まで来させて、そこで成就」 じゅそ。 その言葉を聞くだけえ、ぞわりと全身が粟立つ。 嫌な響きの言葉。 「………な、んで」 「分からないわ。変なのに魅入られたのかもしれないし。あなたはそういうものだから」 「そういうもの?」 姉さんは真面目な顔で、じっと俺の眼を見つめた。 「邪に魅入られ、愛される」 「………」 それは、前から父さんにも母さんにも一兄にも言われていたことだった。 だから、人一倍気をつけろ、と。 気をつけていたつもりだったが、やはり付け入られのだろうか。 いつまでたっても俺は半人前のままだ。 こうしていつだっておもちゃにされて、皆に迷惑をかける。 黙りこんだ俺の肩をぽんとはたいて、姉さんは続ける。 「でも、すごく弱いわ。四天が存在に気付かないくらいだもの。すごく弱弱。話にならない」 「え、でも」 俺はここで、ずっと怖い目に会ってきた。 追い詰められ、嬲られ、恐怖に戦いた。 けれど怯える俺の感情とは裏腹に、姉さんは綺麗に微笑む。 「ここはね、あなたの世界なのよ、三薙」 「え」 「あなたがなんだって出来るの。あなたが支配者、あなたが王、独裁者。だから、本来ならこんな追い詰められることはないの」 「………でも、俺は………」 何もできない。 この世界に翻弄されるばかり。 そんなこと言われても、信じることが出来ない。 「つまりね、あなたの根性がないの」 「え!」 いきなりひどいこと言われた。 言い返せないでいると、姉さんは握りこぶしを作って、パンチをするように右手を付きだす。 「気合いよ、気合い!根性!敵はね、あなたを精神的に追い詰めて、弱らせて、あなたの力を利用して、強くなって、あなたを引き込もうとしているの。だからこんなじわじわとしたやり方をしているの」 「………えっと」 「だからね、あなたが気を強くもって、こんな夢になんか負けないって思えば、あっという間に逆転よ。あなたの世界だもの。あなたがなんだって出来るの」 「………でも」 それなら、こんなことになっていないんじゃないだろうか。 やっぱり強い力の持ち主が、この夢に巣食っているんじゃないだろうか。 だって、俺は追い詰められるばかりで何もできない。 しかし姉さんはビシッと、手すりの鉄格子に右手の人差し指を付き付ける。 「試しに、ほら、そこの手すりぶったぎってみなさい。出来るわ」 「えええ!?この前どうやってもビクともできなかったよ!?」 「出来るの。信じなさい。出来る!さあ!」 姉さんはなんか青春物の鬼教官のように、俺に指示を飛ばす。 そんなこと言われても、絶対に出来ない。 ちらりと姉さんを見るが、姉さんはじっと俺を睨みつけるばかりで撤回してくれない。 仕方ない。 「………」 恐る恐る鉄格子に近付いて、そっとその10cm感覚の鉄棒を握る。 思いっきり揺らそうとするが、やはりそれは動く気配を見せない。 「………やっぱり、無理だよ」 「そう信じてるから出来ないの。じゃあ、道具出してみなさい道具。剣とか包丁とか」 「………包丁はちょっと無理じゃない?」 「やすりでもコンクリートカッターでもなんでもいいわよ。この鉄の棒ぶったぎる道具出しなさい」 「出しなさいって、どうやって」 さっきから無茶ぶりばっかりだ。 大丈夫なのかな、姉さん。 いや、疑うな。 ていうか、やっぱりこの人、双兄と双子だ。 間違いない。 「あなた欲しいと思えば、手に入るわ。想像するの。何度も言うけど、ここはあなたがどうにでも出来る世界なんだから」 「………う、うん」 「それに、あなたの世界は広いわ。とても広い。双馬や四天や、兄さんよりもずっと広くて、強い。なんだって作れる。なんだって出来る」 出来るって言われても。 じゃあ、剣。 えっと、天の、剣。 必死に思いだして、想像してみる。 30秒ほどたっても、何も起きない。 「………や、っぱり、無理」 「無理じゃない!」 「で、でも!」 姉さんの鬼教官ぷりに反論しようとした時。 カン。 カン、カン、カン。 それは、響いた。 「………っ」 「ち」 「ね、姉さん。あいつが来た!」 「来てない。幻聴。何もない」 「で、でも」 カン、カン、カン。 「ね、姉さん!!!」 カンカンカン。 足音は、どんどん早くなる。 あの、影が、来る。 「あ、ああ!」 「ちょっと、落ち着きなさい、落ち着きなさい、三薙!」 「は、早く逃げなきゃ、姉さん、逃げなきゃ!」 「落ちつけってば!」 「落ち着いてられないよ!」 姉さんも一緒に、逃げないと。 俺は姉さんの華奢な手をとって、逃げ出す。 どこに逃げればいい。 分からない。 とりあえず、あの部屋はどうだろう。 あいつは扉は開けられなかった。 だったら、郵便受けさえ封じちゃえば、何もできないんじゃないか。 俺はすぐ隣にあった扉に飛びつく。 思いっきりノブをまわして、引っ張る。 ガ、チャン。 「ドア、開かない!」 ガチャガチャを何度も揺するが、ドアノブは回るものの、ドアは開く気配がない。 今度はここまで閉じられた。 「ど、どうしよう!」 足音が響いている。 逃げ場はない。 「………分かった。ちょっと仕切り直ししましょう。あなた心弱すぎる」 姉さんが、ため息交じりに落ち着いた声でそんなことを言った。 そんな、落ち着いている場合じゃない。 何がなんでも、姉さんだけは守らなきゃ。 「え、仕切り直すって!?それより、早く逃げなきゃ」 「一回起きなさい」 「起きたくても、起きれないよ!それに姉さんは!」 姉さんは一人、ここに取り残されるのじゃないだろうか。 俺がいなくなったら、どうなるんだ。 けれど俺の言葉に、姉さんはふっとけぶるように笑った。 「私は平気よ。ありがとう。とりあえずとっととあなたは起きなさい」 「どうやって!?」 「起きれるってば」 「無理だよ!」 「起きれる!」 「無理!」 そんな問答を繰り返していると、姉さんが大きくため息をついた。 そして、その白い手を思い切り振りかぶった。 なんだ。 いやな予感がする。 「さっさと起きなさい、この馬鹿弟!!!」 そしてその手は風を切り、振り下ろされた。 「いったああああ!」 頬を押されて、飛び起きる。 姉さんひどい。 何もそんな思い切り叩かなくても。 「おはよう。随分斬新な目覚めだね」 声が聞こえた方に視線をやると、四天が椅子に座って本を読んでいた。 ていうかあれエロ本じゃん。 何してんだ、こいつ。 「て、え、あれ、天?」 「そう、夢の中はどうだった?」 あ、そっか。 えっと、さっきまでのは夢か。 そうか、夢か。 そっと、胸をなでおろす。 「………えっと」 なんだか今までになくものすごくバタバタした。 怖かったと言えば、怖かったが、いつものような恐怖の名残はない。 それ以上に印象に残っているのは。 「………双馬姉さんに、殴られた」 「………なんで?」 四天がものすごい不可解そうな顔をした。 「………」 多分、俺がへたれだからだろう。 |