「え」 槇の言葉に、つい呆けた声が出てしまった。 ふわふわとした少女は、そんな俺の顔を見て困ったように笑う。 「勿論、あの二人は好きだよ。性格も明るくて優しくて思いやりがある。付き合いやすい人たち」 そう、俺も好きだった。 二人とも大好きだった。 明るくて優しくて尊敬できた。 ずっと憧れていた人たちと、一緒にいるだけで嬉しかった。 「でもね、言った通り、私すごく疑り深いから、人に心許すのって、時間かかるの」 槇も、あの二人が好きだと思っていた。 俺も含めて五人でとても仲がいいと思っていた。 皆、いい人たちばかりだと思っていた。 「特に千津。気が付いたら、三人でいた。宮守君が気づいたときは、三人だったよね?」 「う、ん」 クラスの中心で笑っているような、三人だった。 まったくタイプが違うけれど、不思議としっくりとくる。 その仲のよさが微笑ましくて、羨ましかった。 「私は彩が大好き。千津は、いい子で、楽しくて、でも、私が打ち解けるには早すぎる。なのに、私はすぐに受け入れて、疑ってもいなかった」 けれど槇はにっこりと笑いながら、そんなことを言う。 その内容の冷たさに、少しだけ槇を怖いと思ってしまった。 槇はまったく、間違えてないのだけれど。 「それに前にも言ったけど、あの幽霊屋敷に私と彩が行くなんて、いつもなら考えられない。旅行先での肝試しぐらいならともかく、わざわざそういう危ないところに、まして不法侵入なんてするはずがない」 阿部と平田と岡野と槇と佐藤で訪れた、幽霊屋敷。 今思えば、それが、全ての始まりだった。 あの時から俺も誘導されていたが、同じように槇と岡野も利用されはじめていたのか。 「藤吉君は、まあ、宮守君の友達だから一緒にいたっているのはある。でも、それでも打ち解けすぎた」 「………槇」 冷たく聞こえる言葉に、何も言えずにただ名前を呼ぶ。 槇はやっぱりにこにこと笑っている。 「二人とも、いい人だけどね。まるで、作り物みたいに、いい人たち」 俺はなんの疑問も思わず、ただ嬉しかった。 皆と仲良くなれるのが、嬉しくてたまらなかった。 槇は、俺のことも、信用しきれてなかったのだろうか。 そうか、槇に感じた怖さはそれか。 俺は、槇の友達じゃなかったのか。 「あ、宮守君のことは納得してるよ?」 俺の表情に気づいたのか槇がちょっと慌てたように付け加える。 「宮守君は、信用してる。宮守君の性格を知って、一緒にいて、それで友達だって思ってる。大事だって思ってるよ。前に言ったことは嘘じゃない。まあ、宮守君のこれまでの言動が嘘じゃなければね」 「う、嘘って」 「宮守君の性格が演技だったら、私もう誰も信用できなくなっちゃうかも」 「それはない!!」 みんな嘘だった。 俺の周りはみんなみんな嘘だった。 でも、俺は嘘なんてついていない。 そんなの、したくない。 裏切ったり裏切られたりするのなんて、もう嫌だ。 人を裏切ったり、したくない。 「はい、しー」 「あ」 興奮してつい声を荒げた俺の前で、槇が指を一本立てる。 慌てて周りを見ると、屋上にいた何人かはこちらを見たが、すぐに視線を逸らした。 槇もそれを確認してから、大きく頷く。 「うん、信じてるよ。それに私は自分の目を信じる。宮守君を信じられるって思った私を、信じる」 そう言われてほっとして、肩の力が抜ける。 槇の今までの言葉は、嘘じゃない。 槇は、俺の大事な友達だ。 「でね。宮守君、昨日学校に出てきた時から、様子おかしかったでしょ?」 「………」 「その前からちょっと元気なかったけど、千津と藤吉君には普通だった。だったらいつ、どこで、二人と何があったんだろ」 槇が思案するように小さく首を傾げる。 「いつ、休みの間だよね。どこで、たぶん家で、または家に関する場所で、何かがあった。でも、あの二人が宮守君に危害を加える人だとしたら、宮守君の家の人たちが放っておくわけがない」 「………」 だって、その家の人たちが差し向けたのがあの二人だ。 危害を加える人間から守るどころか、家に、生贄にされようとしているのだ。 思わず笑ってしまいそうになると、槇は更に続ける。 「そういえば、しばらく前から、ご家族に対してもおかしいよね。あの二人は宮守君と何かがある。でも危害を加えるとかではない。危害を加える存在だとしても、家の人たちは何も言わない。それは、どういうことなんだろう?」 槇の鋭さに、舌を巻く。 わずかな情報の寄せ集めと、俺や藤吉や佐藤の行動だけで、こんなに分かるものなのか。 言えないのもあるが、驚きで言葉を失ってしまった。 「言えないのかな。宮守君の家の事情に関わることかな」 「………」 「宮守君の家の事情に、藤吉君と千津が関わってるとする。そうすると、私と彩以外は、宮守君の周りには家の人しかいない。あまり穏やかじゃないっぽいよねえ」 槇は指を唇にあてて、悪戯っぽく笑う。 それから表情を消し、真面目な顔になる。 「この場合、私と彩は、どういう立ち位置なんだろ?私たちに、何か被害ってあるかな?私、彩に何かあることだけは絶対に許せないんだけど」 「………そんなの、させない!」 一瞬で頭に血が上る。 岡野に、何かがある。 そんなの、何があっても、許せるはずがない。 岡野と槇には、ずっと笑っていてほしい。 何があっても、そこは侵させない。 「そんなの、ない!絶対ない!二人には、何もさせない!絶対関わらせない………っ」 また興奮して声を荒げる俺の唇の前に、そっと槇が指を一本立てる。 黙った俺を見上げて、にっこりと笑う。 「ありがとう」 何度か深呼吸して、昂ぶった感情を抑える。 冷静になれ。 槇のように、冷静に、自分をおさえろ。 二人を守るためにも、冷静でいろ。 「二人は、ただ、普通にしてて、くれればいいから。何もないから」 「ないの?」 「ないよ。二人には、何もない」 そのはずだ。 二人は俺を逃げないように縛り付け、奥宮に繋ぎ止めるための、大事な鎖。 危害なんて、加えないはずだ。 「頼もしいな。宮守君は本当に、時々すごいかっこいいよね」 くすくすと楽しそうに笑う槇に、俺も少し笑う。 それから、少しだけ考えて、やっぱり口を開く。 聞かずには、いられなかった。 「でも、槇。槇は今まで楽しかったよな?佐藤と藤吉も、好きだったよな?それは、嘘じゃないよな。今まで皆で遊んだの、嫌じゃなかった、よな?」 槇が藤吉と佐藤に、そんな感情を持っていたのは、複雑な気分だった。 これまでずっと上辺だけの付き合いだったのだろうか。 これまでの思い出は全部嘘だったのだろうか。 そんなの、嫌だ。 思い出だけは、残していて、忘れないでいて、嘘にしないで。 藤吉と佐藤の思惑はどうであれ、楽しかったんだ。 文化祭も、旅行も、学校でのささやかな日々も、とても楽しかったんだ。 大事な思い出なんだ。 「勿論、楽しかったよ。あの二人に対しての疑いを持ったのもつい最近だもん。純粋に楽しんだ。嬉しかった。また行きたいって、今でも思ってるよ」 「………」 「勿論彩も一緒。彩は私よりも情がずっと深いからね。一度懐に入れた人間はとっても大事にする。だから千津も藤吉君も、勿論宮守君もとても大事だよ。旅行が楽しかった。今度は海に行こうって、ずっと言ってる」 これは内緒ねって最後に付け加えて笑う。 槇の柔らかく穏やかな話し方に、詰めていた息を吐く。 「………よかった」 嘘じゃなかった。 楽しい思い出だった。 大事な思い出だった。 忘れない壊さない最後まで持っている。 「それにしても、私と彩は、あの二人のカモフラージュに必要だったのかな。隠れ蓑?」 「………そんなところみたい」 正しくは、俺を繋ぎ止め、御するための、鎖だ。 でもそんなの、言っても仕方ない。 「詳しいことを知ったら余計に、迷惑がかかるかな。でも、宮守君の哀しそうな顔は見たくないなあ」 槇の言葉に胸がツキンと痛くなる。 俺だって槇のそんな哀しそうな顔は見たくない。 哀しい顔をさせる自分が心苦しい。 「申し訳ないことを言うとね、私、宮守君の家って、苦手なんだよね。怖くて、なんかずっしりしてて、冷たい感じ」 ちょっと困ったように、眉を寄せる。 力なんてないって言う槇だけど、本当にないのだろうか。 俺は、そんなの、全然感じてなかった。 「特に、前にも言ったっけ、一矢さんが完璧すぎて苦手。イケメンで優しくて、作り物みたいに完璧だから、苦手」 「………」 「さっき、一矢さんの名前を出した時、痛そうな顔したね。いつも嬉しそうなのに」 声を出しそうになって、唇をきゅっと噛む。 でも黙っていても、こんな反応をしてしまったら、何かあったと丸わかりだろう。 槇も眉を寄せたまま苦笑して手を合わせる。 「おうちやご家族のこと、悪く言ってごめんね」 俺はただ黙って、首を横に振る。 槇は、何も悪くない。 そして、俺を心配してくれている。 「大丈夫。心配してくれて、ありがとう。槇って、すごいな。すごく、周りを見てるんだな」 「用心深くて疑り深くて性格悪いからね」 そんな風に自嘲して言うけれど、槇は優しい。 性格悪くなんて、ない。 人よりも深くものを見て、判断してるだけだ。 俺と違って注意深く、慎重なだけだ。 「何があったか、言えないかな?」 また、首を横に振る。 でもだからこそ、槇を巻き込むわけにはいかない。 「本当に、聞いてもたぶん、私にはどうすることも出来ないんだろうね。残念だけど」 槇が少しだけ哀しそうに、目を伏せる。 でもそれから、真面目な顔で真っ直ぐに俺を見つめる。 「でも、逃げたいなら逃げるお手伝いぐらい出来ると思うから言ってね」 「………逃げるって」 「死ぬ気になれば、逃げられるとは思うよ。ただ苦労はするんだろうけど。住む所とかお金とか、友達ともそうそう会えなくなっちゃうだろうし。逃げなきゃよかったと思うかもしれない」 それは、最初逃げ出した時に、天にも言われたことだ。 逃げて、どうするのか。 俺に逃げることは出来るのか。 お前に、何が出来るのか、と。 「でも、それでも逃げた方がマシなら、逃げればいいと思う。逃げていいと思う」 逃げていい。 そういえば、前に儀式に悩む俺に、槇はそう言っていたっけ。 嫌なら逃げてしまえと。 「前にも、言ってたな」 「うん。私は、抱えきれない荷物は放り出してしまえばいいと思うから」 「………」 でも逃げて、どうなるだろう。 逃げたら、俺の代わりに栞ちゃんか、五十鈴姉さんが奥宮になる。 そして岡野や槇にも害が及ぶかもしれない。 家の人たちにも、たくさん迷惑をかけるだろう。 俺一人のために、多くの人が、苦しむことになるかもしれない。 「それが、多くの人に迷惑をかける、ことでも?」 「自分のことを幸せにしてから、人のことを考えるべきでしょう?どうして自分が幸せになれないのに、他人のことを考えなきゃいけないの?」 「………」 自分が幸せになってから、人の幸せを考える。 そんなの、考えもしなかった。 誰も言ってくれなかった。 みんな、俺が奥宮になれば解決だといった。 胸が苦しくて、また泣きそうになる。 目をぎゅっとつぶって、涙がこぼれそうになるのを、我慢する。 「………本当に、槇って、すごい」 「ありがとう」 結局出来ないのだとしても、でもそう言ってくれただけで嬉しい。 自分のことを考えろと、言ってくれただけで十分だ。 誰もそんなこと、言ってくれなかった。 「………他人、か」 槇がぽつりと、漏らす。 目を開けると、少し難しい顔をして地面を見ている。 「槇、どうしたの?」 名前を呼ぶと、槇が顔をあげて、じっと俺の顔を見る。 「宮守君は、自分のことより、人を大事にするよね」 「そんなこと、ないけど」 俺は、自分のことでいっぱいいっぱいで人を気遣う余裕なんてない。 人のことなんて、考えられもしなかった。 栞ちゃんや、双兄が苦しんでるなんて、気づきもしなかった。 「………そうか、だから彩と私なのか」 「槇?」 槇がきゅっと、そのふっくらとした唇を噛む。 何がなんだか分からずもう一度呼ぶと、槇はすぐににっこりと笑った。 「なんでもない。宮守君、人のことなんて考えなくていい。自分のことだけ考えて。誰かの迷惑なんて考えない、そんなのいらない。自分のことを考えて」 「………」 「宮守君は、それくらいでちょうどいいから」 元々俺は、自分のことしか考えてない。 だから、その言葉には頷けない。 でも槇の優しい言葉を否定することも出来ない。 黙り込む俺に、槇は穏やかな顔をしたまま問う。 「誰か、頼れる人は、いない?力になってくれる人は、いない?」 「………」 一瞬脳裏に浮かんだのは、優しい眼鏡の人。 でも、あの人を巻き込むわけにはいかない。 宮守の家に関わりがある分、岡野や槇よりも、頼ったらいけない人だ。 「一矢さんや双馬さんや、四天君も駄目なんだよね」 今までずっと頼ってきた人たち。 信じ、頼り、全てをゆだねてきた人たち。 でも、もう、それは出来ない。 一兄と天は俺が奥宮になることを望んでいる。 双兄は分からないけれど、俺に手を差し伸べることは出来ないだろう。 「………槇から見て、双兄と四天は、どう思った?」 一兄を怖いと言った槇。 そういえば前にもそんなことを言っていたっけ。 そんな前のことじゃないのに、もうずっと遠いことのような気がする。 「二人とも、怖い感じはしたし、苦手ではあるよ。でも、一矢さんほど、作り物の感じはしなかったかな。私のたんなる感想だけどね」 「………そっか」 一兄はずっと嘘をついてきた。 俺を騙してきた。 優しくて厳しくて、でも頼もしい憧れの、誰よりも大好きな兄だった。 「作り物、か」 一兄は嘘をついていた。 双兄も嘘をついていた。 天は嘘をつかないと言っていた。 それこそが嘘かもしないけど。 「………」 そういえば、天の言葉で気になることがあったんだっけ。 天が俺を志藤さんに会わせようと思った理由。 双兄と黒輝が、天を選べと言った理由。 一兄と天を選ぶことによる違い。 それは、なんだ。 「宮守君?」 「………あ、ごめん。なんでもない」 天は、まだ隠していることがあると言った。 全て、いずれ話すと言った。 天が、話す全てとはなんだ。 それが俺の状況を好転させてくれるものであるわけではないだろうけれど、でも、知りたい。 どうせ、ここまで、知ったのだ。 もう知らない頃には戻れない。 嘘でよかった。 でも、もう嘘は信じられない。 なら、全てを知りたい。 槇のように、目を開かなきゃ。 皆の考えてること、皆のしようとしていること、俺を取り巻く嘘と本当。 「宮守君の家の事情は、分からないし、何も出来ないと思う。でも、出来ることがあるかもしれない。何かあったら言ってね」 「………うん、ありがとう」 「絶対だよ。迷惑なんかじゃない。言ってくれたら嬉しい。彩も………」 「岡野も?」 少しだけ言いよどみ、困ったように笑う。 「そうだな、出来れば、彩の前に私に言ってね。彩は嘘つけないから。それから宮守君、自分のことだけ、考えて。自分がしたいことだけ、考えてね」 確かに、岡野が知ったら、藤吉と佐藤に殴りかかっていきそうだ。 優しくて強い子、だから。 それを想像して、ちょっと笑ってしまう。 「ありがとう、でも、大丈夫だよ。大したことないから」 「そう言うとは、思ってたけどね」 「大丈夫。自分で、乗り越えるから。でも、何かあったら、相談させて」 寂しそうに、槇が笑う。 でも、だって言う訳にはいかない。 優しさは本当に嬉しいけれど、嫌な思いをさせるだけだ。 槇が言うとおり、俺の家の事情で、力になってもらうことは、出来ない。 でも、槇には、そんなことで苦しんでほしくない。 槇にも岡野にも笑っていてほしい。 ただ、最後まで、一緒にいて、笑っていてほしいんだ。 「槇と、岡野は今まで通りいてくれると、嬉しい。これまでと同じように、俺と話してほしい。友達で、いてほしい」 槇はにっこりと、本当に優しく笑う。 「勿論友達だよ。私ね、疑り深いけど、一回信じたら、その人のこと大事にするから。彩と宮守君は、とても大事な友達」 その言葉が、何より、今の俺の力になる。 嘘じゃない、信頼と信愛。 それだけが、俺のよすが。 「ありがとう。すごく嬉しい。ありがとう、槇」 岡野と槇と、志藤さん。 それでも、三人の友人は、残った。 俺には、まだ残されている。 俺がしてきたことは、全部嘘ではなかった。 世界は嘘だったかもしれないけど、残ったものに、本物はあった。 「来た。笑って、宮守君。いや、笑わなくていいのか。笑った方がおかしい。いつも通りにね」 「え」 槇が顔を上げて、屋上の入り口の方に視線を向ける。 つられて顔を上げると、高いところでお団子を結った女の子が大きく手を振っている。 「おーい!何してるの」 ざわりと、背筋に寒気が走る。 なんでここにいるって、分かったんだ。 にこにこと楽しそうに笑う佐藤が、小走りに駆け寄ってくる。 そして自然と結界が張ってある手前で、表情一つ変えずに立ち止まった。 「こんなところで何してるのー?」 「元気のない宮守君に、差し入れしてたの」 「え、なになに、なにそれ」 槇がいつも通り、本当にいつも通りににっこりと笑って、俺が手にしていたセロファンの包みを指さす。 「彩のクッキー。あ、彩には内緒だよ」 「いいなー、それ私も食べたい」 「駄目だよ、これは宮守君だけのもの。ね、宮守君」 槇に話を振られて、俺は慌てて頷いた。 「う、うん」 落ち着け落ち着け落ち着け。 槇がこんなに落ち着いているのに、俺が焦ってどうする。 今の槇の話を、知られるわけには、いかない。 「元気出してね、宮守君。元気ないと、彩が心配する」 「………うん」 槇が優しく笑って、ぽんと肩を叩く。 触れられた部分が、じんわりと温もりを持つ。 「さて、そろそろ昼休み終わっちゃうね。帰ろうか」 「うん」 「いこ。ほら、千津も」 結界を解いて、三人で歩き出す。 すると、ぐいっと腕を後ろからひっぱられて引き寄せられた。 「結界なんて張って、何話してたの?」 耳元でささやかれる言葉に、心臓が跳ね上がる。 「………話の流れで、槇が張ってくれって。後は、元気がないって。心配してるって」 「そうだよ。三薙、元気がないよ!暗いんだからー。もっと元気よくいこうよ!」 納得したのかしないのか、佐藤が強く俺の背中をバンバンと叩く。 緊張が全身に走るが、特になにかされた訳ではない。 「二人とも心配しちゃうよ。それにチエは勘がいいからなー。余計なこととか話して、余計な心配させちゃだめだよ」 唇を歪めて、獲物を狩る肉食獣のように笑う。 「二人が、平田みたいに、余計な不幸に見舞われないようにね?」 「………」 じわりと、手に汗を掻く。 駄目だ、今の会話は絶対に、知られてはいけない。 二人は、俺が、絶対に守る。 |